小・中学生の朝食摂取は年々減少傾向

今回も前回に続いて、基本的生活習慣と体力・運動能力や運動時間との関係について紹介していきます。

子どもの生活習慣を示す代表的な用語に「早寝・早起き・朝ごはん」というのがあります。これは文部科学省が平成の中頃に大々的に子どもの生活習慣を改善するために実施した国民運動の標語にもなっています。

この推進運動を受けて平成18(2006)年には「早寝早起き朝ごはん」全国協議会が設立されています。この協議会は現在でも継続しており、定期的に子どもの生活習慣に関するさまざまな情報発信などをしています。ここで、早寝・早起きの部分は前回触れた睡眠に強く関連する部分になります。

一方で、朝ごはんに関して前回は触れていません。そこで、今回は最初に朝ごはん、つまり、朝食摂取の状況と体力・運動能力との関係から示していきたいと思います。

まず始めに、児童の朝食摂取状況の経年変化を図1に示します。これはスポーツ庁が令和5年(2023)度に実施した「全国体力・運動能力、運動習慣等調査報告書」で示されている小学5年生の朝食摂取状況の結果です。

図1-1 小学5年生男子の朝食摂取状況
(文献より改変)
図1-2 小学5年生女子の朝食摂取状況
(文献より改変)

「早寝早起き朝ごはん」運動が活発に行われていた平成24(2012)年頃までは、児童の朝食摂取状況は改善し続けていたことがわかります。しかしながら、それ以降は毎日朝食を摂取する児童の割合は徐々に減少を続けています。ピーク時と比べるとおよそ1割の児童が毎日の朝食摂取をしなくなっていることがわかると思います。実はこの傾向は中学生でも同様です。

次に、朝食摂取と新体力テストにおける体力合計点との関係を図2に示します。毎日朝食を摂取する児童の体力合計点は、それ以外の児童に比べて高いことが確認できます。さらにいえば、毎日摂取ではなくても、朝食摂取の頻度が高いほど体力合計点が高い傾向にあることも確認できます。この結果もやはり、中学生でも同様の傾向を確認することができます。

図2-1 朝食摂取と体力合計点 [小学生男子]
(文献より転載)
図2-2 朝食摂取と体力合計点 [小学生女子]
(文献より転載)

この結果を素直に考察をすれば、朝食を摂取している子どもほど体力・運動能力が高いという結論になります。これは、間違った解釈ではありませんが、少し注意が必要です。

他の生活習慣でもそうですが、朝食を食べることが体力・運動能力の向上に直結するかというと、それは少し飛躍しているかと思います。体力テスト実施日の朝だけ朝食を食べたからといって、記録が良くなるわけではないことはどなたでもわかると思います。では、朝食摂取がどのような生活習慣の結果として達成されているかを考えてみます。

起床から学校に行くまで(自宅を出るまで)の時間が長い子どもほど、朝食摂取率が高いというデータがあります。また、そのような子どもは就寝時刻が早かったり、結果的に睡眠時間も良好であったりすることがわかっています。さらに、睡眠状況が良好な子どもの方が日中の運動時間が長いことも指摘されています。このように一日の時間を遡っていくとこれらの生活習慣がサイクルしているということがわかると思います。

まさに、前回の連載で示した風車理論です。ただ、一日の始まりという意味でいうと、朝食摂取が持つ意味は非常に大きいです。朝食摂取が良好でない子どもは、夜型生活の傾向とともに、午前中の体調不良や学校での眠気が多く発生することもわかっています。一日のスタートとして朝食摂取を重要視し、それをきっかけに日中の活動的な生活習慣獲得につなげていくことが、最終的な体力・運動能力の向上につながるといえます。

ここでは、朝食の摂取ということだけに注目して記しましたが、できれば、その中身にも配慮しながら朝食を摂取し、良好な生活のスタートを心がけてほしいと思います。

長ければ長いほど…体力に影響する「スクリーンタイム」

続いて、今回の連載タイトルに示したもう一つの注目すべき生活習慣として「スクリーンタイム」について紹介します。スクリーンタイムという言葉は聞いたことがある方も多いと思いますし、なんとなく言葉からイメージができる方も多いでしょう。

簡単にいえば、テレビなどの画面に触れている時間のことです。以前であれば、テレビやビデオの時間でおおよそ良かったのですが、近年では、むしろゲームやタブレット、スマートフォンなどの時間の方が中心になってきています。これらの時間を総称してスクリーンタイムと呼んでいます。海外などでは、「スクリーンタイム=不活動時間」といったニュアンスで使われていることもあります。

図3は、筆者らが200名以上の小学2・4・6年生を対象に実施した調査結果です。ここでは、新体力テストの5段階の総合評価別に平日と週末の平均的なスクリーンタイムの合計値を示しています。

この調査では、(A)テレビ/ビデオ、(B)ゲーム、(C)スマートフォン、(D)タブレット、(E)パソコンの5つのカテゴリーに分け、より詳細にスクリーンタイムを聞いています。ここで示している値は、その合計値になります。ただし、学習利用に関しては除いて記載してもらいました。

図3-1 スクリーンタイムと体力テスト結果
[小学2年生]
図3-2 スクリーンタイムと体力テスト結果
[小学4年生]
図3-3 スクリーンタイムと体力テスト結果
[小学6年生]

調査結果から明らかに、スクリーンタイムが長い児童ほど新体力テストの結果も良くないことがわかります。特に、週末ではその差が顕著であり、学年が進むことで差がより顕著になっていきます。スクリーンタイムも習慣ですので、学年が進み、習慣が蓄積された結果であると考えるのが自然であろうと思います。

ちなみに、5つのカテゴリーの内訳は、テレビ/ビデオが最も長くなっていますが、その比率は学年が進むごとに減少し、ゲームやスマートフォン、タブレットなどの占める割合が高まってきます。参考のために、図4は週末のスクリーンタイムの内訳です。

図4-1 週末のスクリーンタイム内訳 [男子]
図4-2 週末のスクリーンタイム内訳 [女子]

また、この調査では一日の平均運動時間に関して、運動時間が短い児童ほどスクリーンタイムの平均が長いことも確認されました。朝食摂取に関しても、良好でない児童の方が、スクリーンタイムが長いことがわかりました。

スクリーンタイムに関しては学習活用も促進されており、子どもにとっても、これらのメディアが以前に比べて格段に身近なものになっています。そのため、使用時間が伸びることは、ある程度はやむを得ません。

しかしながら、運動促進や体力向上、また、それらを通した子どもの育みという観点からすると、あまりに急劇な使用時間の延伸には注意が必要です。せめて1時間ぐらいでも時間を短くして、その分を運動や体を使った遊びの時間に充てるような工夫ができると良いと思います。

ここまで、前回と今回、2回続けて子どもの基本的生活習慣の捉え方と体力・運動能力との関係について紹介してきました。

私の考えでは、日々の生活習慣は子どもが良好な運動や学習を進めていく上での最も重要な準備であると思っています。今回示した睡眠や朝食摂取、スクリーンタイムは、その最たるものです。

風車理論で示したように、多くの基本的生活習慣がサイクルして、良好な生活習慣が形成されます。それを踏まえた上で、そのチェックとして睡眠や朝食摂取、スクリーンタイムを折々に確認しながら日々の良好な生活習慣を形成していって欲しいと思います。結果的に、活動的で活力に満ちた生活に変貌していけば、子どもの体力・運動能力が向上していくことは間違いありません。(中野貴博)

【引用文献】
・令和5年度全国体力・運動能力、運動習慣等調査 報告書, スポーツ庁 (2023)

中野貴博(中京大学 スポーツ科学部 教授)

体力向上、活動的生活習慣から子どものスポーツ学を研究する第一人者。スポーツ庁や地方行政などと協力しながら、子どもの運動環境の改善、社会の仕組みを変えようと尽力。子どもとスポーツを多角的に捉えた論文も多数発表している。