ゴルフ界をリードするマキロイとケプカ

ゴルフはおじさんのスポーツ――久しくそんな言葉が聞かれていたが、最近では松山英樹のマスターズ優勝など男女問わず日本人が海外で好結果を残すようになり、若い世代の活躍・注目度も相まって競技としての人気は全世代に広がった。

世界を見ると、2010年代から現在にかけて、ローリー・マキロイ(北アイルランド)とブルックス・ケプカ(アメリカ)の活躍が目立つ。ともに30歳代前半と脂が乗っているが、〝全盛期〟は多少ずれる。

先にメジャータイトルを獲得したのはマキロイ。生後18カ月でいきなり40ヤードを飛ばしたマキロイはジュニア・ユースと早い時期から活躍。圧倒的なパフォーマンスを見せつけ、弱冠17歳でプロ転向を果たした。

22歳の時に全米オープンで初優勝、2014年までに全米プロゴルフ選手権(U.S. PGA)2度、全英オープンを制した。〝帝王〟ジャック・ニクラウス、〝史上最高のゴルファー〟タイガー・ウッズとともに、25歳までに4つのメジャータイトルを持つ特別な一人になった。マスターズ・トーナメント制覇で史上6人目の生涯グランドスラマーとなる。

一方、アメリカ・南フロリダでスポーツ一家に生まれ育ったケプカは、2歳でゴルフクラブを握り始めるも、野球、ホッケーなどさまざまなスポーツに熱中していた。NBAのフォートウェイン・ピストンズ(現デトロイト・ピストンズ)で活躍し、MLBのピッツバーグ・パイレーツで首位打者とMVPを獲得したディック・グロートは大叔父にあたる。

高校生になってゴルフ1本に絞り、地元のスポーツ名門校・フロリダ州立大学へ進学すると才能が開花。4年生時には3度の優勝を果たし、最優秀選手にも選出された。

マキロイが世界を席巻し始めたころ、ケプカは大学卒業と同時にプロ転向。2017年の全米で松山を下してメジャー初タイトルを獲得し、翌年には全米連覇、U.S. PGAの2冠を達成。ケプカはこれまでU.S. PGA3勝(歴代3位)、全米2勝と自国で無類の強さを誇り、5度のメジャータイトル獲得はマキロイを上回る。

2010年以降にプロデビューしたゴルファーで、4つ以上のメジャータイトルを獲得しているのはマキロイとケプカのみ。ツアー通算33勝のマキロイは現在PGAの代表格として、同16勝のケプカは2022年に移籍したサウジアラビアの新興団体「LIVゴルフ」の旗頭として、ゴルフ界で存在感を示している。

マキロイとケプカのメジャー大会全成績

若くしてキャリア終了の危機に陥るマキロイ

メジャー7勝(歴代7位タイ)の名ゴルファー、ボビー・ジョーンズ以来の若さで2011年の全米を制覇したマキロイ。周囲の期待に違わぬキャリアから順当に挙げた勝利と思われた。

しかし、かねて背部に痛みを感じており、いよいよ限界に達したマキロイは精密検査を受けることに。その結果、腰椎の関節が疲労骨折する寸前だったことが判明した。全米初制覇1年前のことだ。医師からは「健康に気をつけたり、体力をつけたりしないと、キャリアは著しく短くなるかもしれない」と断言されたという。

ゴルファーにとって、腰や背中は安定したスイングをする上で最も重要な部位。マキロイのあこがれの存在・タイガーも長年背部や下半身のケガに苦しみ、一時的な低迷を余儀なくされている。

天賦の才を持つマキロイは技術的にはパーフェクト。しかし、「18ホール回れる体力があればいいし、食事は典型的なティーンエイジャーだった(@Golf Digest)」と、10歳代はトレーニングやコンディショニングへの意識はほぼ皆無だった。

「目に入る物すべてに手を伸ばしていた」と言うように、幼少期からハンバーガー・フライドポテト・ピザなど、「好きな物を好きなだけ」の食生活。ほとんど野菜は摂らず、常に炭酸飲料を携え、成人になるとそれがビールに変わった。

また、抜群の柔軟性を持つマキロイだが、それゆえにひざの過伸展(関節が正常な可動域を超えて動いてしまう症状)が起きやすく、トレーニングで筋肉をつけて〝保護〟していれば改善・予防することもできた。しかし、だましだましのプレーによって体のバランスが崩れ、背部への負担が増して重症化を招いてしまった。

再起動に成功、復権に向けて食とトレーニングを継続中

医師の指摘を重く受け止めたマキロイは、トレーニングによる体の強じん化でケガ予防・プレーの質向上、それを可能にする食べ物について対策を打つ。

血液とアレルギー検査を実施して、どの食品を食べるべきか、何を避けるべきかのラインを設けた。好きなだけ食べていたジャンクフード、エンプティ―カロリー食品(エネルギーは高いが、栄養がないとされる物:キャンディ、ケーキなど)、食品添加物(甘味料、保存料、着色料など)はNG、大好物のチョコレートとアイスクリームも封印した。

その代わりに、自然食品、血液型に合った食品、間食に抗酸化作用が見込めるダークチョコレート(本人は苦手としている)・赤ワイン、水の継続かつ適切な摂取、野菜をきちんと摂るなど、ティーンエイジャーの食事から脱却した。

マキロイ自身、「自制心を保つのは苦手」と公言しているように、生活の転換には苦労した。しかし、成績を残すため、何より大好きなゴルフを長く続けるために、健康的な食事を取り戻す努力をした。今では、制限を少し緩やかにして好物にも手をつけるようになっている。

「食べ物を悪者扱いしたいわけではない。むしろご褒美だと思っている。アイスクリームも食べるし、食べることを楽しまなくてはね。

大切なのは、それを食事に組み込んで時々食べても罪悪感なく満足できることだ。 食べることに伴う罪悪感はとても大きい。でも、その精神的な障壁を打ち破ることができれば、良くなっていくんだよ(@golf.com)」

10歳代の〝怠惰〟な食生活により蓄積していた脂肪を減らし、筋肉量を増やすためにトレーニングも強化。筋肉の素になるたんぱく質の摂取量は、体重1ポンドあたり1g・1日170gとした。

元来持つ柔軟性にパワーを加えたいが、大きすぎる筋肉はスイングの妨げになる。マキロイがおこなうトレーニングは、スクワット・ボックスジャンプなど下半身の強化、メディシンボールスラム・プランクロウなど体幹の強化が中心で、全体的なフィットネスの向上を目的としている(マキロイのトレーニング動画)。筋肉量の増加により、過伸展による不具合も起きていない。

2010年から着手したコンディショニング、トレーニングは、2011年以降の活躍にその効果が表れ、特にパワーの目安となるティーショット(Driving Distance:DD)の平均飛距離は大幅に伸びた。

プロ転向から2010年までの平均DDは300ヤード前後だったが、2011年以降は310ヤード台に到達、ここ2シーズンは320ヤードを超えている。年齢を重ねるごとに強化され、世界でも指折りの飛ばし屋に変ぼうした。それでもアプローチショットの正確性に陰りはない。

2014年以降メジャータイトルにあと一歩届いていないものの、トップ10率は高く、PGAツアーで毎年2~3勝を挙げている(2017年は未勝利もトップ10入りが6回)。出場試合数を調整しながら、ハイパフォーマンスを常に発揮できるようにしている。

早い時期から活躍した半面、食生活やコンディショニングを疎かにし、あわや選手生命を失うことになったマキロイ。そこから自分を再起動し、食事を楽しみながら、トレーニングに励む日々が続く。長く安定した成績を残し続けるマキロイが再び戴冠する日もそう遠くない。

専属シェフが常に帯同、食の安定で強さを得るケプカ

ケプカはプロ転向後の数年、プレー環境が整っているアメリカを出てヨーロッパへ向かっている。慣れない食べ物や異なる生活習慣、金銭に余裕がないなど厳しい環境に身を置いて自身の成長を促した。

その中で、若手選手の登竜門といえるチャレンジツアーを経て、PGAツアーに次ぐ規模のヨーロピアンツアー(現DPワールドツアー)に〝昇格〟。そこでも結果を残し、最高峰へとたどり着いた。

2014年から本格的に4大メジャーに参戦(出場権獲得)し、2017年に全米を初制覇するが、その間にダスティン・ジョンソン(2016年全米、2020年マスターズ覇者)との知己を得ている。

ジョンソンは当時、すでにPGAのトップゴルファーで、早くから専属シェフを雇って食生活を充実させ、トレーニングも積極的に取り入れていた。ケプカとジョンソンは現在でもトレーニングなど行動を共にすることが多く、LIVゴルフの同僚でもある。

ケプカは先輩のジョンソンに倣い、コンディショニングを重視。ツアー中は専属シェフに帯同してもらい、常に健康的な食事が摂れる環境を整えた。最初に食事を担当したノエル・グラブはgolf.comでケプカの食のコンセプトを説明している。

「彼は、それほど食欲があるわけではなく、コース上でも補食はほとんど摂りません。1日約2100~2300kcalを目安にたんぱく質200g、炭水化物200g、脂質60gが摂れるようなメニューを考え、何度かに分けて食べられるように食事や軽食を用意していました。

コース上で長い時間過ごした後の体の回復、満腹感を持続させて不要な物の摂取を抑える意味で、特にたんぱく質をきちんと摂れるようにしています。シンプルでバランスの良い食事、十分な量のたんぱく質摂取。これが、彼のコンディションを維持するポイントでした」

ケプカの食事管理は現在、グラブからマイケル・パーカーに引き継がれている。パーカーは高級ゴルフクラブの総料理長で、ヒューストン・アストロズのオーナー、ジム・クレーンの専属シェフも務めるなどスポーツ界とは縁が深く、ケプカのメジャー初制覇時からチームに参加している。

パーカーはグラブのコンセプトを踏襲しつつ、オーガニック食品をメインにケプカの食事を用意。ケプカが手首のケガによって練習ができず、体重が10kg近く増えてしまった時、食によってリカバリしたのはパーカーによるものも大きい。

また、2019年マスターズでケプカは、10kg近く減量した姿で試合に臨んだ。急激な容姿の変化から周囲は「大会後の表紙撮影のためだ」「愚の骨頂」とさんざん批判したが、2位タイでフィニッシュ。結果で雑音を封じた。

ケプカは「最高の状態を作るために、少し積極的になり過ぎた」と振り返っているが、試合に至るまでの食事はパーカーによってコントロールされていたため、結果から見てもコンディションに問題はなかったといえる。

長年ケプカのスイングコーチを務めるクロード・ハーモン三世も「ブルックスが食べたい時に、必要な物が食べられる環境にあるのは大きい」と、食の充実が成績に結びついていることに言及している。

ケプカも「自分で管理しようとすると、時に誤ってしまうこともある。健康的な食事がきっちり摂れることが精神的な強さにつながっているのは間違いない(menshealth.com)」と話している。

タブー視されていた筋トレも積極的、試合当日にも欠かさず

183cm/93kgとゴルファーの中では大柄な部類に入るケプカ。ベストの体を維持するためにトレーニングを欠かさず、筋トレも積極的におこなっている。ゴルファーと筋トレをめぐっては、筋力が上がることでストロークが変わったり、柔軟性が失われたりする可能性があるため、長くタブー視されてきた。

しかし、ケプカは「筋力が上がると柔軟性がなくなると誰かが言うとき、いつも体操選手を例に挙げるんだ。彼らは皆、信じられないほど強いけど、柔軟性に富んでいる。要は、自分の体をどのようにケアするかではないか(@menshelth.com)」と一笑に付している。

「プロとして、1日4~5時間は自分の体と向き合っている」と明かしているように、上半身(ベンチプレス、ハンマーカールほか)、下半身(スクワット、デッドリフトほか)、体幹トレ、有酸素運動などトーレニングメニューは多岐にわたる。

トレーニングによって得られた臀筋と体幹の強さは、ライ(ボール位置)が悪い時に役立ち、長いトーナメントに臨む時、最後まで集中力を保てる体力は、他選手とのアドバンテージになるという。2018年の全米では、優勝がかかった最終ラウンド前にもかかわらず日常のメニューをこなし、結果を出した。ケプカは、トレーニングで得られるメリットは、食と同様に精神的な部分でも大きいとしている。

心の余裕は好影響を及ぼすことを理解するケプカは、「健康的に送る必要があるけど、生活の中でバランスを取っていくことは大事」とオン・オフを切り替える。パーカーによる食事管理はあるものの、ビールやピザなど好きな物を食べることもあり、マキロイと同じように「ご褒美」とも捉えているようだ。

マキロイもケプカも、食と結びついた経緯は異なるものの、コンディションやパフォーマンスを上げるために食を重要視し、トレーニングによって肉体を強化してた後に成績を向上させたことで共通している。トレーニングだけではおそらく、ここまでの成績は挙げていないだろう。体の素になる食にも目を向けたことで、ゴルフ界をリードする存在になったのだ。

【海外選手の原稿を書ける方を募集】
編集部では、海外スポーツ選手に関する記事を書ける方を募集しています。
ご興味のある方は、編集部までお問い合わせください。

スポトリ

Kiyohiro Shimano(編集部、ISSN-SNS:スポーツニュートリションスペシャリスト)