東京五輪真っ最中! カフェインを有効活用できる海外アスリートたち
前回は、エルゴジェニックエイドの中でも最も多いといってよいぐらいエビデンスが豊富な「カフェイン」について、とりわけ即効性があるにもかかわらず、わが国では食品として販売できない形態で口の粘膜から吸収させる舌下剤(バッカル剤)についてお話ししました。
カフェインについて、国内ではネガティブに捉えられていることもあって、あまり利用されていないのではないでしょうか? ところが、2018年に公表された国際スポーツ栄養学会(ISSN)の「運動およびスポーツニュートリッションの最新レビュー:研究と推奨」1)によると、パフォーマンス強化において有効性を裏付けるエビデンスが強力、かつ明らかに安全としたサプリメントの一つとされています。
さらに、国際オリンピック委員会(IOC)の「エリートアスリートとサプリメントに関するコンセンサスステートメント」2)でも、カフェインの有用性と安全性はお墨付きです。東京オリンピックでも海外選手は試合直前にカフェインの舌下剤を使って、日本人よりメダルを多く勝ち取っているかもしれません。
カフェインの摂取効果を最新報告からひも解く
今回は、今年初旬に公表されたISSNのカフェインの効果と安全性のエビデンスをまとめたポジションペーパー「International society of sports nutrition position stand: caffeine and exercise performance」3)の内容を中心にお話したいと思います。
ポジションペーパーによると、カフェインはあらゆる競技において即効的に効果を示しますが、すべての競技で効果が確認されているというわけではありません。一般的に筋持久力、スピード、筋力、スプリント、ジャンプ、投てき競技などで2~4%程度のパフォーマンスアップが認められています。特に安定的に効果が認められているのは、サイクリング、マラソン、水泳などの有酸素系の持久系競技です。数多くのメタ解析でも、その効果は盤石です。
最適な摂取量は、低量摂取(2、3~6mg/kg体重もしくは100~300㎎程度)であらゆる競技において効果が認められます。高量摂取(>9mg/kg体重)では副作用も多く、効果は減少してしまいます。カフェインの副作用で特にアスリートが気を付けなくてはいけないのは過剰摂取によって起こりうる小刻みな震え(jitter)で、手先のスキルが重要なアスリート(例えば、テニスやバイアスロン)にはお勧めしません。
一般的にカフェインは「運動をする60分前に摂取するとよい」とされていますが、製品の形態にもよります。前回お話した吸収のデータにもあるように、カプセルよりも口腔内粘膜から吸収させるガム(カフェイン含量100㎎~300㎎)のような物の方が即効性はあります。
例えば、Patronら4)の報告では、男女20名のエリートサイクリストにおいて30㎞のタイムトライアルの10㎞地点でカフェインの入ったガム、もしくはプラセボガムを噛ませて比較したところ、最後の10㎞におけるパワーアウトプットやゴール地点でのスプリントパワーが有意に増加しました。
海外にはカフェイン入りのマウスリンス(カフェイン含量1.2~2%)もあって同様の効果が認められています。なんと、鼻腔内にスプレーする製品もあるようですが、効果の程は不確かです。
昨今流行りのエナジードリンクやプレワークアウト用サプリメントにもカフェインが入っている(40㎎~325㎎)製品も多く、それらにはエネルギー源である糖質が多く含まれているものが大半で、エナジードリンクとしての効果検証が数多く行われています。しかし、その他の成分(アミノ酸やビタミンB群など)も同時に入っているものも多くあって、それらの総合的な効果ではあるものの、さまざまな競技においてパフォーマンスアップが確認されている一方、否定的な結果も出ています。また、エナジードリンクの飲み過ぎは知らず知らずのうちにカフェインの過剰摂取になってしまいますので、気をつけてください。実際にアメリカで26歳の男性がエナジードリンク10本飲んで、心臓麻痺で亡くなっています。
カフェインの主な効果はトレーニングをしていない一般の人でも、認知機能(注意、集中、警戒心)改善です。アスリートでも同じです。睡眠不足の状態下において警戒心を向上させ、集中力や運動パフォーマンスに効果があります。逆に、カフェインが原因で睡眠不足になってしまう場合もありますので、効果とリスクを上手に使い分ける必要があると思います。
カフェインには利尿作用があって、摂取すると脱水状態になるからと思って敬遠するアスリートも多いのではないでしょうか? 確かに軽度の利尿作用はありますが、効果が確認されている範囲(100~680㎎)の摂取では尿量に統計的な違いは認められず5)、運動のパフォーマンスや健康に有害とされる電解質の不均衡を起こすというエビデンスもありません。
ドーピング的観点からお話しますと、カフェインはIOCがコンセンサスステートメント2)で数少ない効果のあるサプリメントとして推奨しているので、疑う余地はありません。もちろんですが、アンチ・ドーピング認証を受けた製品を選択する必要はあります。世界アンチ・ドーピング機構(WADA)が2004年までカフェインを禁止リストに掲載されていて現在は監視リストに載っていることは前回ご紹介しましたが、全米大学スポーツ協会(NCAA)ではいまだカフェインは禁止物質とみなされており、尿中濃度が15㎍/mlを超えると違反になります。
日本のスポーツシーンにおいても、もう少し市民権があっても良いと思うカフェイン。即効性のある舌下剤(要法改正)も含め、日本人アスリートにアドバンテージを提供できるエルゴジェニックエイドを作ることを心掛けたいと思います。少なくとも海外のアスリートはスポーツ栄養学を駆使して、一秒でも一歩でも先んずるために愚直に戦っています。
【参考文献】
1) Kerksick et al.: ISSN exercise & sports nutrition review update: research & recommendations., JISSN, 15(1) 38 (2018)
2) Maughan et al.: IOC consensus statement: dietary supplement and the high-performance athlete., Int J Sport Nut Exe Metab, 28(2) 104-125 (2018)
3) Guest et al.: International society of sports nutrition position stand: caffeine and exercise performance., JISSN, 18(1) 1 (2021)
4) Paton et al.: Effect of caffeine chewing gum on race performance and physiology in male and female cyclist., J Sports Sci, 33(10) 1076-83 (2015)
5) Falk et al.: Effects of caffeine ingestion on body fluid balance and thermoregulation during exercise., Can J Physiol Pharmacol, 68(7) 889 (1990)
青柳 清治(栄養学博士、一般社団法人 国際スポーツ栄養学会 代表理事)
米国オキシデンタル大学卒業後、㈱協和発酵バイオでアミノ酸研究に従事する中で、イリノイ大学で栄養学の博士号を取得後、外資企業で栄養剤ビジネス、商品開発の責任者を歴任した。2015年にウェアブランド「アンダーアーマー」の日本総代理店と務める㈱ドームのサプリメントブランド「DNS」の責任者を務める。2020年より㈱DNSでサイエンティフィックオフィサーを務め、2023年3月より一般社団法人 国際スポーツ栄養学会代表理事。