2月26日、「国際スポーツ栄養学会(ISSN) 東京大会」がオンラインで行なわれ、 「サプリメントの効果と安全性」をテーマに海外のスポーツニュートリション関係者がグローバルスタンダードな視点から基本的な考え方や最新知見などを披露した。ここでは、海外から参加した5人の専門家がおこなったプレゼンテーションを要約する。

最初の登壇者は、ISSN共同創設者・CEOで、ノバ・ウエスタン大学のホセ・アントニオ氏。スポーツニュートリションの研究を世界的に推進するISSNが掲げる理念や定義、栄養成分を評価する基準など話題は多岐に及んだ。なお、内容は米国の国内事情、ISSNの見解に沿ったもの。海外とは異なる日本の特殊なマーケット事情(日本では商品化不可の成分がある、強力な素材を配合した商品開発に消極的 など)、研究動向を考慮して情報を精査する必要がある。

サプリ摂取を考える上で欠かせない科学的根拠

アントニオ氏はまず、米国のサプリに対して脱法・非合法まがいの物があると思われがちだが、業界を一定程度規制する栄養表示教育法(DSHEA)が制定されているため、イメージするような事実はないと否定した。

科学者の間で最も困難なことは「サプリ摂取のメリットをどのように科学的に評価するか」であり、CMなど露出度の高い商品と、それが科学的なエビデンスに基づいている物かどうかは全く別の話としている。

運動との関連においてパフォーマンスや身体組成に役立つ「エルゴジェニックエイド(スポーツサプリ)」 を評価するための指標になるのが「研究データ」だが、その中でも「動物実験の結果」なのか、「臨床現場で患者を対象に行われた結果」なのか、「トップ・エリートのスポーツ選手を対象にした実験の結果」なのか。それらをどんな人に当てはめるのかによって、だいぶ意味合いが変わってくる。

例えば、肥満の人を対象に得た研究データを運動やトレーニングをしている人に応用しても参考にはならないし、大学生を対象に行った実験結果をトップ・エリートのスポーツ選手に当てはめられるのかという解釈の違いが出てくる。動物実験の結果は作用機序を知る上では役立つものの、必ずしもヒトに当てはめられるとは限らない。ヒトを対象にした実験結果なら自然に受け入れやすいので、研究データとひと口にいっても細かく背景を読み解くことが重要と、アントニオ氏は説いている。

また、製造メーカーが公表したデータも「自社で研究した成果」なのか、「第三者が研究した成果の引用」なのかで評価は変わってくる。さらに、論文化されていたとしても「査読つき専門誌」や「学会で公表されたもの」以外では信頼度も揺らいでくる。ISSNでは毎年、エルゴジェニックエイドに関する最新研究を発表しており、成果をスポーツ科学や栄養学の専門誌に投稿・論文化している。

自分が摂取しようとするエルゴジェニックエイド、それに関連するデータが価値のある物かは、論文やデータから情報を読み取り、自分自身で情報の取捨選択をするべきとしている。

何がどのくらい必要? ISSNが示す栄養評価と摂取量

アントニオ氏は講演の中で、スポーツ・運動シーンで必要とされる栄養と推奨摂取量などを細かく解説している。

<基本的な考え方>
運動能力を高めて、トレーニング効果をもたらす要因を考えると、動物・植物から摂取できるたんぱく質、でんぷん質の多い炭水化物、野菜、果物を含むバランス食に注目する必要がある。

栄養価の高い食事をしたいのなら、ファーストフードやジャンクフードは避けたいが、たまにはいいだろう。優秀なストレングスコーチは、選手のコンディショニングや強化を考える上で、スポーツニュートリションの知識や情報に長けた専門家と組むべきである。

<炭水化物>
誰もが消費する主要な栄養素の一つである。エネルギー源となる炭水化物の摂取量は「トレーニング量による」。自転車(ロード)のように、長時間のトレーニングを行う場合、「(専門家と協議したうえで)体重1kgあたり5~10g/日」が必要。

炭水化物は摂取する物によって酸化する速度が異なるため、運動やレース中の炭水化物の補給は、複数の種類の炭水化物を摂取するのが望ましい。この観点から、米国のスポーツドリンクの中には数種類の炭水化物を組み合わせて作られている物がある。

持久系競技の選手による低炭水化物(低糖質)ダイエットはあり得ない。実施を試みたり、興味を持ったりする選手もいると思うが、良い選択肢ではないし、続くわけがない。「脂肪が燃えやすい体質になる」と一見メリットがありそうだが、そもそも試合などで炭水化物を大量に消費するため、エネルギー源として十分に使用できるよう、体内に蓄えておく必要がある。

<脂質>
一般的に、摂取カロリー/日の30%程度の摂取を推奨している。アーモンドやオリーブオイルに含まれるオレイン酸など一価不飽和脂肪酸、魚などに含まれるEPAなどの多価不飽和脂肪酸の摂取を常に意識することが重要だ。トレーニング量の多いスポーツ選手はとにかくカロリーが必要になってくるので、多価不飽和脂肪酸の摂取量を気にする必要はない。

ケトジェニックダイエットは、体組成の観点からは役立つかもしれない。ただ、ハードなトレーニングをする上で有用とされるエビデンスはない。一般的には役には立たないという見解だが、効果が認められるケースもあるため、個人の判断にゆだねられる。

<たんぱく質>
摂取量については、いつでもホットな話題だ。ISSNの研究から導き出した推奨量(2018年)は「体重1kgあたり1.4~2.0g/日」。この量は、運動をしているほとんどの人に当てはまる。

ただし、ボディビルダーなどパワー系のスポーツ選手には物足りない量なので、ハードなトレーニングを日常的に行っている人は「体重1kgあたり2.0g以上/日」摂取した方がいい。また、「体重1kgあたり3.0g/日」を超える高たんぱく食でも体組成が改善されることが(アントニオ氏が大学で行なった)研究でわかっている。

推奨量を超えて摂取しても害はなく、基本的には競技や選手の体調・体質に沿って摂取量は決めるべきだ。摂取タイミングは1日3時間から4時間おきに均等に行うのが良いだろう。運動による同化作用はかなり長く、24時間か、それ以上と続くと考えられる。

動物性たんぱく質はスポーツ選手にとっては優れている。ビーガンやベジタリアンは適切な食品の組み合わせと量でたんぱく質を補うと良いだろう。

<ビタミン・ミネラル>
ビタミン(または、ビタミンサプリ)を摂取することでエルゴジェニック効果が得られるといったエビデンスはない。ビタミンは脂溶性(ビタミンA・D・E・K)、水溶性(ビタミンB・C)に大別され、赤身の肉、果物・野菜、でんぷん質の多い炭水化物からの摂取を推奨している。ビタミンは食事から摂取できるものの、多くのスポーツ選手は不足しないようにマルチビタミンのサプリで補っている。

カルシウムや鉄、亜鉛などをサプリで補給することが絶対に必要かといわれればそうではない。多くの選手はビタミンと同様、保険として摂取している。不要かどうかは議論の余地があるが、害ではない。

<その他、考慮すべき点>
水分補給は環境によって異なる。暑い中でのトレーニングに慣れていれば、どの程度の水分を摂取すればいいのかを体感でわかっているはずだ。75分以上運動する場合、水よりもスポーツドリンク、60分以内の運動であれば水だけで十分。

栄養の摂取タイミングを考慮する必要がある。運動前・中は炭水化物とカフェイン。両者は多くのデータでエルゴジェニックな効果が示されている。運動後はたんぱく質。最も大切なのは「リカバリーをすること」で、しっかり対処できれば、翌日もハードで質の高いトレーニングを積むことができる。

十分な休息と睡眠は啓発しすぎても足りないということはないだろう。リカバリーしたいなら8時間は睡眠をとりたい。一貫してよい睡眠をとることができれば、それは最高のリカバリーになる。

エルゴジェニックエイドに関するISSNの評価、指標は「エビデンス」

スポーツニュートリションやサプリメントの世界ではデータが目まぐるしく変化する。そのため、ISSNではエルゴジェニックエイドに関して5~6年に一度、専門家による研究の成果を踏まえて見解・評価を見直している。

アントニオ氏は、「有効性と安全性を裏づける強力なエビデンスがある」「エビデンスが少なく、相違する効果が混在する」「根拠がない」と、ISSNが3段階に分けて評価した成分について解説した。

< 有効性と安全性を裏づける強力なエビデンスがある>
β-アラニン、カフェイン、炭水化物、クレアチン、炭酸水素ナトリウム、リン酸ナトリウム、水、スポーツドリンク、プロテイン、EAA、HMB(β-ヒドロキシ-β-メチル酪酸)

クレアチン、炭水化物(スポーツドリンク)、カフェイン、β-アラニンの4つは、特に強力なエビデンスがある。

β-アラニンは摂取すると骨格筋中のカルノシンが増えて、筋肉内のバッファーとして機能する。運動をすると乳酸が大量に発生するので水素イオンが発生して骨格筋のphが下がるが、それを少しでも中和できればパフォーマンスに貢献することができる。カフェインはエルゴジェニックエイドとして古くから知られていて、中枢神経系に作用するため、筋力から持久力まですべてで役に立つ。炭水化物の補給は持久力向上に役立つことがわかっている。

クレアチン・モノハイドレートは、多数のエビデンスが確認されている。除脂肪体重を増やしたり、筋力を上げたりする効果、記憶・認知機能など脳にかかわる作用もある。役立てる範囲が広いのも特徴だ。試合などに備えて筋肉中のクレアチン量を増やす「クレアチンローディング」について議論されているが、「必要ない」。習慣的に1日5gずつ摂取していれば問題ないだろう。これは、多くの人に当てはまる。ただし、クレアチンを摂取したことがない人、摂取経験なしで短期間に効果を上げたい人にとっては「有効」だ。

EAAにも触れなくてはならない。10gのEAAと10gのホエイなどのプロテインを摂取した場合、EAAの方が早期に筋肉を増強させる効果が高い(即効性がある)ことがわかっている。ただし、即効性だけに注目しても大きな意味はない。アミノ酸自体は食事から摂取できるものであり、運動後の摂取によって筋タンパク質の合成率が上がるのはプロテインでも同じことだ。

HMBは、議論を呼ぶ素材かもしれない。1日1.5g~3g摂取するとトレーニングをしていない人でも筋力が上がったというデータがあり、高齢者層やライトにスポーツを楽しむ層には有効かもしれない。「全く役に立たない」という科学的根拠には乏しい。摂取量を6gに増やしても追加の効果が得られないことがわかっている。なぜか「アンチ・HMB」層が存在する。

データ収集中ではあるものの、硝酸塩のエビデンスはかなり強いと考えている。

<エビデンスが少なく、相反する効果が混在する>
L-アラニン、L-グルタミン、アラキドン酸、BCAA、シトルリン、ATP(アデノシン三リン酸)、ホスファチジン酸、運動後の炭水化物+たんぱく質、ケルセチン、タウリン

シトルリン、グリセロールはパフォーマンスを高める可能性を示す好データがある。限定的なエビデンス、相違するエビデンスなどが入り混じっているものの、最強の選手を目指すのであれば、ドーピングの可能性を考慮しつつ、試すに値する。科学に目を向け、科学を道標にして多様なアプローチから取り組んでもいいだろう。

<根拠がない>
スポーツにおける「パフォーマンス向上」という点でいえば、アルギニン、L-カルニチン、グルタミン、イノシン、MCT(中鎖脂肪酸)、リボースが挙げられる。アグマチン、α-ケトグルタル酸、アルギニン、ボロン、クロム、CLA(共益リノール酸)、アスパラギン酸などは、「筋肉増強」という点ではエビデンスが非常に弱い。

アントニオ氏は、エルゴジェニックな効果は見込めないが、一般的に知られているものでもスポーツに転用できる余地があるとしている。グルコサミン、コンドロイチンは関節への効果が確認されているため、関節系のケガからの早期復帰、予防などを期待するのであれば試す価値がある。

「スポーツ選手の健康」の点でいえば、ビタミンC、グルタミン、エキナセア、ケルセチン、亜鉛などは免疫力を高めるわけではないが、不足している時に摂取すれば効果が見込めるかもしれない。DHA、EPA、N-3系・オメガ3系脂肪酸などは心血管系に有効で、魚を食べない人はサプリを活用してもいい。プロバイオティクスの摂取は腸の健康を守るとしている。

スポトリ

編集部