2月26日、「国際スポーツ栄養学会(ISSN) 東京大会」がオンラインでおこなわれ、 「サプリメントの効果と安全性」をテーマに海外のスポーツニュートリション関係者がグローバルスタンダードな視点から基本的な考え方や最新知見などを披露した。

テランス・オローク氏は、サプリメントや食品原料その他の安全性に関する検査・分析・認証を行う英国・LGC社幹部で、東京五輪に合わせて2016年から日本国内でのプログラム開始にあたってマーケティングを主導した。

2022年現在、日本製商品の延べ300アイテム以上がLGC社の検査・分析・認証プログラムを受け、スポーツ選手たちの安全を守っている。ここでは、講演の内容に、LGC社参入前の日本の状況などを踏まえた編集部の視点を加えた。

ドーピング禁止物質すべてをチェックできるわけではない

国際オリンピック委員会(IOC)は、「サプリメントを摂取することで得られるメリットはある一方で、ドーピングのリスクも生じる。体内に禁止物質(薬物)を取り入れてしまうことに対して制裁規定を設けて、選手の健康面を守るべき」と、サプリに対する声明を発表している。

これを受け、LGC社は2007年にプログラムを策定し、世界アンチ・ドーピング機構(WADA)で禁止されている物質について、検査・分析と認証をおこなっている。LGC社のプログラムでは、WADAで禁止されている物質のうち230種超の検出が可能だが、毎年新たに禁止物質に認定される物もあるため、すべてを網羅できているわけではない。

世界中の商品でLGC社のプログラムが採用されているが、その理由として、①分析ノウハウの蓄積量(分析能力の研さんと向上が常に見込める)、②検出可能な禁止物質の数(230種の成分分析ができればリスクはかなり低減される。数十種の検出では安全性の担保など不透明)、③公平性(厳格な品質管理基準をクリアしないと認証されず、協賛金の多少などで忖度が生じない仕組み)、④製造バッチの定期的な検査(店の商品棚からランダムに分析対象商品を抽出する)などが挙げられる。

LGC社が持つ分析能力に比肩する機関は世界でも数えるほどしかなく、国内には存在しない。2016年にLGC社が日本でマーケティングを開始したことで、国内のサプリメーカーなどは多額の協賛金を支払うことなく、世界標準の検査・分析が受けられるようになった。

スポーツ選手(もしくは、摂取判断をする立場の人)が商品を選択する際、サプリの持つ機能性とともに「どの機関が、どのくらいの禁止物質を検出し、その分析能力を維持・向上できるか」(=資本規模の大きさ)も頭に入れておけば、安全に摂取することにもつながる。ただし、現状ですべての物質をチェックすることは難しいため、IOCの声明通り、常にメリットとリスクが同居しており、コンタミネーション(=コンタミ:異物混入)の低くない発生率がそれを表している。

ドーピングの元凶「コンタミ」

サプリ業界では、一般消費者や選手にメリットをもたらす革新的な成分の探索が日々おこなわれており、近年は植物成分、植物由来(プラントベース)成分への注目度が高まっている。しかし、植物などの天然由来成分には禁止物質含有の可能性もあるため、いくら流行していたり、機能性に優れていたりしてるからといって、安全に摂取できるかは別の問題になってくる。

サプリとドーピングに関して、「①禁止物質含有の原料使用」「②製造工程上のコンタミ」「③意図的なコンタミ」と、主に3つのリスクが存在している(図)。ドーピング=コンタミといえ、選手や製造メーカーを悩ませる大きな問題であり、対策をどのように講じるかで商品を提供する企業の意識の高さも問われる。選手の安全をしり目に、マーケティング目的で認証・分析を受けたとしても消費者からは支持されず、結局は市場から淘汰されることになる。

①はサプリに配合されている原料に、禁止物質が含まれている「製造工程前のコンタミ」。事前に製造・販売メーカーが把握することは極めて困難。近年では、製造メーカーへ原料を卸す前に、あらかじめ禁止物質の有無を検査する原料サプライヤーも出てきた。

2016年以前、某メーカーが原材料に禁止物質が入っているのを知らず(検査せず)に販売し、念のために商品の検査をしてみたらドーピング物質が混入していたというケースがある。微量だったため、大きな問題にはならず、むしろメーカーの知名度・売り上げが上がったという話があった。

②は諸悪の根源ともいうべき、最も多い事例「クロスコンタミネーション」。「禁止物質を取り扱っている製造施設で、混入防止の隔離に不備があると、同施設でサプリを製造する時に混入の可能性がある」。簡単に書き直すと、「(禁止物質を含んでいる可能性が高い)薬品を製造した後、しっかり掃除をせずに、同じ場所でサプリを製造する」。

これは、医薬品の取り扱いや製造を行う施設側の問題で、品質管理が適切に行われていない場合のリスクと考えられる。このリスクを排除するために、過度ではあるが、製造工程のみの管理にとどまらず、建築物そのものを検査・分析対象にして、認証を受ける工場もある。

数年前に大手サプリブランドの商品からごく微量の禁止物質混入が認められた。「不運」ともいえるクロスコンタミで、幸い提供を受けていた選手たちにも影響はなく、むしろごく微量な禁止物質を検出できる分析能力の高さが証明される結果になった。

③は、市場ニーズが高く、禁止物質と知りながら得られる効果の高い原料を配合した商品を製造する、いわば確信犯的なおこない。オローク氏によれば、ほとんどお目にかかるケースはないという。商品ではないが、飲食物に薬品を混入させて、意図的にライバル選手を陥れるといった行為はスポーツ現場で起こり得るので、口にする物には細心の注意を払わなければならない。

繰り返しになるが、商品を選ぶ際、ただ「検査を受けた商品」というお墨付きではなく、「禁止物質を検出する能力の高い機関が分析した商品」であることが重要で、消費者や製造メーカーなどから問い合わせを受けた際、検査・認証を受ける妥当性とともに、その点も強調している。

毎年10%は発生するコンタミの現実

禁止物質の検査・分析能力を向上させ、いくら対策を打っていてもコンタミは発生しており、分析能力と新たに出現する禁止物質のイタチごっこが続いている。

2000年初頭におこなわれたドイツの調査では、欧州諸国で販売された634品のうち14.8%から未申告(禁止物質リストに記載のない=のちに禁止になる)のステロイドが検出された。2007年にLGC社傘下のHFLスポーツサイエンスがおこなった調査では、米国のサプリ58品のうち25%から禁止ステロイド、11%から禁止興奮剤が検出されたことが明かされた。また、2008年の英国の調査では、10.5%の製品にステロイド、興奮剤のいずれかが含まれていた。

2010年代になってもコンタミ発生確率はそれほど変わらず、2016年のオーストラリアの調査では、高リスクとみなされた67品のうち19%で禁止物質が検出された。2018年にオランダでおこなわれた調査では、高リスク品66品のうち38%に未申告の禁止物質が含まれ、さらに21%がステロイド、15%が興奮剤だった。

近20年を見ても毎年10%前後でコンタミが発生しており、10品に1品は禁止物質が混入している計算になる。スポーツ選手が運悪く商品を選択し、検査に引っかかってしまう大きなリスクを負うことを考えれば、この数字は決して低くない。実際に、アサファ・パウウェル(ジャマイカ:陸上短距離)、マリン・チリッチ(クロアチア:テニス)ら、世界的に活躍していた多くのスポーツ選手がドーピングによってキャリアを傷つける結果になっている。

現状では「(分析能力に長けた)プログラムを受けたサプリ」の摂取がリスクを低減させることになるが、10%のコンタミ発生率が話を複雑にしている。得られるメリットよりデメリットの方が大きく見え、自分が摂取する物については、すべて履歴を取っておき、申し開きができるように、スポーツ選手は自己防衛の術を身につけておく必要がある。

安全なサプリの選択をするにあたり、「WADA公認サプリ」は存在せず、公平性を持ってアンチ・ドーピングを提唱する機関による直接的な‟利益供与”は認められていない(かつて日本ではおこなわれていた)。「●●公認」とけん伝し、売り上げ増を図ろうとするマーケティングが存在するが、信用すべきではないとオローク氏は警鐘を鳴らしている。第三者による監視、分析プロセスなどを透明化したうえで、選手・消費者、スポーツ機関、サプリメーカーが商品を把握するために、すべてを公明正大に行う必要があると断言している。

スポトリ

編集部