神戸女子大学・坂元美子先生による「Z世代におくるスポーツ栄養講座」。第3回は「小学生年代の食の問題点」をテーマにお送りする。
小学生年代特有の「こ」食が問題視されている。本格的に成長を迎える中学生、高校生年代に備え、成長の妨げになるリスクをしっかりと押さえておきたい。
Z世代:欧米で10~20歳を指す言葉として使われている。スポトリでは「成長世代」と同義と捉えて使用する。
成長の妨げになる5つの「こ」食
今、栄養士の間で話題になっているのが小学生の「こ」食。これは、5つの「こ」の漢字に当てはめて問題提起をしているものです。
1つ目は「孤食」。共働きをする親御さんが多い社会ですが、仕事の都合でどうしても帰宅が遅くなり、出来合いの物をレンチンして食べたり、お子さんの食事時間に合わせて用意することができなかったりする状態をいいます。
規則正しい食習慣を身につけたい時期ですが、お子さん一人の食事となり、食べる時間がバラバラになったり、バランスの良い食事をとることが難しくなります。
2つ目は「個食」。例えば、おじいさんは柔らかい物(煮物など)、お父さんは酒の肴、お母さんはダイエット食、お子さんは好きな物と、家族そろって食卓を囲むことができているものの、それぞれで食べる物が異なる状態をいいます。
3つ目は「固食」。これは、「こり固まった物を食べる(偏食)」という意味になります。例えば、毎日の朝食が菓子パンだけ、ダイエット中だから〇〇だけしか食べない(お子さんには少ない)など、食事が偏ってしまってバランス良く栄養が取れなくなってしまいます。
ちなみに、文字通り、固い物を食べることはお勧めします。固い物は自然とかむ回数が増えて、食べ物の消化・吸収を助けたり、脳の活性化にもつながります。
4つ目は「粉食」。小麦粉を使った料理ばかり食べることです。粉物の代表的なお好み焼きは具材がある程度そろっているのでまだマシですが、具材がシンプルなたこ焼きが夕食というのは栄養バランスを欠くことになりますので、気をつけたいですね。
最後は「濃食」で、味の濃い物ばかり食べることをいいます。味の濃い物、特に塩辛い物ばかり食べて、それがおいしいと感じてしまうと、味つけの薄い物や食品そのものの味を感じづらくなってしまいます。
もう一つ、大きな問題として挙げられるのが化学調味料と添加物です。化学調味料はごく少量で味がつきますし、添加物は本来の味に似た物を人工的に作り出します。これらを使用した物に食べ慣れると、本来の味がわからなくなってしまうという錯覚が生まれます。
さらに、食品や飲料で使用されている人工甘味料。こちらもごく少量で味つけできるため、とても甘いのにゼロカロリー(エネルギーがない)という物があります。エネルギーが足りていないのに、甘さだけを感知して勘違いした脳が「もう満腹だから食べるのをやめなさい」と指令を出してしまいます。
小学生年代で人工甘味料に慣れてしまうと、この後の中学生、高校生でエネルギーが必要な時に適切な量を食べることができなくなります。人工的な物はとても便利で食生活にも密接していますが、体作りを考えるのであれば、小学生年代ではなるべく控えた方が良いでしょう。
「しっかり食べる」意識づけを
小学生年代でも、熱心に練習を続けている人は多いと思います。ただ、これも体の成長を考えると弊害が出てきます。
夜遅くまで練習が続く場合、帰宅時間が遅くなって食事の時間が本来睡眠をとる時間帯にかかってしまいます。そうなると、睡眠時間が削られて眠りが浅いまま起床→お腹がすいていないので朝食を抜くという悪循環に陥ります。
週末は1日で何度も試合があって、物を食べる機会が失いがちになります。お腹に物が入っていると動きが鈍くなるので、簡単な物で食事を済ませてしまうこともあるでしょう。
しかし、小学生年代のうちから、しっかり食べることを意識しておかないと、何度もいうように中学生、高校生で最も食べなくてはいけいない時期に食べられなくなります。
それから、小学生年代は味覚が確立されてきて、好き嫌いが増えやすい時期でもあります。食べ方や食べる物を意識することが大切になってきます。
今年は新型コロナウイルスの蔓延によって、かつてない状況になっています。学校が始まらなかったり、給食が提供されなかったりと、必要な栄養をとれないケースが出てきてしまいました。
「こ」食問題に始まり、今年の状況を踏まえると、小学生年代は特にスポーツを頑張っているお子さんにとって、理想的な食習慣を整えることが難しいといえます。
小学生年代は体が急激に大きくなる時期ではないので、たくさんの量を食べることがそれほど必要ではありません。「規則正しい時間に食事をする」「きちんと朝ごはんを食べる」といった基本的なところを押さえておきましょう。
また、小学生自身でバランスの良い食事をとれるようになりたいですね。最初は意識をしながらですが、それを続けていけば無意識にできるようになってくるはずです。
坂元 美子(神戸女子大学) 文・構成:編集部
神戸女子大学卒業後、仰木彬監督、イチローが在籍するオリックス・ブルーウェーブ(当時)の栄養サポートを担当。在任中に球団の栄養サポート体制を構築、日本シリーズ制覇も経験した。その後、スポーツ系専門学校を経て母校に戻り、健康スポーツ栄養学科で教べんを執る。
特に、サッカー・野球の栄養指導・サポートに定評があり、強豪校での指導経験が豊富。企業との共同研究、スポーツサプリメント開発を手掛けるなど、活動の幅は広い。プロのスポーツ現場で雇用された管理栄養士の先駆け。