神戸女子大学・坂元美子先生による「Z世代におくるスポーツ栄養講座」。第6回は「スポーツを頑張る高校生年代が抱える問題点 ~起こりうるスポーツ障害~」をテーマにお送りする。
Z世代:欧米で10~20歳を指す言葉として使われている。スポトリでは「成長世代」と同義と捉えて使用する。
競技を取り巻く環境が大きく変わる高校生
高校生は、中学生の時と比べて、大幅に競技をする環境が変わってくると思います。
練習量が格段に増えて長時間に及んだり、平日のみならず土日も練習や試合があったり、競技によってはダイエットや減量をしなくてはならないこともあります。また、スポーツを頑張るために、遠方の学校へ通うといったケースもあります。
高校生たちには、インターハイ、選抜など目標とする大会が多く、これらに出場することを励みに日々の練習に力を入れていることでしょう。ただ、頑張り過ぎてしまうあまり、生活のリズムが崩れがちになるのも確かです。
例えば、長時間の練習で帰宅が遅くなってしまい、満足に食事をしないまま睡眠に入ったり、寝る時間が遅くなることで休息が十分に取れなかったり。ハードな練習が続いていても体を休める時間がなかったり。これは、本人だけの問題ではないかもしれませんが、考える必要があります。
前回まで、「スポーツ選手としての体を作るためにはしっかりと栄養をとらなければならない」、「中学生~高校生は一生のうちで最も食べなければならない時期」と説明してきました。ハードな練習や生活のリズムが崩れることで十分に食事がとれず、体の成長に必要な栄養が不足してしまうという事態が実際にたくさん起こっています。
このような生活が長く続くと、さまざまなスポーツ障害をひき起こすことにもなります。
栄養不足からくるスポーツ障害のリスク
高校生年代では、さまざまな理由から多くのスポーツ障害が起きるリスクがあります。
ハードな練習をし続けた結果起きる「疲労骨折」、コンタクト競技では不可抗力による「骨折」が多くなってきます。持久系スポーツでは血液の材料になる栄養(鉄)不足による「スポーツ貧血」、体作りのための栄養が足りない場合、「じん帯の損傷・断裂」、「ねん挫」、「脱臼」などの関節系のケガが増えてきます。
心理面が影響して起こりうるのが「オーバートレーニング症候群」で、「もっと練習しなきゃ」「自分はもっと頑張れる」という気持ちがマイナスの方向に働いてしまい、練習ができなくなる症状をいいます。同様に、ダイエットや減量を強いられるあまり食事がとれなくなる「摂食障害」にも要注意です。
高校生年代は男女ともにホルモン分泌が高まる時期ですが、特に女子にはそれが起因となる障害もあります。今世界中の女子選手に起こりえる大きな問題となっている「女子選手の三主徴(FAT)」です。
これは、「利用可能エネルギー不足」「疲労骨折」「月経障害」の3つを指し、これらは相関関係を持っているため、問題解決には食事はもちろん、医学的なアプローチも必要不可欠になってきます。FATについては、次回以降、一つずつ解説していきます。
この問題は適切に処置しないと、成人になってからも心身に多大な影響を及ぼすことになるので、指導者や保護者の方はぜひ知っておいていただきたいと思います。
高校生年代は、生活のリズムの変化、ハードな練習、身体の成長過程(ホルモン分泌)における影響など、スポーツ障害の原因を考えて日々の練習に向き合っていくことが大切です。
坂元 美子(神戸女子大学) 文・構成:編集部
神戸女子大学卒業後、仰木彬監督、イチローが在籍するオリックス・ブルーウェーブ(当時)の栄養サポートを担当。在任中に球団の栄養サポート体制を構築、日本シリーズ制覇も経験した。その後、スポーツ系専門学校を経て母校に戻り、健康スポーツ栄養学科で教べんを執る。
特に、サッカー・野球の栄養指導・サポートに定評があり、強豪校での指導経験が豊富。企業との共同研究、スポーツサプリメント開発を手掛けるなど、活動の幅は広い。プロのスポーツ現場で雇用された管理栄養士の先駆け。