2024年は、サッカーのヨーロッパ選手権(EURO)、パリオリンピック・パラリンピックとビッグイベントが重なり、ロサンゼルス・ドジャースの大谷翔平がフランク・ロビンソン以来、史上2人目の両リーグMVP受賞&ワールドシリーズ制覇と、スポーツファンの耳目を集める一年だった。

スーパースター、ベテランらが活躍したが、次代を見据える20歳以下(U20)の選手も台頭してきている。今回は、プロ・五輪レベルでさらなる飛躍が期待されるU20選手をピックアップ。スポーツファンの常とう句ともいえる「若いころから注目していた!」のネタに加えるべく、ゆるりと読んでいただければ。

※ここでは、2024年7月26日時点(パリ五輪開幕)、12月25日時点(記事公開時)で、21歳の誕生日を迎えていなければ「U20」と定義(20歳11カ月も範囲内とする)。

神童・ヤマル&万能・ウェンビー

・年齢表記は2024年12月25日現在

世界的なU20選手といえば、現時点での活躍度・将来への期待値から2人が思い浮かぶ。ラミン・ヤマル(17歳、バルセロナFC)とヴィクター・ウェンバンヤマ(20歳、サンアントニオ・スパーズ)だ。

ラミン・ヤマル

ヤマルは7歳でバルサに加入して以降、各年代のカテゴリを〝飛び級〟で駆け抜け、2022-23シーズンにチーム史上最年少の15歳9か月でトップチームへ昇格した。

シャビ・エルナンデス監督の下、翌シーズンからは主力に定着すると、リーガ、チャンピオンズリーグ、コパ・デルレイ(国内カップ戦)で計50試合に出場。得点・アシストで数々の最年少記録を塗り替えた。

弱冠17歳ながら、EURO2024のスペイン代表に選出され、決勝戦までの7試合中6試合に先発出場。主力の一角として1ゴール(大会史上最年少)・4アシスト(大会最多)を残し、3大会ぶり4度目のEURO制覇に大きく貢献した。リーグ・代表レベルでの大活躍から、若手バロンドール(世界最優秀選手)も受賞し、評価はうなぎのぼりだ。

類まれなるチャンスメイク能力に加え、ストライカー・ウイング(WG)・ミッドフィルダー(MF)と攻撃的なポジションならどこでもできる多才さが売りで、メッシがデビュー時に着けていた背番号19を背に、足跡をそのままトレースしている。順調にいけば、サッカー界の頂点に上り詰めるまでそう時間はかからないだろう。

ヴィクター・ウェンバンヤマ

ウェンビーこと、フランス出身のウェンバンヤマは2m21cmと歴代NBA選手の中でも屈指の高さを誇る。ゴール下が主戦場であるC(センター)でありながら、ボールハンドリングが巧みで、シュートレンジも非常に広く、恵まれた体を生かしたシュートブロックは相手の脅威となる。ニコラ・ヨキッチやジョエル・エンビ―トら、NBAのトレンドともいえる万能Cの系譜に名を連ねる。

ウェンビーは元選手の両親の下で生まれ育ち、5歳からバスケを始めて10歳を迎える前にはすでに180cmを超えていたという。15歳でユーロカップのフランス代表に選出された後、プロチームのナンテール92に入団。その後、2チームに移籍して最優秀若手選手に選出されるなど、将来有望の逸材として評価された。

18歳の時(2023年)におこなわれたNBAドラフトで、スパーズから全体1位で指名され、世界最高峰の舞台へと進む。1年目から71試合に先発出場し、1試合平均21.4得点、10.6リバウンドはチームトップ。3.6ブロックはリーグトップで、ルーキーながらブロック王に輝く。

加えて、新人王、最優秀守備選手投票2位と、評判通りの活躍を見せた。2年目の今季もほぼ同じような成績で推移しており、オールスター選出は確実視されている。

次代を担うスーパースター候補の存在は、チームを底上げする以上に興行的な旨みも絶大。競技に集中し、成長カーブを乱さないように、周囲がしっかり環境を整えてもらいたいところ。また、2人ともまだ線が細く、体ができていない印象で、コンタクトが激しい競技ゆえにケガには気をつけてほしい。

プロの世界で虎視眈々、刃を研ぐU20選手

・年齢表記は2024年12月25日現在

プロスポーツの世界で見ると、U20で今後のブレークを思わせる選手は多数。特にNBA、欧州・南米サッカー界は人材の宝庫だが、ここではあえて、日本ではあまりなじみのない北米プロアイスホッケーリーグ「NHL」を取り上げたい。

その中で、コナー・ベダード(19歳、シカゴ・ブラックホークス)はすでにチームの屋台骨を支える存在になっている。

コナー・ベダード

ベダードは2023年NHLドラフト全体1位でブラックホークスから指名されてプロ入りを果たした。得点機に直結するフェイスオフなど攻守両面で勝敗のカギを握るCとして、ルーキーシーズンからポイント(ゴール+アシスト)ランキングでU20唯一のトップ100入りをしている。

また、前年のドラフト全体3位でプロ入りしたCローガン・クーリー(20歳、ユタ・ホッケークラブ)もベダードと近い成績を残している。

アイスホッケーは「氷上の格闘技」と表現されるほどコンタクトが強く、全身に防具を着用したうえで、踏ん張りの利かないアイスリンクを全速で滑走するため、体力の消耗が非常に激しい。

試合では基本的に、ゴーリー(G)を除いた左右のWG・C1人・ディフェンダー(DF)2人で構成されるユニットを2~3編成し、頻繁に交代しながらチーム全体のパフォーマンスを維持する。ちなみに、乱闘が発生しがちなNHLでは、エースの用心棒兼戦闘要員のエンフォーサーといった特別職も存在する。

歴戦の強者がそろうスケーターの中で、ベダードのような成長途上の10歳代がいきなりチームの中心的な役割を担い、結果を残すだけでも上々といえるだろう。とはいえ、NHLではしばしば、10歳代から他を凌駕する才能を見せつけ、そのままスターダムを駆け上がる選手が比較的多いのも事実。

LWGアレックス・オベチキン(ワシントン・キャピタルズ)やCシドニー・クロスビー(ピッツバーグ・ペンギンズ)、最近ではCコナー・マクデイビッド(エドモントン・オイラーズ)らは、入団後すぐに大黒柱となり、チームを強豪へと押し上げた。ベダードとクーリーも今後の成長次第では、先人たちのようなキャリアを形成する可能性を秘めている。

テニス界では、U20周辺世代が強い。男子ではヤニク・シナー(23歳、イタリア)、カルロス・アルカラス(21歳、スペイン)が2024年シーズン終了時の世界ランキングで1、3位に位置し、ベテラン勢から覇権を奪うべく虎視眈々。アルトゥール・フィス(20歳、フランス)がU20では唯一ランキング20位以内に入っている。

女子も男子と同じような勢力図・年齢構成になっているが、2024年シーズン終了時で世界ランキング3位につけるココ・ガウフ(20歳、アメリカ)が筆頭格。

16歳で4大大会デビュー(全仏ダブルス)を果たし、2021年には全仏ベスト8、全米ダブルス準優勝と徐々に頭角を現し、2022年には全仏準優勝、全米ベスト8、全仏ダブルスで準優勝するなど本格化。単複両方で存在感を示しながら、2023年にはついに10歳代で4大大会を初制覇した。

10歳代での4大大会制覇は一世代上のイガ・シフォンテク(23歳、ポーランド)も2020年全仏で達成しており、その後歴代最長の37連勝、2024年までの全仏3連覇と一躍トップクラスに躍り出た。ともにクレーコート巧者で、ティーンエージャーからの活躍と、共通点が多く、若手2人が女子テニス界をリードする。

ココ・ガウフ

五輪での活躍が目立つ日本のU20勢

・年齢表記は2024年7月26日(パリ五輪開幕時)時点

では、視点を五輪に変え、特に2012年ロンドンあたりから快進撃を続ける日本に注目する。

注目度や大会規模から五輪の成績を指標としたが、各競技ごとの世界大会レベルで素晴らしい活躍をするU20選手たちも多数で、五輪のメダルだけがすべてではないこともつけ加えたい。

パリ五輪で日本代表に選出されたのは409人で、そのうち20歳以下は35人。国外の五輪では最多となる45個のメダルを獲得したが、吉沢恋(15歳、スケートボード:写真右下)、赤間凛音(15歳、スケートボード)、開心那(16歳、スケートボード)、玉井陸斗(18歳、高飛び込み:同右上)、安楽宙斗(18歳、スポーツクライミング:同左下)、松下知之(19歳、競泳:同左上)、岡慎之助(20歳、体操)らU20選手のべ10人が表彰台に上がった。

アドバンテージが大きいとされる自国開催の東京五輪で、U20選手によるメダル獲得率は29.3%(58個中17個)。パリ五輪では22.2%に低下したものの、依然として若い才能が大舞台で力を発揮している。

なお、631人が出場したパリ五輪アメリカ代表は大会最多となる126個のメダル獲得したが、そのうち24個はU20選手が手にした。単純比較はできないものの、U20メダル獲得率でいえばアメリカは19%なので、日本がスポーツ大国をやや上回った。

パリ五輪でメダル獲得に至らずとも、日本には若い芽が出始めている。井上皆(水球)、島田綾乃、比嘉もえ(アーティスティックスイミング:AS)、岸里奈、岡村真、中村遥香、牛奥小羽(体操女子)、垣田真穂、池田瑞紀(自転車パシュート)、小野寺吟雲(スケートボード男子)らU20選手が2026年以降を見据えて世界と戦った。

ピーキングや体の変化と競技特性の調和が理由にあるかもしれないが、スケートボード、体操、ASはすでに主力の大半がU20になっている。

一時期、メダルを量産していた競泳界は大黒柱・大橋悠依の引退などで一時的に成績は落ち込んでいるが、U20周辺世代の逸材が多い。盛者必衰--黄金期もあれば、低迷期もあるのが世の常。若い才能の台頭、日本の全スポーツ選手の努力と頑張りを静かに見守っていればいい。

今ほどスポーツが日本で根づいておらず、観戦ツールが少なかった1984年ロサンゼルスから五輪を見ている筆者としては、まさか日本がメダル獲得数で上位を争う世界線が来るとは思いもしなかった。選手はもちろん、各競技の現場で強化と普及に尽力してきた関係者には頭が上がらない思いだ。

世界は広い! 女子競泳界に怪物級続々

・年齢表記は2024年7月26日(パリ五輪開幕時)時点

五輪レベルで日本のU20勢の活躍に目を見張るものがあるとはいえ、それ以上に世界では規格外の〝怪物〟が生まれている。

五輪の舞台で複数のメダルを母国に持ち帰るのはまさしく超人の証。一大会でメダルの色をコンプリートすることも可能だが、パリ五輪において、個人で3個以上のメダルを獲得した選手が39人いる。

年齢構成は、21~24歳が16人と最も多く、一般的にいわれている肉体成長のピークと合致している。次いで、25~29歳が12人、30歳以上が6人、U20が5人となっている。競技日程や団体種目の多さから、競泳女子にマルチメダリストが多い。

モリー・オキャラハン

その中で、モリー・オキャラハン(オーストラリア)は20歳ながら、200m自由形(金)、4×100m自由形リレー(金)、4×200m自由形リレー(金)、4×100mメドレーリレー(銀)、混合4×100m自由形リレー(銅)と5つのメダルを獲得。17歳で出場した東京五輪では金2個、銀1個を獲得しているため、すでに8個のメダルを手にしている。

「水の怪物」と呼ばれたイアン・ソープらを輩出するなど、競泳王国として君臨するオーストラリアは、特にU20世代(早い時期)から大舞台で結果を残す傾向。

カイリー・マキオン(23歳)は、20歳を迎えた直後に出場した東京五輪で、100m背泳ぎを制したほか、金2個、銀1個を獲得。パリ五輪では5つのメダル(金2、銀1、銅2)を追加した。

オーストラリアと2強を形成するアメリカも若手スイマーが強力。こちらは層が厚いこともあるが、10歳代でパンパシフィック、世界選手権などで経験を積ませ、直後の五輪でメダルを量産というパターンが多い。

パリ五輪ではU20を〝卒業〟した、トーリ・ハスケ(21歳)、グレッチェン・スミス(21歳)、レーガン・スミス(22歳)、ケイト・ダグラス(22歳)が、五輪初出場にして個人で4つ以上のメダルを獲得した。

サマー・マッキントッシュ

弱冠17歳で3冠を含む4つのメダルを獲得したサマー・マッキントッシュ(カナダ)は超新星。14歳で出場した東京五輪では400m自由形で4位に入り、才能の片りんをのぞかせた。母は1984年ロサンゼルス五輪にも出場しており、〝血統〟も確か。次回五輪でも21歳とまだまだ底知れない。

競泳女子では最多のメダル14個を保持するケイティ・レデッキー(27歳、アメリカ)、エマ・マキオン(30歳、オーストラリア)がパリ五輪でも健在で、オキャラハンとマッキントッシュが今後どこまで女王たちに近づけるのか。興味は尽きない。

夏季競技ばかり取り上げているので、最後は冬季競技を(年齢表記は2024年12月25日現在)。花形種目といえるスキージャンプ、フィギュアスケート、スピードスケートにも逸材が控えている。

経験がモノをいう世界なのか、スキージャンプ男子にU20の有望株はいなかったが、女子ではニカ・プレブツ(19歳、スロベニア)が席巻中だ。昨季は序盤こそ低調だったが、2024年に入ると1月だけでワールドカップ3勝と突如覚醒し、勢いに乗ったまま総合ランキング首位でシーズンを終えた。今季は序盤から上位に位置し、総合2連覇を狙う。

フィギュアスケート男子ではイリア・マリニン(20歳、アメリカ)が新時代を築く勢い。昨シーズン、史上初めて4回転アクセルに成功し、グランプリファイナルも制した。女子は、イザボー・レヴィト(17歳、アメリカ)、キム・チェヨン(19歳、韓国)らがランキング上位。

フィギュア強国といえる日本も負けていない。女子では吉田陽菜(19歳)、千葉百音(19歳)、松生理乃(20歳)、男子では三浦佳生(19歳)、佐藤駿(20歳)ら、2026年ミラノ・コルティナダンペッツォ五輪での飛躍が期待される。

スピードスケート男子では、ジョーダン・ストルツ(20歳、アメリカ)が頭一つ抜けた存在に。2023年の世界選手権で18歳ながら史上初の500・1000・1500mの3冠を達成、1000mの世界記録樹立と、すでに実績は十分。距離不問の万能性はさらなる高みへと導く唯一無二の武器で、史上最も偉大なチャンピオンになるかもしれない。

ジョーダン・ストルツ
スポトリ

Kiyohiro Shimano(編集部、ISSN-SNS:スポーツニュートリションスペシャリスト)