女性の体調管理には、女性ホルモン(月経周期)の把握と腸内環境の整備が不可欠になってくる。真剣にスポーツをする、もしくは健康のために運動を続ける女性にとって、これらを理解・実践することは、コンディショニングや競技力向上、健康的な生活を送るカギになる。

腸内フローラ検査キット「マイキンソー(Mykinso)」の開発・販売を手掛け、スポーツ選手の腸内環境を改善するべくサポートをおこなう「サイキンソー(本社:東京都渋谷区、代表取締役:沢井 悠)」は、重要な2点について周知を広げるためにセミナーを実施。ここでは、各専門家による講演の中で運動に関連する話題をピックアップする。

月経周期を見極めたトレーニングのタイミング

女性のための体重管理:月経周期を味方につける
日本体育大学・児童スポーツ教育学部 須永美歌子氏

女性のスポーツ選手が抱える問題「三主徴」や、特有の生理現象を加味したトレーニング方法の確立など、医科学分野から女性スポーツに関する研究を進める第一人者。

須永氏は講演の冒頭、長年の研究を踏まえ、月経周期(図1)は「体重」「脂肪燃焼」「食欲」と大きな関連があるとし、メカニズムやデータを示しながら詳細に解説した。

月経は、初潮を迎える12歳前後から閉経する50歳前後まで、女性が生きて行く中で長く続く特有の現象。周期的(約1カ月に1回)に訪れ、妊娠や出産期を除くと、その数は約450回に及ぶという。

須永氏は、何度も定期的に繰り返し起こる現象であれば、生活の中で月経や月経周期と向き合い、「いつ(時期)」「どのように(体や心の変化)」「どうやって(対処)」を戦略的に捉える必要があると訴えた。

図1 月経周期
月経周期を考慮したコンディショニング法より改変・転載

月経周期とコンディショニングについて研究を進める須永氏は、トップスポーツ選手、学生に対しておこなった調査で、「(周期によってコンディションに)変化がある」との回答がともに8割近くに及ぶと報告した。

さらに、周期の中で不調なのが「月経中」「月経前(黄体期)」に集中しており、主な症状として前者は生理痛、後者は月経前症候群(PMS)によるメンタルなどの乱れを挙げ、反対に好調なのが「月経終了~数日後(排卵期まで)」とした。

須永氏は、今後の研究成果・科学的根拠の蓄積が必要と前置きした上で、月経周期と筋力の関連性について言及。ポジティブな研究結果を示すデータでは、筋力が上がるタイミングが「排卵期」で共通しており、月経後~排卵期に分泌が活発になるエストロゲンが筋肉合成と関連があることを説明した。

また、エストロゲンには脂肪燃焼作用があることにも触れ、月経前に促進されるとの研究データを示し、この時期にウォーキングやスイミングなどの有酸素運動を組み合わせることで、月経によって増減しやすい女性の体重コントロールに役立つとしている。

これらを踏まえて須永氏は、体調・ホルモン分泌・トレーニングのタイミング/強度を考えることで、スポーツ選手の強化、女性の健康維持が効率的に図れる可能性があると強調した。

腸の健康に役立つ、3つの「バイオティクス」

腸内フローラとコンディショニング 腸内細菌を味方につける!
川崎医療福祉大学・健康体育学科 松生香里氏

運動免疫学が専門で、スポーツ現場でのコーチング経験も豊富。最近では、暑熱環境時(東京五輪)におけるスポーツ選手の生理的特徴の解明と対策を構築した研究が評価され、「第25回秩父宮記念スポーツ医・科学賞」を受賞した。

現場で多くの選手とかかわる松生氏は、自身の経験・選手への対応と研究報告を交え、スポーツ選手と腸内細菌がどのようにかかわってくるかを解説した。

松生氏は、コンディションを保つためには、腸内で善玉菌を増やすことが不可欠とした上で、有効な物として、短鎖脂肪酸(酪酸・酢酸・プロピオン酸)を挙げ、これらは「エネルギー」「消化・吸収の促進」「代謝促進」「炎症抑制(ケガ予防)」「免疫調整」など、体の中でさまざまな働きがあり、スポーツ選手をはじめ多くの人の健康に寄与するとした。

また、腸内フローラを良好にするには、プロバイオティクス・プレバイオティクス(図2)の食材の摂取が適しているとし、これらを合わせて摂取すること(シンバイオティクス)は腸の健康にも直結すると述べた。

図2 腸内環境を整える食品と期待される効果・作用

激しい運動(トレーニング)は、腸の機能や運動後の免疫力低下をひき起こすことから、免疫系・神経系と強く結びつく腸を守るために、摂取すべき食品・成分の選択を考える必要があるとし、運動の2時間前にグルタミン(アミノ酸の一種:肉や魚に含有)を摂取することで腸壁が守られる可能性があるとの研究データを示した。

スポーツ現場で選手と接する機会の多い松生氏は、増減量やメンタルの変化によって、一時的に腹痛(不腸)が生じた場合、「腹部を温める」などで改善できるとアドバイスした。一方で、不腸は体の中で良い方向へ変化する前兆であり、必ずしもネガティブに捉える必要はないと話した。

さらに、先行研究や経験則から腸内環境の変化に有する期間は早い人で約2週間必要とし、変化による体調の良化や筋肥大との関連性が薄いとしながら、今後の研究成果によって詳細が明らかになるとつけ加えた。

セミナーには、プロウルトラトレイルランナー・宮﨑喜美乃選手も参加。スポーツ選手の視点から、須永・松生両氏に自身がおこなうコンディショニングの疑問点や実例を示しながら助言を仰ぎ、今後の活動に生かす姿勢をみせた。

セミナーを主催したサイキンソーは、腸内フローラの検査を通してコンディショニングの観点から研究・開発を進め、宮﨑選手らスポーツ選手へのサポート活動を積極的におこなっている。

スポトリ

編集部