城西大学駅伝部との共同研究

ご存じの方もいるかもしれませんが、私が教べんを執る城西大学は、スポーツ活動が盛んです。中でも駅伝部は強豪として知られています。

早稲田大学時代に箱根駅伝総合優勝(1993年)を経験し、実業団、世界でも活躍した櫛部静二監督の下で着々と強化を図り、2023年の箱根駅伝には2年ぶり17回目の出場を果たしました。

9位でゴールしたことにより来年のシード権を獲得、5区を走った山本唯翔選手は区間新記録をマークと、チーム・個人で上々の成績を収めることができました。

駅伝部部長として、彼らの頑張りを間近で見てきた私にとってうれしい結果になりました。来年はさらなる飛躍を期待しています。

今回は、読者の方にとって関心が高いスポーツ分野とコラーゲンペプチド(CP)の摂取について解説していきます。紹介する内容は、私たちの理論と駅伝部の選手たちとで一緒に作り上げたエビデンスになります。

私たちのこれまでの研究や多くの研究者が見出した成果から、CPを摂取することで、軟骨細胞が活性化され、膝の痛みなど関節症の改善に効果がある可能性が示唆されてきました。メカニズムの一端については、前回触れた通りです。

そして、さらなるメカニズムの解明、CP摂取の有効性を図るためには、ヒト試験をおこない、どのような影響があるのかを検証する必要があります。

持久系スポーツの選手は、長時間の走行によって膝への負担がかかり、ケガのリスクは高まってきます。CPが持つ機能性は、駅伝部の選手たちが抱えるパフォーマンス低下のリスクを解消する可能性があり、親和性は高いと考えていました。

研究を進めるにあたって、櫛部監督(論文共著者の一人)と話をする中で、「膝だけではなく、足底筋や足首、アキレス腱などを痛めるケースが多い」と聞きました。CPは筋損傷への保護特性もあり、筋肉や腱の痛みが改善される可能性もあるとみていたことから、副次的にデータを収集することにしました。

CP摂取による駅伝選手の膝痛軽減※)

<被験者>
駅伝部に所属する18~21歳の健康な大学生51名が対象。被験者をCP(豚皮由来)摂取群26名、プラセボ(マルトデキストリン)摂取群25名を無作為に割りつけた(試験の途中で、CP群1名、プラセボ群4名が脱落し、最終的に被験者は46名)。

腎臓、肝臓、心臓疾患、重篤な病歴のある者、豚肉、ゼラチンに対するアレルギーがある者、試験参加登録の3カ月前にCPを摂取する者は除外した。

<測定項目>
ベースライン時(試験実施・摂取前)、摂取から4週目、8週目で、「JKOMJapan Knee Osteoarthritis Measure)スコア」、「視覚的評価スケール(VASVisual Analogue Scale)」の数値を用い、両群を比較した。

JKOM:膝の状態を示す指標。被験者の主観的評価に基づく自己記入式で、生活シーンごとの項目からなる質問事項(1~5点)に答える。総合計の数値が高いほど、膝の状態が悪い。

VAS:痛みのある部位、期間、重症度を主観的に評価。継続的な記録によって主観的痛みの変化を把握することができる。

<試験結果(図1)
(JKOM総スコア)ベースライン時で、CP群とプラセボ群の間で有意な差はなかったが、8週間後では、CP群とプラセボ群ともにベースライン時のスコアと比較して有意に減少していた。また、4週間後では、CP群はプラセボ群に比べて有意に低かった。

(JKOMの各スコア)
4週間後のJKOMⅡ(膝の痛みやこわばりなど)、JKOMⅢ(日常生活における膝の状態など)、8週目のJKOMⅢのスコアは、プラセボ群に比べて有意に低下した。

CP群とプラセボ群では、すべての時点において、JKOMⅣ(活動状態)、JKOMⅤ(健康状態)のスコアに有意差はなかった(変化はなかった)。

(VASスコア)
いずれの群においても、4週目、8週目のVASスコアはベースライン時と比較して変化はなかった。さらに、CP群とプラセボ群の間には、すべての時点において差がなかった。

図1 CP摂取量によるJKOMスコアとVASスコア

CP摂取による駅伝選手の筋損傷軽減の可能性※)

<被験者>
前項と同じ。

<測定項目>
ベースライン時(試験実施・摂取前)、摂取から4週目、8週目で血液を採取し、炎症、筋損傷、安全性の指標となる以下の成分の数値を用いて群間比較した。

(炎症に関する指標)
・腫瘍壊死因子-α(TNF-α)
・インターロイキン-6(IL-6)
・C反応性蛋白質(CRP)

(筋損傷に関する指標)
・3-メチルヒスチジン(3-MH)

(安全性に関する指標)
・血中尿素窒素(BUN)
・乳酸脱水素酵素(LDH)
・クレアチンホスホキナーゼ(CPK)
・クレアチニン
・アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)
・アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)

<試験結果(図2)
IL-6、3-MHの血清濃度は、プラセボ群でベースラインから4週目に有意に上昇した一方、CP群では同時期、IL-6、3-MHの値に有意な変化はみられなかった。血清濃度に変化がみられないということは、CPが炎症、筋損傷に関連する因子を抑制している可能性を示す。

安全性評価の一環として、血清中の様々な生化学的パラメータを分析したところ、8週目のBUNはCP群で有意に増加し、プラセボ群では増加しなかった。CP群のベースラインから4週間後のBUNは、プラセボ群に比べ有意に高い値を示した。

また、ベースラインから8週間後のクレアチニンは、プラセボ群では有意に増加したが、CP群では増加しなかった。

これらのデータは、CPサプリメントの安全性を実証するもので、いずれの有害事象もCPまたはプラセボの摂取に関連したものではないと考えられた。

図2 CP摂取量による血清パラメーター

運動とCPは好相性か、膝関節の健康保持はパフォーマンスアップに!?

駅伝部の選手たちの協力によって、CPの継続的な摂取が膝の痛みやこわばりといった不快感を改善することを示唆するデータが得られました。また、CPの摂取が炎症を抑制し、筋肉組織の損傷を軽減する可能性があることも示唆されました。こちらは、本題ではありませんでしたが、今後の課題として進めていきたいと思います。

膝関節を健康に保つことは、持久系スポーツ選手だけに問われることではありません。どの競技でも、試合の最後まで好パフォーマンスを維持するだけの体力をつけるために、「走る」のではないでしょうか。

走ることは運動の基本で、全競技に共通する動作といえます。自身の競技以外でも、膝への負担がかかる、もしくは蓄積される場面があると考えれば、CPの持つ機能性は運動(競技問わず)と非常に相性がいいといえます。

さらにいえば、バスケットボールやバレーボール、体操など「跳躍」が含まれる競技では、度重なるジャンプ→着地によって、膝への負担はかかります。ケガ予防・保護といった観点からCPを摂取し、リスクを減らすことにもつながるかもしれません。

膝関節の健康に対するCP摂取の効果については、さらなる研究が必要であると思われます。研究結果は、CPが運動によって悪影響を受けた膝関節の改善に貢献できる栄養補助食品であることを示唆しているので、いろいろな競技で活用されれば、選手の健康に役立つと考えています。

【参考文献】
※) Yoshifumi Kimira, Hiroshi Mano etal.: The Effects of Collagen Peptide Supplementation on Knee Joint Health -A Double-blind, Placebo-controlled, Randomized Trial in Healthy University Students Belonging to a Running Club, Jpn Phannacol Ther., 47(9) 1455-1462 (2019)

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コラーゲン研究の第一人者である真野先生、君羅先生に質問がある方はこちらからお問い合わせください。
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真野博、君羅好史(城西大学) 文・構成:編集部

真野博(城西大学 薬学部 医療栄養学科 教授 / 農芸化学博士)
長年、コラーゲンペプチドの運動器への作用に関する研究を進め、数多くの研究成果を残した。日本におけるコラーゲン研究の第一人者。

君羅好史(城西大学 薬学部 医療栄養学科 助教 / 食品栄養学博士)
東海大学体育会から東京農業大学大学院へ進むと研究者へ転身し、多くの研究に携わる。真野教授とともにコラーゲンが持つ作用の真相究明にあたる。