5月におこなわれたビーチバレーボールの国内ツアー戦で、ペア結成間もなく結果を出した庄司憲右(ハウスコム株式会社)、池田隼平(株式会社カブト)組。

来年に延期されたアジア大会(中国・杭州)への出場権を獲得し、世界との戦いに身を投じていく。2024年パリ五輪への出場を狙う両選手に、日々考えていること(コンディショニングなど)や社会人と競技の両立(セカンドキャリア)と多岐にわたって話してもらった。【写真提供:JVA】

インドア出身の2人、ビーチの特性は?

編集部 ペア結成後、いきなり結果を出しましたね。

庄司憲右(以下、庄司) ありがとうございます。2年後の大きな目標に向けて一歩踏み出せました。

池田隼平(以下、池田) 優勝して取材を受けられることになったのでホッとしています(笑)。

編集部 お二人ともインドアで活躍された後、活動の場をビーチへ移しました。転向のきっかけは何だったのでしょうか?

庄司 僕の地元・鳥取県はビーチが盛んな地域で、地形的にも競技をする環境は他県よりも整っていたと思います。もともとインドアで活動していましたが、先輩に誘われてビーチをやってみたらしっくりきて。自分に向いていると感じました。

インドアで一緒に戦っていた仲間たちがビーチに転向して好成績を収めていたこともあって、「よし、自分もやってみるか!」と負けられない気持ちになりました。

編集部 池田さんはいかがですか? 高校時代から春高バレーやインターハイなどで大活躍、名門・法政大学へ進学と、将来が期待される道を歩んでいました。

池田 途中まで順調にきていたんですけどね。大学2年生の時に関節リウマチ(足指のつけ根)を患いまして。プレーはおろか、日常生活にも支障をきたすようになりました。まともにプレーすることができなくなった以上、バレーボールは大学までとあきらめていました。

そんな時に、高校・大学の大先輩である朝日健太郎さん(インドア、ビーチ元日本代表、参議院議員)に誘われてビーチの試合を見に行ったんですけど、すごくおもしろそうで。見ているうちに競技に対する熱意も戻ってきて、やってみようという気になりました。それから、手術を受けてリウマチを治し、リハビリでコンディションを整え、いろいろな方のサポートもあって競技を続けられています。

編集部 ビーチもインドアも同じ「バレーボール」ですが、どんなところに違いを感じますか?

庄司 全く別の競技と捉えています。屋内・外の違いはもちろんですが、使う力も異なります。ビーチは砂の上なので、足を取られてジャンプがしにくく、すごく疲労もたまりますしね。

あと、単純に6人から2人に人数が減るというのもありますね。コート自体はインドアから全体的に1mほど狭くなるのですが、一人あたりの守備範囲は各段に広く、体力の消耗がものすごく激しい。でも交代選手はいないので、最後までプレーしないといけない。かなり過酷な競技です。

池田 インドアからビーチへ転向した時、一番苦労した点は自然の要素ですね。雨でも晴天でも基本、競技がおこなわれるので。例えば、風の強い日だとボールがとても変化しますので、サーブレシーブはより苦労しますし、コートコンディションも天候によってかなり変わってきます。とにかく、どんな状況でもうまく対応できるようにすることが求められると思います。

編集部 パリ五輪が約2年後に迫っています。新たにペアを結成した理由は何だったのでしょうか?

池田 ペアを組むのに決められたルールはなくて、実はノリで決まってしまうことがよくあります。僕らもそんな感じですね(笑)。組みたいと思う人にコンタクトして、合えばペア結成みたいな。僕の場合、「庄司さん、来シーズンどうするんですか?」って探りを入れながら徐々に距離を縮めて行ってね(笑)。

庄司 ホント、そんな感じだったよね。池田と組めたらもっと強くなれるなぁとは思っていたので、すんなり決まったというか。

編集部 ノリで決まってしまうとは意外です。ペアを組んでいない時に、お互いのプレースタイルや性格などをよく観察していたからこそなのかもしれませんね。一概にはいえないと思いますが、どちらが何を担当するとか決まっているのですか?

池田 ブロックは主に僕が担当していますし、オフェンス寄りのプレーが得意なのは確かです。スパイクに関しては状況にもよるので、どちらも対応できるように準備します。

庄司 ディフェンス面に関しては僕が主に役割を担うことになります。得意なプレーが異なっているという点では、僕らは攻守バランスの取れたペアだと思いますね。

ただ、想定した展開通りにならないのがビーチなので、2人ともスパイクやレシーブなど総合的にハイレベルなプレーができないと世界と戦えません。

過酷なビーチ、普段からおこなっていること

編集部 お二人の話からビーチが「過酷な競技」であることがよくわかりますが、どんなことに気を使っていますか? たくさんありそうですが。

庄司 交代選手がいないので病気やケガは禁物ですし、特に夏場は熱中症のリスクが常にあります。シーズン中は毎週のように試合が控えていますので、コンディション調整は特に重要になってきます。

池田 ビーチはものすごく体力を使いますし、タフな試合が続きます。ですから、それに耐えうるパワーをつけるために、高重量・高負荷のトレーニングを中心におこなってパフォーマンスが落ちないように心がけています。

インドア時代と体重はほとんど変わりませんが、筋肉の質はだいぶ変わってきていますし、砂の上での試合や練習がトレーニングにもなっているのか、ジャンプ力は以前よりも上がっていますね。

庄司 一人あたりの守備範囲が広い分、インドアよりも運動量が多くなりますので、筋肉量はより求められると思います。

編集部 一般的に肉体面のピークは25歳前後といわれますが、スポーツ科学の進歩で選手寿命がどんどん長くなっている傾向にあります。お二人はどのように感じていますか?

庄司 全く感じませんね。それがトレーニングのおかげなのかわかりませんが。衰えを感じたら引退を考えますけど、今のところは。

ビーチには西村晃一さん(インドア元日本代表)、白鳥勝浩さん(北京、ロンドン、東京五輪ビーチ日本代表)をはじめ、40歳代でもトップクラスの実力を持った選手がいらっしゃいますので、弱音は吐いていられません(笑)。

池田 僕も今のところ、特に不安を感じていません。海外のトップ選手は30歳以上がほとんどで、東京五輪でも40歳代のペアが好成績を収めていました。砂の上でケガの危険性もそれほど高くないので、ビーチは長期間続けられる競技ともいえますね。

編集部 長く現役を続けるためにもコンディショニングは必要不可欠になりますが、過酷な競技ゆえにニュートリション(食事・栄養摂取/サプリメント・ドーピング)はカギになると思います。お二人はどのように捉えていますか? まずは食事・栄養摂取について。

庄司 実は今まで気にしたことがないんです。食べたい物を食べて、トレーニングをしてという感じで。

ただ、今は食事に関して、妻(元ビーチ選手)に管理してもらっているというか、お任せしています。妻は現役時代、その点をすごく気遣ってプレーを続けていたので、あまり気にかけていない自分との意見の違いから、ちょっとしたイザコザに発展してしまうこともあります(笑)。

池田 僕も庄司さんと同じで、好きな物を好きなだけ食べています。プロテインとか、スポーツ選手の定番といわれる物を摂取する機会は今までありませんでした。

編集部 池田さんは全国屈指のスポーツ強豪高校出身なので、栄養コーチングを受けている印象がありますが。

池田 畑野久雄先生(鎮西高校元監督:全国制覇7回、準優勝8回を誇る高校バレーボール界の名将)からは技術指導や人間教育などを受けましたが、食事・栄養に関していわれたことがないですし、専門家もついていませんでしたね。トレーナーはいましたけど。

編集部 庄司さんも?

庄司 僕も特にコーチングを受けたことはありません。

編集部 以前、2012年ロンドン五輪で銅メダルを獲得した女子日本代表・眞鍋正義監督から「食事でコミュニケーションを図って雰囲気づくりをしたり、専門家にコーチングをしっかりやってもらったりしたことがメダル獲得につながったのは間違いない。食事・栄養も重要な戦略の一つとして捉えていた」と、うかがいました。世界と戦うために、やはりその点は重要になってくるのではないでしょうか。

庄司 そうですね。取り入れるべきことがあれば、検討してみたいですね。

編集部 サプリ・ドーピングに関してはどのように考えていますか? 周辺がいろいろと騒がしい状況ですが。

池田 サプリは先輩からいただいて試したことはあります。ただ、効果が見込めるほど継続的に試していないからかもしれませんが、体感がなかったというか。今のところ、パフォーマンスが変わることなくプレーできているので、必要と感じたら摂取を考えてみます。

口にしている物でいえば、薬に関してはかなり気をつけていますね。国立スポーツ科学センター(JISS)には、薬などの安全面に関する問い合わせ窓口があり、何かあった場合は相談するように徹底しています。安心してプレーするために、公的機関からの情報や指示はとても頼りになります。

会社には素晴らしいお手本(白鳥選手)がいらっしゃいます。コンディショニングにかなり力を入れているのを見ているので、今後のことも考えていろいろなことを吸収していければと思っています。

庄司 僕は、サポートを受けているメーカーからスポーツドリンクや疲労回復系サプリなどを提供していただいています。摂取の安全性(ドーピング物質の混入有無)については、メーカーから真っ先に説明を受けますので、使用するにあたっての不安は特にありません。

スポーツ選手と社会性

編集部 コンディショニング以外でも長く現役を続けるためには生活も考えなければなりません。お二人は企業に所属して生活の基盤を整え、競技との両立を図っています。どのような生活を送っているのですか?

庄司 池田とは所属が違うので変わってきますが、僕は週2~3回出社して、残りは練習に当てています。練習の日は、午前中にボールを使った練習、午後はウェイトトレーニング、終了後はケアと、ある程度形が決まっていますね。

池田 僕の場合は、会社から全面的に応援していただいて、他の社員の方からも理解してもらっていますので、ビーチのために時間が使えています。なかなか理解されるのは難しい時代でもあるので、とてもありがたいことです。

編集部 就職(所属)先はどのようにして決まったのですか?

池田 スポーツで一定以上の成績を収めた選手を対象にした就職支援サービスがあり、僕はそれを利用しました。求人を出している企業はいずれもスポーツへの理解が深く、何とか盛り上げていこうという機運が高いですね。

弊社(の社長)はビーチヘの思いがとても強いので、そういった面で就職がうまくいった点はあると思います。スポーツ事業部も新設されたことですし、例えばビーチ関連のイベントを企画・運営するなど、企業に所属しながら僕にできることを考えていきたいですね。

編集部 庄司さんはいかがでしょうか?

庄司 僕は、不動産会社の面接を受けて就職しました。家庭もあるので、競技で結果を出すのと同じくらい将来の生活が大事です。東京五輪が終わって、ある意味スポーツ界がピークを迎えたのもあって余計にその思いは強くなりました。

不動産業界を選んだ理由は、国内外へ遠征に行くスポーツ選手たちの住居を確保したり、外国進出を図ろうとするスポーツ選手に住宅の紹介をしたり、今まで培ったことを形にできると思ったからです。将来的には、スポーツ選手専門の不動産仲介者になれればと考えています。

そのためにも、まずは宅地建物取引士(宅建)の資格を取ることですね。競技を続けながらなので難しいと思いますが、資格が取れれば仕事の幅が広がりますし、経験も積めるので挑戦していきます。

編集部 スポーツ選手は「ここぞ!」といった時の勝負強さとか、苦難に立ち向かう精神力とか、社会でも必要とされるモノを持っていますよね。営業とか向きそうですし。

庄司 スポーツ選手の内面をわかっていただいたうえで、池田も僕も(企業に)評価していただいたのだと思っています。

編集部 お二人のさまざまな面をうかがってきましたが、最後にパリ五輪への思いを聞かせていただけますか?

庄司 大きな目標はもちろんパリ五輪ですが、その過程でポイントになる大会・試合を設定して、自分たちの現在地を確認するようにしています。世界ツアーにもエントリーしていますので、経験をどんどん積んで世界上位組との差を縮めていきたいですね。

池田 東京五輪は開催国枠があって国内で出場権を争ったのですが、パリ五輪ではそれがありません。出場権が得られる世界ランキング圏内をキープするか、アジア枠を確保するかが出場の条件になります。

5月の大会で優勝することができたので、今年の大目標・アジア大会(中国・広州)の出場権を得ましたが、新型コロナウイルス感染症の影響で大会自体が延期になってしまいました。少し予定は変わりますが、練習を続けていくだけです。

かなり厳しい戦いになるのは確かですが、庄司さんとペアを組んでから結果も出ましたし、2人で困難を乗り越えて目標が達成できるように努力していきたいと思っています。

編集部 お二人の活躍や取り組みがビーチの認知度拡大につながることは確かですし、庄司さんの「ビーチ選手が営む不動産業」はオンリーワンな存在なので、ぜひ目標を達成してほしいですね。庄司さん、池田さん、お忙しい中、ありがとうございました。今後の活躍を期待しております。

庄司池田 どうもありがとうございました! 頑張ります。

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