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2020.07.18
連載
スポーツニュートリショニストも選手とともに 現場で戦う存在でありたい②【連載:スポーツ栄養の果たす役割 #03】 
松本 恵(日本大学文理学部教授、公認スポーツ栄養士)
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「スポーツニュートリショニストも選手とともに現場で戦う存在でありたい」——この目標を具現化し、さらにフィールドを広げていくためには、練習現場や試合会場において、かつての私自身がそうだったように、選手やコーチたちが私たちに対してぜひこの場にいて欲しいと望んでもらうことが大事。そのためには、現場における私たちの役割について理解してもらうことはもちろん、実際にそのメリットを感じ、納得してもらわなければなりません。

とはいえ、それは一朝一夕にできるわけではありません。なぜなら、食事というのは、それによって飛躍的にかつ目に見えてパフォーマンスが高まるわけではないから。したがって、地道な活動によって信頼関係を構築し、少しずつでも理解者を増やすことこそが、私たちのフィールドを広げていくための方策ではないかと思っています。

例えば、私はあるトップアスリートを学生時代からサポートしていましたが、今では、彼からの依頼で個人栄養士となって試合会場はもとより選手控室まで入ることのできるIDを発行してもらうようになりました。彼の体調や試合の経過に合わせて、食べ物、飲み物などすべての栄養を管理するのです。

彼が大学を卒業した後も大事な試合のときほど、「松本先生に帯同してもらってサポートしてほしい」とオファーしてくれることは、なによりも私自身にとって大きな励みとなったとともに、まだまだ道半ばではあるけれども、当初の目標に大きく近づくことができたという喜びにもなっています。今では、私の栄養サポートに対する思いの最大の理解者でもあります。

また、別の競技のあるトップアスリートが彼の後輩であるA選手に対してアドバイスした言葉もとても印象に残っています。A選手はもともと、炭酸ジュースが大好きで日々欠かすことなく飲んでいました。すると、当然のことながらコンディショニングにどうしても影響してしまい、なかなか体重コントロールが思い通りにいかない。そこで、私がA選手に指導しているところを見た彼が次のように言ったのです。

「松本先生のいうことを聞いたからといって、お前の記録が良くなるという保証はないかもしれない。今は調子も良さそうだ。だから食事を律しようという気持ちがすぐに芽生えないのはわからなくはない。けれども、自らの栄養管理を努めとしてしっかり遂行できなければ、強い選手には絶対にならない」。なるほど、と思いましたね。栄養の本質といったものをズバリ捉えているな、と。そこには私自身の学びもありました。

若い選手の場合はとくに、調子が良ければ良いほど、食事には気を使わなくなるものです。朝食を抜いたからといって、どうってことはないだろう、と。食事というのはそういう意味で、優先順位はあまり高くない。したがって、私たちを必要ともしない。実際、調子が良い選手ほど私たちに連絡はありません(笑)。ところが、試合に勝てなくなったり、記録が伸びてこなくなると、コーチを含めて頼りにされてくるのです( ´艸`)。

だから、私たちのスタンスとしても、調子のいいシニアの選手にはこちらからあえて何も言いませんし、わざわざアクセスすることもありません。実際、私たちのアドバイスがストレスになってはいけませんし…(笑)。

ところが、コンディションがマイナスに転じたり、現状を打破したいときなどは、最終手段として最も頼りになるのは食事なのかな、と。そういう意味で、食事・栄養というのは、選手にとって最後の切り札であり、いわゆる‟伝家の宝刀”といえるものなのかもしれませんね。

<次回へ続く>


まつもと・めぐみ

北海道札幌市生まれ。2004年北海道大学大学院農学研究科応用生命科学博士課程後期修了。日本大学体育学部体育学科教授。管理栄養士。日本スポーツ協会公認スポーツ栄養士。

大学では、陸上競技、柔道、トライアスロン、スキージャンプ選手などの栄養サポートに携わる。スポーツ貧血の改善・予防、試合時のコンディショニング・リカバリーなど幅広い研究をするとともに、ソチ・オリンピックではマルチサポート・ハウス ミール担当など多岐にわたり活動。日本スポーツ栄養学会理事。

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