いまやプロテイン系商品は世界中で最も人気のある商材で、ブームから食文化へと定着し、形態も多様化・細分化している。
その中で、ウェルビーイング食品ブランド「サイクルミー」を展開する㈱ドットミー(東京都千代田区)は、時間帯を意識した栄養摂取をコンセプトに、おいしさを追求したプロテインドリンクを開発した。
これまでになかった良質な味と栄養価を両立させた新しい商品を提供するに至った経緯、その思いなど同社の戦略を探る。
ビッグデータを活用、時間栄養学がコンセプト
サイクルミーブランドの商品開発は非常にユニークだ。事業に参画する大手総合商社「三井物産」、大手広告代理店「博報堂」が持つ情報収集能力や分析力を駆使し、インターネット上にあふれる〝声〟から顧客の行動・心理を洞察(インサイト解析)。消費者が抱える食の課題を割り出し、向き合う。
「ビッグデータからの分析」は、顕在化していないニーズを新たに生み出すことから、ブランドの大きな強みにもなり、他社との差別化、独自性の確立につながっている。
ドットミーはコロナ禍で生活が様変わりした2021年、プロテインドリンクの開発に着手。商品企画チーム・大川さんは、当時の状況を振り返りながら提供する商品の意義を話す。
「当時、データ分析から、『(在宅ワークの増加などで)仕事とプライベートの境界があいまいになっている』という点が浮き彫りになっていました。
その中で、『朝に飲むと切り替えができる』『夜に飲むとリラックスできる』など、食品・飲料を摂取する時間帯(タイミング)で、生活のリズムを整えようとする傾向があることに気づきました。
私たちは消費者の切実な声から、朝・昼・夜で適切な栄養を摂取する、時間栄養学の概念に着目して商品を提供することで、生活サイクルの改善とまではいかないまでも、サポートができないかと考えたんです」
サイクルミーが強く意識する「時間栄養学(Chrono-nutrition)」は、体内時計を示す「時間生物学」と栄養学を融合させた考え方。
朝食による体内時計のリセット、食品成分による体内時計への影響、食事時刻による代謝への影響など、科学的見地で研究が進められている。
プロテインドリンクを含むサイクルミーの商品は、ブランド名やパッケージからわかる通り、「朝のスイッチ」「間食に」「夜のリラックスタイム」など時間帯による摂取タイミングを軸に、コロナ禍が過ぎ去った今でも、消費者の生活サイクルに寄り添う商品をラインアップしている。
消費者の声を反映したプロテインドリンクを提供
一日のスタートとなる「朝」に何を摂取するか。これはサイクルミーがブランド展開をスタートする上で重要なことだった。大切な栄養素として考えられるのがたんぱく質と食物繊維で、プロテインをメイン原料とする商品構想を立てた。
東京五輪を控えたスポーツ・運動気運、健康意識の高まりなどにより、2010年代後半からプロテイン系商品が世界市場を席捲し、それに追随する形で日本でもポピュラーになった。「とにかくプロテイン摂取」の〝弊害〟はあるものの、生活に密着している。
ただ、こうした人気の高いプロテイン系商品でも、情報分析によって課題があることを商品企画チームはつかんでいた。
「市場では、溶かして飲むプロテイン系商品が多い一方、『シェイカーを振って作るのが手間』という声が多く聞かれました。
加えて、『独特のミルク感が苦手』『粉っぽくて飲みづらい』など、プロテインを摂取したいけれど、味の部分が気になって続けられない。このような傾向があることがわかり、人気の商材ではあるものの、実は改善すべき点が多々あると気づきました。
プロテイン入りのバーやスムージーも検討しましたが、ドリンクなら水分補給や嗜好など汎用性があり、より習慣化しやすいと考えました。
2021年当時はまだ、たんぱく質を多く含有した商品もほとんどなかったので、『栄養量が多く、ジュースみたいに飲みやすい』を第一に開発がスタートしたわけです(大川さん)」
消費者が抱える多くの課題を払しょくすべく、生み出されたのが「フルーティプロテイン」だ。昨夏にはパイナップル&ゴールドキウイ、今年6月にはグレープと次々に上市し、ラインアップを強化した。
タンパク質(WPI:ホエイプロテイン アイソレート)15gを担保し、シェイカーいらずの「RTD(Ready To Drink:すぐに飲めるボトル飲料型)」に仕上げた。
「おいしさ」を最大限に引き出すための方策
ジュースのようにおいしいプロテインドリンク。プロテインを原料として見た場合、なかなか難しい点がある。
サプライヤー各社が提供するプロテイン原料に健康機能的(エビデンス)な差に大きな違いはない。したがって、原料を配合して商品を作る側は、できる限り原料費を抑えたい。実際、原料費のみを見て採用するメーカーもある。
ただ、原料費が抑えられたとして、質(味)の部分で妥協せざるを得ないケースもあり、その点を添加物などでマスキングして底上げする。簡単にいえば、臭い物に蓋をすることになるが、真のおいしさは引き出されにくい。
「おいしさ」を追求すれば当然、加工工程が増えて原料費は跳ね上がる。プロテイン原料の多くは海外製なので、昨今の円安基調、需要増による供給不足の局面であればなおさらだ。
フルーティプロテインは、おいしさを実現するための原料選びから始まったが、原料費とおいしさのバランスをどう取るのか。商品企画チームは苦悩した。
「『おいしい』を実現できるプロテイン原料を探索していく過程で、これといった物が見つからなかったのが正直なところです。そこは原料調達チームの情報力と交渉力で何とか理想の物を採用できるメドが立ちました。
私たちが使用しているプロテイン原料は、日本ではほとんど出回っておらず、特別な加工技術を使って、プロテイン感(粉っぽさやミルクっぽさ)を極力押さえた物。
原料費は通常よりも高いのですが、それでも消費者の声をダイレクトに届けたいという思いが勝ちました。やはり、おいしくないと飲み続けられませんから(大川さん)」
このことから、フルーティプロテインはもちろん、ブランド全体として質重視の考えを強く持っているのがうかがえる。
味は、相性のいい果物系に統一することで、消費者が気にする「プロテイン感」をさらに薄めた。チョコレートやイチゴミルクなど、多くの商品で採用されている味は検討しなかったという。
ビタミン豊富なパイナップル&ゴールドキウイに続いて発売されたグレープは、コンコードグレープ・巨峰・マスカットと3種の果汁をブレンドしたうえで、クリムゾン種の皮を丸ごとすりつぶした。
配合する栄養成分を変えながら彩りにも配慮することで、消費者がバリエーションを楽しめるようになっている。
既存商品とは別の独自路線を敷く大胆な発想
おいしさを追求、原料選び、彩りを含めた味の検討など、強い意思と独自性を感じられる商品だが、パッケージにもそれは表れている。
「プロテイン系商品はどうしても、ボディビルダーなどが筋肉を大きくするもので、男性が摂取するイメージが定着している部分があります。私も開発に携わるまでそう思っていました。
パッケージも筋肉をメインにした画像やイラストがよく見られますし、ひとめでわかる派手な色彩やパンチのある宣伝文句などが目立ちますよね。
でも、プロテインは筋肉だけでなく、体そのものを構成するもので、髪にも美容にも関連があって男女は関係ないと思います。
だから、私たちは全く逆の発想から、パッケージには都会的・無機質・オシャレ感を出し、商品PRの部分をあえて最小限にしてクールに見せることにしました。
男性も女性も手に取りやすい色は何なのかを分析・探索したところ、グレーが最も適していると判断し、ブランドのメインカラーに据えたんです(大川さん)」
通常、大手や売れている商品を踏襲する部分が多少あるが、既存商品をある意味無視したアイデアを具現化する。こうした挑戦的で大胆な発想はどこから来るのか? それは大川さんの前職とも関係がある。
大川さんは、開発に携わるまで生活雑貨に関する仕事をしていた。生活雑貨の業界は、季節との調和や機能性、美的感覚など、顧客によって異なる生活サイクルに最適な提案をすることが求められる。
ドットミー・井手宏臣COO(最高執行責任者)は、大川さんを商品企画チームのリーダーに抜てきした理由についてこのように語る。
「みなさんの生活リズムのスイッチを入れる。そういった観点から商品開発をする上で、食を含めた生活スタイル全体を見ることができるのは面白いし、大事なポイントでした。
食でいえば、朝・昼・夜の三食、間食などがありますが、一日のサイクルはそれ以外にもあって、むしろ食以外の部分に目を向けることで、お客様目線の商品を提供できると思ったんです」
食品業界に身を投じてから日が浅い大川さんを、原料調達・品質管理などのプロフェッショナルな人材が支える。日ごろからデータ分析、多くの議論をおこないながら、次の展開を模索しているのだ。
サイクルミーの商品は、明確なメッセージ性から健康意識の高い30・40歳代以上に引き合いが強い。フルーティプロテインは、おいしさと栄養価の高さから、特に女性に人気がある。セブンイレブンなど大手コンビニエンスストアでの販路も確立されており、目にする機会は多いだろう。
「プロテインドリンクもまだ改善の余地があって、さらにおいしく、プロテイン感のない物を作りたいと思っています。
メインは消費者・お客様。私たちは商品を通じてサポートをする立場ですから、食事としてのしあわせを後回しにすることなく、『ライフスタイルを変えずに足りないものを補う』という行動を前向きな楽しいものにしていく提案を今後もしていきたいですね(大川さん)」
多くの商品は、企画・開発する人たちの思いを乗せて消費者の手元に届く。ただ、その思いは消費者になかなか伝わりにくいものでもある。
以前から味やコンセプトが斬新と感じていたため、直接話を聞いて真意を探り、読者の参考になる情報を提供する場を設けてもらったが、数少ない本物の商品であるとの予測に狂いはなかった。
プロテインドリンクを含む他の商品も、「新しい物を作っていこう!」という気概が見え、その取り組み自体が希少だ。すでに認知されているブランドではあるものの、次にどのような視点で商品が生まれるのか注視したい。