神戸女子大学・坂元美子先生による「Z世代におくるスポーツ栄養講座」。第12回は、腸内環境について考える。健康にも深く関係している腸を上手に機能させることは、スポーツを頑張るZ世代の力になる。

Z世代:欧米で10~20歳を指す言葉として使われている。スポトリでは「成長世代」と同義と捉えて使用する。

動画は、図表を交えながらの解説になります。

「栄養」とは“出す”までをいう

みなさんが何気なく使っている「栄養」という言葉。どういう意味を持つのか考えたことがありますか。「食べる」とか、「バランスのいい食事」とか、口から入ることに着目しがちになっているのではないでしょうか。ここで、栄養について少し考えてみましょう。

まず、スポーツをすることはもちろん、人間が生きていくために必要な物を「栄養素」と呼びます。これまで何度も出てきた「たんぱく質」や「炭水化物」のことですね。

栄養素は体の中で作れる物もありますが、実は作れても必要な量を作れないか、全く作れない物の方が多いのです。こうした体内で作れない栄養素を外部から補うことが「食事」で、食事から体内に取り入れた栄養素を使う(利用する)ことを「代謝」といいます。

代謝にも「同化」と「異化」があって、前者は栄養素を体の成分に合成し、後者は合成した物を分解して利用することを意味します。合成と分解いわゆる同化と異化を合わせて覚えておくとよいでしょう。

そして、代謝をした結果、作られた不要な物(尿や便など)を体外に排出します。つまり、食べて、体の中で利用して、いらない物を体外に出す。この一連の流れを栄養というのです。

その点でいえば、「呼吸」も栄養といえます。呼吸をすることで、口から酸素が取り込まれ、代謝によって水と二酸化炭素が作られます。水は血液や尿などあらゆることに利用され、二酸化炭素は吐く息で体外に排出されます。

呼吸が上手にできない状態は、栄養が良くないといえますし、体に異常をきたしているサインにもなります。

これまで五大栄養素や体の成長など、「何を口から入れればいいか」というお話をしてきました。しかし、いくら栄養素をたくさん取り込んでも、消化・吸収を司る腸がうまく働かず、便秘や下痢を起こしてしまって上手に排出することができなければ「良い栄養状態」とはいえないのです。

プロバイオとプレバイオ、両方を覚えておこう

腸の中には、1000種類以上、100兆個以上の細菌が存在しているといわれており、有用菌(善玉菌)、有害菌(悪玉菌、腐敗菌、病原菌など)、日和見菌(どちらにも属さないが、どちらにも与する)が腸内の環境を構成しています。

健康な時の腸内環境は、2:1:7(有用:有害:日和見)の比率といわれています。これは、体に好影響を及ぼす有用菌の勢いが有害菌を上回っているため、日和見菌が有用菌に手を貸すことで健康な状態に”振れている”のです。

反対に、有害菌の勢いが有用菌よりも強ければ、日和見菌が有害菌に味方するので、健康状態も悪いということになります。

健康に寄与する有用菌には「乳酸菌」「ビフィズス菌」などよく知られている菌がありますが、これらのことを「プロバイオティクス」といいます。有用菌を含む食品もプロバイオティクスに含まれます。

そして、腸内に存在する有用菌の栄養になる(活性、増殖に関与する)食品成分を「プレバイオティクス」といいます。「オリゴ糖」や「食物繊維」がこれに当たります。

栄養指導をする時、腸内環境を整えるための食品として選手に勧めるのが「納豆」です。プロバイオティクスであり、原料となる大豆には食物繊維、ミネラルが多く含まれています。

納豆菌は大豆に含まれている糖質を分解してオリゴ糖を作り、ビタミンKをはじめとするビタミン類が豊富です。このコーナーで何度も出てきていますが、本当に優れた食品だと思っています。

あと、ヨーグルトもお勧めです。今はあらかじめオリゴ糖が添加された商品もありますし、バナナなどのフルーツと一緒に摂れば、プレバイオ、プロバイオを不足なく摂取することになります。

健康維持には腸内の環境を良くする、そのためには腸内の有用菌を増やすことがカギになります。プロバイオティクスそのものを摂取することはもちろん、有用菌の成長を促すプレバイオティクスも同時に摂取すること、さまざまな食品からいろいろな種類の有用菌を体内に摂取することが効果的といえるでしょう。

腸への高い意識はスポーツシーンでも役立つ

腸内環境や腸の働きを意識することが、体にどのような影響を及ぼすのか、スポーツシーンとのかかわりも踏まえて解説していきます。

最近の研究では、腸内に存在する有用菌がビタミンB群(B2・B6・B12、葉酸、ナイアシン、パントテン酸、ビオチン)やビタミンKなど「ビタミンの産生」にも関与していることが明らかになってきました。

ビタミンB群やKは、食品からでも摂取する栄養素ですが、日ごろからプロバイオ、プレバイオを意識して腸内の有用菌を増やしておけば、常にビタミンが体内で産生されることになります。

よほどのことがない限り、体内でビタミンが不足することがなくなり、ビタミン不足によるトラブル(肌荒れ、口内炎など)の予防・改善につながります。

また、体全体の「免疫力を上げる」ことも期待されます。免疫力を上げる作用の一つとして、有用菌が腸に届き、腸内を刺激することで関連物質が分泌されるというメカニズムがありますが、生きた有用菌(生菌)のみが有効とされていました。しかし近年では、死んだ有用菌(死菌)でも同様の作用が期待でき、生菌・死菌の優劣はないといっていいでしょう。

ですから、もしプロバイオ、プレバイオ商品を買う時には、自分の体や習慣、好みに合わせて選択すると良いと思います。

部活動を頑張るZ世代の人たちにとって、腸内環境を整えて免疫力を向上させることは、風邪をひいたり、季節性の感染症にかかったりすることなく、毎日の練習に取り組めることになります。

それは結果的に練習のロスがなくなって、最も効率のよい強化につながっていきます。そして、大事な試合に体調を崩すことなく、ベストコンディションで臨むための対策としても、腸を意識することは欠かせないものになるのです。

ビタミンの産生、免疫力の向上が期待できるほか、腸の運動を促す、腸内環境を整えることは内臓の働きなどを調整する「自律神経」とも関係があることがわかってきました。

自律神経には「交感神経」と「副交感神経」の2つがあり、意識とは関係なく四六時中働いています。身体活動が活発だったり、ストレスがかかった時に対抗したりする時に働くのが「交感神経」で、安静時や体の回復時に作用するのが「副交感神経」です。

体の回復を考えた時に栄養を取らなければいけませんが、食事でしっかり消化・吸収を促す(活発な腸の運動)ためには、副交感神経がしっかりと働いている時の方が良いのです。

スポーツや運動をしている時や試合時には、交感神経が活発に働きます。一方で、競技前にエネルギー補給のための食事や何か体に入れておきたい場合、緊張状態や気持ちが前のめりの状態で食事をすると、腸の運動が鈍って下痢や便秘になる可能性が高まってしまいます。そうなると、試合中に力を発揮することが難しくなります。実際に、そういった選手を何人も見てきました。

日ごろから腸内環境を整えていれば(有用菌が多い状態を保っていれば)、腸の働きが良くなって、交感神経・副交感神経の切り替えもスムーズに行えるようになります。

そうなれば、試合前に過度な緊張をすることなく平常心が保てるようになりますし、試合でも実力をいかんなく発揮できるようになります。腸内環境を整えることは、精神面にも好影響を及ぼすのです。

現在、腸内環境に関する研究が活発に行われ、多くの有用菌が発見・開発されています。それに伴って、プロバイオ、プレバイオ商品も生まれています。腸内の有用菌は、種類が多ければ多いほど良く、数が多ければ多いほど良いので、毎日いろいろな食品から有用菌を摂取し、腸内で育てていきましょう。 

坂元 美子(神戸女子大学) 文・構成:編集部

神戸女子大学卒業後、仰木彬監督、イチローが在籍するオリックス・ブルーウェーブ(当時)の栄養サポートを担当。在任中に球団の栄養サポート体制を構築、日本シリーズ制覇も経験した。その後、スポーツ系専門学校を経て母校に戻り、健康スポーツ栄養学科で教べんを執る。
特に、サッカー・野球の栄養指導・サポートに定評があり、強豪校での指導経験が豊富。企業との共同研究、スポーツサプリメント開発を手掛けるなど、活動の幅は広い。プロのスポーツ現場で雇用された管理栄養士の先駆け。