高齢者への栄養指導に対する需要の高まり
総務省統計局が「敬老の日(9月21日)」に合わせて発表した報告書によると、最新の統計値として日本の高齢者(65歳以上)数は3617万人(2020年9月15日現在)で、これは総人口比の28.7%にあたります。前年の3587万人、28.4%からさらに増加し、数・総人口比ともに過去最高の値を示しています。
こうした時代背景を物語るように、健康維持・介護予防の一環としてスポーツやフィットネスに取り組むもうとする高齢者は今後、ますます増加していくことが予測されます。国立社会保障・人口問題研究所の推計では、第2次ベビーブーム(昭和46~49年)が65歳以上になる平成52(2040)年には総人口の35.3%が高齢者になる見通しになることから、運動指導に携わる健康運動指導士をはじめ、トレーニング指導者やアスレティックトレーナーの方々の役割は、さらに重要度が増していくのではないでしょうか。
ただし、高齢者指導においては特に筋力や身体機能の低下、あるいは免疫力の低下などのリスク、加えてさまざまな既往歴を抱えていることを忘れてはなりません。健康のために取り組んでいる運動が、かえってそれを害してしまうようなことがあっては、それこそ本末転倒です。もちろんそれは、運動と密接に関連する食事・栄養面からのアプローチに関しても同様といえるでしょう。
優先順位のトップは「水分補給」
では、公認スポーツ栄養士として、運動を実践する高齢者の方々にアドバイスするとしたら、どういったことがあるかといえば、まずは一番心配なところから…というわけで、私は水分補給を第一に挙げたいと思います。それが適切にとれているかどうか、と確認すること。
例えば、午前中にフィットネスクラブで運動をする場合、運動中・運動後の水分補給はもちろんですが、実は朝ごはんの際にスープ、もしくは味噌汁など、汁気のあるものをしっかり飲んでおくことも大事であるということなどです。いわゆる、運動をする日は、脱水症状に対するリスクマネジメントとして、朝ごはんでは汁物を必ずとっておくこと。高齢者の指導においては、こうした栄養指導をしておくことが大きなポイントといえるでしょう。まさに念には念を! です。
また、朝ごはんに関していえば、「今朝はコーヒーしか飲んでない」という方も少なくありません。特に男性の場合には、前日にお酒を飲んだりしたときなど、「あまりお腹が空かないから」と欠食状態のまま、運動に出かける方もいらっしゃるのではないでしょうか。運動中に低血糖で倒れてしまっては元も子もありません。したがって、「朝ごはんは必ず食べてきてください」とアドバイスすることも大切です。もちろん、その際にはバランスよく食べればより“ベター”であることはいうまでもありません。納豆や卵などのタンパク質食品に加え、果物や乳製品などもとれたら申し分ないでしょう。
ここまで述べたことは、何も高齢者の方々に限ったことではありません。すべての運動実践者に共通する課題であることもぜひ心得ておいて、クライアントの方々に対するアドバイスとして生かしていただければと思います。
朝食と昼食を思い出してみよう
そこで、活用していただきたいのが、図の『朝食と昼食を思い出してみましょう』です。今朝の食事もしくはお昼の食事内容を細かく書き込んでいくのですが、これなら管理栄養士でなくても、基本的なアドバイスはできるはずです。
もし仮に、「あれっ、今日はコーヒーだけですか?」「今日はおにぎりだけですね」という結果だったら、何が足りないかが一目瞭然となるわけですからね。空欄が多ければ、自己反省の材料にもなり、「次回は必ず」というモチベーションにもつながっていくのではないかと考えています。
もちろん、このチェック表は運動指導者の方々ご自身の現状把握として活用していただいても結構です。指導的立場にあるご自身に、もし欠食があったりしてはクライアントへの説得力を欠くことになってしまいますからね。‟体が資本”はすべての人たちにいえること。だからこそ、その原動力となる食事はできるだけバランスよく、さらに運動量に応じて必要量をとっておきたいものです。
松本 恵(日本大学)
北海道札幌市生まれ。2004年 北海道大学大学院農学研究科応用生命科学博士課程後期修了。日本大学 体育学部 体育学科教授。管理栄養士。日本スポーツ協会公認 スポーツ栄養士。
大学では、陸上競技、柔道、トライアスロン、スキージャンプ選手などの栄養サポートに携わる。スポーツ貧血の改善・予防、試合時のコンディショニング・リカバリーなど幅広い研究をするとともに、ソチ・オリンピックではマルチサポート・ハウス ミール担当など多岐にわたり活動。