原料を知っておけば、商品選択を間違えることはない

これまでの特集関連記事で、米ぬかには栄養素が詰まっていることを伝えてきたが、米ぬかが持つ機能性成分だけを安全に抽出して原料化された物が、医薬品、サプリメント、食品などに活用されていることをご存じだろうか。

米ぬかからは、こめ油、フィチン酸、フェルラ酸、γ-オリザノール、植物ステロール など、多くの機能性成分が抽出される。「抽出」と一言で表しているが、有効成分のみを取り出すことはとても難しく、いわゆる原料サプライヤー(供給業者・企業)が独自に開発した技術や方法を用い、原料として加工・製造している。

サプライヤーは、私たち消費者と直接かかわることはほとんどないが、世の中に流通する商品は原料なくして作ることができない。だから、社会で最も重要な役割を果たしていて、多くの産業を下支えしているといっても過言ではない。

食品・サプリ関連のサプライヤーでいえば、その多くは自社で取り扱う原料に関して健康・運動・美容などの研究データ(ヒト試験、マウス実験など)、安全性、用途に至るまで詳細な情報を公表しているので、商品選びの際のヒントが詰まっているといっていい。商品に配合されている原料の特性がわかっていれば、自分の生活スタイルに合った商品を正しく選択できるようになる。

体感や効果が期待できる物の多くは、露出の高いテレビCMや有名人が紹介している物ではなく、サプライヤーがオリジナルに開発した原料が使われているケースが多いのも事実。原料の世界を知ることは、充実した毎日を送る手助けにもなってくるのだ。せっかくお金を出して健康を求めるのだから、確かな物を選びたい。

ライスケミカルのパイオニア「築野グループ」

玄米から取れる米ぬか・胚芽を加工して原料化している日本のトップサプライヤーの一つが、和歌山県に本社を構える築野食品工業株式会社(築野グループ)。築野政次氏が1947年に創業した。

創業者の政次氏は太平洋戦争の従軍経験があり、戦地で何度も食べ物がない境遇に置かれたことで、「生きて帰ったら、食糧の安定供給が図れる事業で社会に貢献したい」と志を立てた。そして、苛烈な戦線を生き抜いて無事生還を果たした後、日本でも麦を食べる機会が増えていたことから、国指定の精麦工場を創立するに至った。

商売上、米関連業者ともつながりがあった政次氏は本業の傍ら、精米後に出る米ぬかの処理を手伝っていたが、肥料や飼料用に米ぬかを配布しても大量に余っていたため、業者たちは処理に困っていた。この状況を目の当たりにしていた政次氏は「何とか有効利用できないか」と模索していると、米ぬかから油が精製できることを知った。

当時、こめ油の精製は関東圏で進んでおり、政次氏は技術を学んで関西圏に持ち帰ってこめ油精製事業をスタートさせた。米ぬかは酸化が早く、すぐに加工しなければ再利用できなくなるため、集荷のスピード、高度な精製技術も求められる。 現在でも米ぬか精製の企業がそれほど多くない理由として、米ぬか集荷の難易度が高く、技術的にも難しいことが挙げられ、 戦後まもなく事業化して発展させたことは画期的だった。

政次氏の手によって関西圏にこめ油文化が持ち込まれると事業は軌道に乗り、新たな事業に乗り出す準備が整った。のちに会社の舵取りを託される娘の富美氏は常日頃、「人がやらないようなことをやれ」と政次氏にいわれていたことから、日本では採用例がなかった医薬品原料「米ぬか由来イノシトール」の製造事業を立ち上げる。1972年のことだ。

米ぬか由来イノシトールの製造事業は競合が少なく、スタートから順調だった。しかし、1990年代に入ると事業存続の危機を迎える。イノシトールは米ぬか以外にトウモロコシからも抽出される。トウモロコシ由来イノシトールは主に中国で生産され、米ぬか由来に比べると安価。当時国内でも採用例が急増していた。

“外国産”に押されていた中、富美氏は米ぬか由来イノシトールの新たな価値を高めようと、海外の研究者や有識者に研究を依頼することにした。結果、「健康的価値が高い成分」「将来性がある」「遺伝子組み換えがない分、トウモロコシ由来よりも高品質」と各所で評価されるに至った。

同じころ、米に含まれる成分の新たな可能性を見出すことを目的に、世界中から研究者を招いたシンポジウムを同社が主催。これをきっかけに国内外で米の成分研究が活発になり、健康面で科学的根拠が示された米ぬか由来イノシトールの価値も上昇した。

現在は、イノシトール製造をけん引した富美氏が2代目となり、「環境に優しい製品が人々の健康や美につながる」をモットーに国内外で事業を展開している。創業以来のこめ油精製(食品向け)をはじめ、米ぬかから抽出されるフィチン酸、フェルラ酸、マグネシウムなどの原料化(医薬品、化粧品、サプリ向け)、こめ油の廃油をリサイクルしたインクや接着剤の原料となる工業用油脂の製造など、米ぬかを軸にここまで事業化している企業は世界に例がない。

政次氏の思いから始まった築野グループはいまや、食糧の安定供給に寄与しており、戦時に立てた志をとげようとしている。また、富美氏が手掛けたイノシトールも世界中で研究が進み、健康機能性に関する科学的なデータが蓄積されている。

次項では、同社の発展とともにあったイノシトールが持つ健康機能性、特に近年注目が高まっている妊活に関するエビデンスについて紹介する。

築野食品工業の事業スタイル

男女の妊活に関する研究進むイノシトール

イノシトールは体内に多く存在する栄養素で、体内 で合成することができる。水溶性のビタミンB様作用物質(ビタミンBと同じような作用を持つ)として知られている。米穀類や種子に多く含まれ、米の食経験が長い日本人には比較的受け入れられやすい成分といえる。

日本の食品安全委員会によれば、イノシトールは「人の健康を損なうおそれのないことが明らかであると考えられる」とされている。米国食品医薬局(FDA)でも適正に製造する範囲で、GRAS 物質(Generally Recognized aSafe:一般に安全とみなされる物質)と定義されており、ヒトがイノシトールを摂取することで生じる健康被害はないと思われる。

最近では妊娠関連の研究が活発に行われており、女性の排卵機能改善、男性の精子状態改善など「妊活」に直結するような成果が示されている。

女性の排卵機能が低下する主な原因として、過度なダイエット、激しい運動、精神・身体的ストレス、肥満などが挙げられる。症状が進むと、無排卵や月経不順、ホルモンバランスの乱れによる卵胞(卵巣内にある卵子と間細胞。卵胞は小さい状態から成長し、成熟した後に排卵へと至る)の発達不足、さらに排卵が起きにくくなる「多嚢胞性卵巣症候群(PCOS:polycystic ovarian syndrome)」をひき起こすことになる。

イノシトールを摂取することで、卵胞 成熟機能の改善が期待されているが、排卵機能に異常をきたしている患者を対象にイノシトールを摂取させて、その後の反応を確認した。以下、研究成果を紹介する。

◆卵母細胞数(成熟前段階の卵胞。数が多ければ排卵数も多くなる)の向上1)
40歳未満のPCOS患者で不妊治療中の女性34人をイノシトール4g+葉酸400μg摂取/日(イノシトール群)と葉酸400μg摂取/日(プラセボ群)に分け、3カ月間継続摂取させた。試験終了時に、採取可能な卵母細胞数を2群で比較したところ、イノシトール摂取群が有意に多いことがわかった(p < 0.05)。また、不妊治療で用いられる移植胚の数もイノシトール摂取群の方が多い結果になった。

◆卵巣の感受性の改善2)
卵巣の反応不良患者76人をイノシトール群とプラセボ群に分け、3カ月間継続摂取させた。結果、イノシトール群の方が、卵巣感受性指数が有意に高く、精巣や卵巣に作用してその機能を刺激するゴナトロピン(性腺刺激ホルモン)に対する卵巣の感受性が改善することが示唆された。また、未成熟卵の数もイノシトール摂取群の方が減少していたことが確認された(p < 0.05)。

◆卵子の質と妊娠率の向上3)
顕微授精治療失敗歴のある40歳未満の患者149人をイノシトール2g+葉酸400μg+D-キロイノシトール400μg摂取/日(イノシトール群)とプラセボ群に分け、3カ月間継続摂取させた。結果、イノシトール摂取群の方が、卵母細胞が良好な状態で保たれている人が多く、移植胚の質も良かった。また、双方の臨床妊娠率を比較したところ、プラセボ群が42.9%だったのに対し、イノシトール群は62.1%と有意に高かった(p < 0.05)。

イノシトールには上記のほか、妊娠糖尿病の抑制効果4,5)も確認されており、女性の妊活、不妊治療において大いに役立つ可能性がある。また、不妊男性の精子状態を改善する研究報告6)もあり、イノシトールは男女の共同作業である妊活をサポートする成分であることが示されている。

【参考文献】
1) L Ciotta etal.: Effects of myo-inositol supplementation on oocyte’s quality in PCOS patients: a double blind trial, Eur Rev Med Pharmacol Sci., 15(5) 509-14 (2011)

2) Francesca Caprio etal.: Myo-inositol therapy for poor-responders during IVF: a prospective controlled observational trial, J Ovarian Res., 12(8) 37 (2015)

3) G F Brusco etal.: Inositol: effects on oocyte quality in patients undergoing ICSI. An open study, Eur Rev Med Pharmacol Sci., 17(22) 3095-102 (2013)

4) Barbara Matarrelli etal.: Effect of dietary myo-inositol supplementation in pregnancy on the incidence of maternal gestational diabetes mellitus and fetal outcomes: a randomized controlled trial, J Matern Fetal Neonatal Med., 26(10) 967-72 (2013)

5) Rosario D’Anna etal.: myo-Inositol supplementation and onset of gestational diabetes mellitus in pregnant women with a family history of type 2 diabetes: a prospective, randomized, placebo-controlled study, Diabetes Care., 36(4) 854-857 (2013)

6) A E Calogero etal.: Myoinositol improves sperm parameters and serum reproductive hormones in patients with idiopathic infertility: a prospective double-blind randomized placebo-controlled study, Andrology., 3(3) 491-5 (2015)

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編集部