今回は「食育の3本柱」の2つ目「共食力」を取り上げます。前回までの「選食力」で自分に合った食材の選び方をお伝えしてきましたが、今回はその選んだ食材を「どのように食べるか」という側面から食育を考えましょう。
〝食卓〟の重要な役割
以前、「心を育む食事とは?」と題し、食事の食べ方についてお話しいたしました。今回は「家族で食卓を囲むこと」という視点から食育を考えてみましょう。
「いただきます」「ごちそうさま」のあいさつ、ごはん・味噌汁・おかずを正しく食卓に並べること、正しい箸の持ち方や食事のマナー、行事食などの日本の食文化。みなさんは、いつ・どこで学んだか覚えていますか?
子どもにとっての〝食卓〟はただ食事をする場ではなく、食事を通して「心と身体を育む場」でもあります。ここでいう心とは、子どもの人格や自立心・社会性・協調性などの他、食事に関するマナーや食文化も含まれます。また、大人にとっての“食卓”は楽しみ、ストレス発散など、心の安定に大きく関与しています。
子どもも大人も、さまざまな人と食卓を囲むこと(共に食べること=「共食」)で豊かな心が育まれていきます。
一緒に食べるといいこと盛りだくさん!
一人きりで食べるごはんや、誰かと食べていても無言の食卓は大人でも侘しいものです。食事を共にすることは、その場の食事だけでなく私たちにさまざま良いことをもたらしてくれます。
①心が満たされる
「オキシトシン」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。別名を愛情ホルモン、幸せホルモンといい、主に人と人との〝ふれあい〟によって、私たちの体の中で分泌されるホルモンです。
この〝ふれあい〟には、単に体の接触だけでなく、「楽しい時を一緒に過ごす」「会話をする」「食事をする」「人のやさしさに触れる」といった「心が触れ合うこと」も含まれます。
「好きな食べ物について話す」「一緒に料理をする」「おにぎりやサンドイッチを公園で食べる」など、何気ない時間を身近な人と一緒に過ごすことで「わくわくする」「楽しい」「おいしい」と感じることがあると思います。オキシトシンは、ストレスや不安感を減少させたり、安らぎを与えてくれたりします。これが幸せホルモンと呼ばれるゆえんです。
また、お子さんがいる家庭では、「子どもが食べている間に家事や仕事を進めたい」「少し一人の時間が欲しい」と思われる方もいるかもしれません。しかし、そんな気持ちをぐっと抑えて、20~30分の食事の時間に子どもと向き合い「おいしいね」「今日はどんなことがあったの?」と話をすると、何気ない会話でも子どもにとっては心が安定する土台となり、自立心が育まれることにつながります。
②健康的な食生活に
共食することは、健康への自己評価の向上、健康で規則正しい食生活につながるなど、さまざまな報告が挙げられています。
全年代に共通しているのは「朝食の欠食が少ない」ということです。年齢別では、年齢が低いほど「食事時間が規則正しくなる」「バランスよく食べている」などの規則正しい食習慣についての評価が高く、年齢が上がるほど「心の健康状態が良い」「ストレスが少ない」などの心の健康に関する評価が高いそうです。
他には「起床時間や就寝時間が早い」「家族と共食をする機会が多い子どもは早寝早起き」との報告があり、共食をすることで食習慣はもちろん、睡眠時間など生活習慣全般で好循環が生まれることがわかっています。
参考資料:「食育」ってどんないいことがあるの?~エビデンス(根拠)に基づいて分かったこと~ 統合版@農林水産省
③マナー・社会性が身に付く
食事をした際に「この人とはもう一緒に食べたくないな」と思った経験はありませんか? どうしてそう思うのでしょうか? 「口に食べ物が入ったまま話をする」「箸やスプーンを持たない方の肘をつく」「嫌い箸(寄せ箸や渡し箸など)をする」など、目の前での行為がせっかくの楽しい食事の時間を台無しにしてしまいますよね。
また、会話の内容も大切ですね。誰かと一緒に食べることは、お互いに気持ち良く食べられるようにする「気遣い」が欠かせません。加えて、食べるものや量・タイミングも含めて自分勝手に食べられないということです。
多少の煩わしさを感じる場合もあるかもしれませんが、そうした経験を通して周りと合わせる「協調性」、他者とともに生きていくうえで必要な「社会性」を学んでいきます。誰かと一緒においしい料理を食べるのであれば、楽しく気分の良い時間にしたいものです。
特に子どもにとって誰かと食べる経験は、その後の食事スタイルへ大きく影響を及ぼします。子どもは真似が大好きです。良くも悪くも大人の姿を見て身につけていきます。まずは、子どもの手本になれているかどうか、子どもに胸を張って見せられるかどうか、ご自身の食習慣やマナーを振り返ってみませんか?
まとめ
「共に食べる」ということは当たり前のようですが、このように私たちにさまざまな点で良い影響を与えています。食事はただ食べれば良いというものではないことがわかりますね。
しかし、生活様式が変化していく中で、この当たり前は失われつつあります。次回は、共食の機会が減少している中で起きる「現代の食卓における問題」についてお話しします。