「神戸ゆかりの米からできるめんといえば?」と聞かれれば、ほとんどの人は「ビーフン」と答える。ビーフンは、それほど日本人にはなじみ深い食品だ。今回は、ビーフンのことなら何でも知っている製造・販売の最大手「ケンミン食品株式会社」の協力の下、ビーフンについて掘り下げていく。
ビーフンの始まりは天下統一事業とも関係!?
ビーフンは、秦国の君主・嬴政(えいせい)が中国を統一して始皇帝と名乗ったころ(紀元前220年)、中国南部で食べ始められたといわれている。中国・米粉文化博物館によれば、北方の国が長江を越えて南方へ遠征した際、食べ慣れていない米をひいて食べたと言い伝えられており、それがビーフンの原型となっている。その後、海を越えて台湾や米を生産する南アジア・東南アジアのほぼ全域に広まった。
簡単に手早く調理できるビーフンは重宝され、携帯食や高級食材として生活に定着していった。インターネットや人工衛星など、最初は軍事目的で開発された物が民間に普及したように、ビーフンも最初は軍用食として編み出された軍民転換の産物だったともいえる。
日本には、明治時代に台湾から伝わったとされ、ケンミン食品のお膝元・神戸市のソウルフードとして知られている。同社の調べによると、九州地方での消費量が断トツに多く、関東地方の約2倍に上る。中国、四国、近畿地方も消費量は多く、関西圏の家庭ではおなじみの食品といったところだ。
世界に目を移すと、発祥地・中国から広がりを見せ、各地域で独自の進化をとげている。パスタが主食のイタリアでは「ライスパスタ」として親しまれ、カレーがよく食べられる南アジアでは「ヌードルカリー」など、それぞれの食文化とビーフンが融合して新しい料理が生まれている。
グルテンフリー・低GIなど多様な魅力を秘める
漢字で「米粉」と書くように、ビーフンは米粉を原料にして加工した物。日本人が日ごろ食べている粘り気の多いジャポニカ米よりも、パラッとした食感で粘り気の少ないインディカ米の方がビーフンに適しており、世界中で流通しているビーフンのほとんどはインディカ米からできている。
「めん」に分類されるビーフンだが、食感や形状が似ている春雨、しらたき、くずきりとはそもそも原料が異なっており、ベトナムのビーフン「フォー」とは原料が同じでも製造方法が違う。めんは「米粉」「小麦粉」「でん粉」「そば粉」と大きく分けて4つの原料から作られ、「押出し」「麺帯」「垂下」「延ばし」といった製法が用いられる。ビーフンは通常、米粉に適度な水分を含ませた生地を、軽く蒸したあと穴が開いたプレート(ダイ)から押出して作られる(押出し系製麺)。
ビーフンの原料になる米は主食の食材でありながら、小麦やそばといった同じく主食の食材とは違い重篤な症状を誘発するアレルゲンではないため、それらの食物アレルギーを持つ人にとっては安心して食べられる。また、 環境問題や健康に配慮した食生活スタイルを選択する人が急増していることから、世界的にプラントベース食品のニーズが高まっており、植物性のビーフンは今後、流行とともに注目されていくことになるだろう。
ビーフンの製造技術や健康機能性について研究を進めるケンミン食品は、製造過程で加熱と冷却を繰り返す製法を用いると、米のでん粉が緩やかに消化される性質に変化することを突き止めている。いわゆる「低GI食品」で、糖質のコントロールが必要な人や糖尿病患者の食選択、体脂肪の合成を抑えながらエネルギー源として使える減量対策など、用途は幅広い。
ビーフン製造・販売のトップ企業が進める新機軸
ケンミン食品の主力商品「焼ビーフン」は昨年、発売から60年を迎え、「最も長く販売されている焼ビーフンブランド」として、ギネス世界記録に認定された。多くの人は、昭和後期ごろに流れたユニークでシュールなテレビCMのインパクト、一度は学校給食で食べた経験から、意外と身近な食品と感じるのではないだろうか。
現在は、創業者・高村健民氏から数えて3代目の祐輝氏が同社を率い、焼ビーフン以外にも商品ラインアップを充実させている。生活スタイルに合った商品開発、さらなる製造技術の研究、独自の企画など次々と新機軸を打ち出し、国内外で時代にマッチした事業展開を図る。近年は、ビーフンの持つ特徴を生かし、機能性を求めた商品の開発・販売にも積極的に乗り出している。
その一つが「主食のめんで、たんぱく質が摂れる」をコンセプトにした「高タンパクめん」だ。米をベースに、プラントベース原料として脚光を浴びているエンドウ豆のたんぱく質(ピープロテイン)を高配合し、グルテンフリーの栄養サポート食品として上市した。
高たんぱくめんの開発者・高垣良氏は「たんぱく質は従来、おかずから摂取するものとされていましたが、ライフスタイルが変化する中、各家庭でおかずを充実させることは難しくなってきたと思います。そこで、簡単なワンプレートメニューやおかずが用意できない主食を中心とした食事でも、たんぱく質が不足しないように摂取できないかと考え、新しいタイプのビーフンを開発しました」と語る。
ビーフンやそばに近い食感が味わえて栄養素も補給できるので、日常の主食以外でも汎用性が高い。フィットネスジムやスポーツ関連施設でも引き合いが強く、スポーツ分野とも親和性があり、特に運動習慣のあるアクティブな20歳から50歳代までの支持を集めている。食事量の減少に伴って、たんぱく質の摂取量も減る高齢者の主食としても期待できる。
機能性めんの開発・販売に加えて、世界的にニーズが高く、日本でも流行の兆しが見え始めている「グルテンフリー食」の生活を応援する「ライスラーメン」の販売も控えている。同社はこれまで、ビーフン製造で培った技術を生かした「ライスパスタ」など、グルテンフリーの食生活をより豊かにする商品を展開してきた。
グルテンフリーを実践したいけど、大好きなラーメンは食べたい麺好きに向けて、米国・ボストンで人気を博しているラーメン店「Tsurumen Davis」の大西益央氏と共同でライスラーメンの開発に着手した。
「ラーメンらしさとは何なのか」を追求し、ビーフンの技術に自問自答と試行錯誤を行い、ラーメンさながらの食感や風味を備えた商品に仕上がった。現在、テストマーケティングを行っており、近日中に詳細が発表される予定だ。