まさかの復活をとげたイブラヒモヴィッチ
「自分はワインのような存在。年月を重ねれば重ねるほど、味が良くなる」「自分はまるでベンジャミン・バトンさ。年老いた状態で生まれ、若返って死んでいく」
これらは、イタリア・セリエAのACミランに所属するズラタン・イブラヒモヴィッチ(スウェーデン)が近年残した名ゼリフだ。今年の10月に40歳(不惑:四十にして惑わず、孔子「論語」より)になる彼は、今もなお、ヨーロッパサッカーのトップレベルでストライカーとして活躍している。
2020~21年シーズンにはセリエで19試合に出場し、15ゴールを記録(2021年5月19日現在)。リーグ戦最終節を残した時点での得点ランキングは11位だが、彼よりも多くゴールを記録した選手たちはいずれも28試合以上に出場しており、得点効率の面からみれば驚異的な活躍といえる。今季はケガによって出場試合数が少なかった影響もあったが、もしコンスタントに試合出場を果たしていたら、ゴール数はさらに伸びていたと考えられる。
イングランドのマンチェスター・ユナイテッド(プレミアリーグ)に所属していた2016~17年シーズン終盤、彼は右膝の前十字靭帯を断裂する重傷を負った。そのわずか7カ月後にスピード復帰を果たしながらも、2018年3月にユナイテッドを退団。アメリカのロサンゼルス・ギャラクシー(メジャーリーグサッカー)に新天地を求めた。
ヨーロッパと比較してレベルが高いとはいえないアメリカへ移籍したことにより、もうトップレベルでプレーする姿は見られず、あとは引退まで下降線を辿っていくものと誰もが思っていた。ところが、LAでの生活を早々に切り上げ、2019年12月に以前所属したミランへ電撃復帰した。以降は前述の通り、点取り屋として実力を発揮し続けながら、メンターとして若手に良い影響を与えるなど新たな一面を見せ、再評価されている。
グラム単位の食事管理、エネルギー源はシリアルで
NBAのレブロン・ジェームズと口論したり、メッセージ性の強いユニークな発言をしたりと、時には本業より言動が注目されることもあるイブラヒモヴィッチ。「悪童」とも「怪物」とも呼ばれているが、サッカーに対しては純粋に向き合っている。試合に臨むためのコンディショニング、試合でパフォーマンスを発揮するためのフィジカル。並大抵の努力をし続けなければ、これほどの活躍はできない。不惑のイブラヒモヴィッチが“復活”できた理由の一つとして「食事の徹底管理」が挙げられる。「GQ Italia」はこのように伝えている。
1試合でトップスピードでのスプリントを繰り返し、約10kmを走るサッカー選手は、試合前後に効率よく身体にエネルギーを供給できるパスタ類を食べることが多いといわれている。しかし、イブラヒモヴィッチにとって、パスタは糖質の量が多すぎる食材のためNGとしており、代わりにシリアルで糖質を摂取するようにしている。
また、フィジカル維持のために欠かせないたんぱく質は、七面鳥や鶏のモモ肉、胸肉、生ハムの一種で塩漬けされたブレザオラで摂取。フレッシュな果物も日常的に食べて、ビタミンの不足がないように工夫している。さらに、食べる物すべてをグラム単位で測って管理し、体重はベストの92〜94kgをキープしている。食生活とコンディショニングに対するこだわりは、世界最高プレーヤーの一人であるクリスチアーノ・ロナウドと比較されるほどだ。
コンディショニングに関しても、イブラヒモヴィッチは他の選手とは異なる手法を好むといわれている。彼が好むトレーニングは、身体を大きくすることより、筋肉の柔軟性を伸ばすこと。その方が40歳代前の自分にはフィットすると信じている。そして、少年時代に習っていたというテコンドーを今もトレーニングに取り入れ、筋力を維持している。
こうした日々の管理がイブラヒモヴィッチのトップパフォーマンスに表れている。その甲斐あってか、引退を表明したUEFA EURO 2016以来、約5年ぶりにスウェーデン代表のユニフォームに袖を通した。代表復帰戦では早速アシストを記録し、能力の高さを改めて披露した。新型コロナウイルスの影響で1年延期された今夏のUEFA EURO 2020(2021)への出場も期待されていたが、残念ながら膝のケガにより欠場することをスウェーデンのサッカー協会が発表した。W杯よりもレベルが高いといわれるヨーロッパ最強国決定戦での活躍は見られなくなったとはいえ、ミランとの契約は2022年6月まで延長している。来シーズンもテコンドーを駆使したイブラヒモヴィッチのスーパープレーを堪能できそうだ。
ブラッド・ピットが主演を務めた映画「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」に自分を置き換えた冒頭の名ゼリフには、続きがある。
「年齢については心配しないでもらいたい。イングランドに渡った時、自分が年寄りで、車椅子に乗った状態でやって来たと言われた。その3カ月後、自分は実力でイングランドを制圧した。そうしたら掌を返された」
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