体に利用できるアミノ酸はすべて「L」

アミノ酸は私のキャリアの原点ではあります。しかし、それよりもはるかにロマンがあるのは、生物が存在した証として宇宙で探索されている化合物であるということです。アミノ酸は「アミノ基」と「カルボキシ基」の両方を持つ有機化合物の総称で、自然界には約500種類ほどのアミノ酸が見つかっています。今後の宇宙開発で前代未聞のアミノ酸が見つかるかもしれませんね。

さて、アミノ酸の分類方法は大きく分けて化学構造的分類と生物学的分類とあって、その傘下にいろいろな分類方法があります。

まずは化学構造的分類で、一番の基本としては光学異性によるもの。これは、「L-アミノ酸」と「D-アミノ酸」の2つに分かれます。アミノ基と側鎖(R)の位置関係が鏡に映ったように逆転している立体構造をしており、たんぱく質を構成しているのはすべてL-アミノ酸です。バクテリアの細胞壁に存在するのがD-アミノ酸で、発酵食品に多く含まれていますが、ヒトには利用されません。

必須・非必須、糖・ケト、側鎖・・・アミノ酸を知るためのキーワード

次にアミノ基の位置による分類があります。α、β、γ、δと4種類あって、カルボキシル基がついている炭素(C)に対していくつ目の炭素にアミノ基がついているかです。つまり、αは同じ炭素、βは2つ目、γは3つ目、δは4つ目の炭素にアミノ基がついていることになります。

アミノ酸にはアミノ基とカルボキシル基以外に、側鎖という炭素の鎖(chain)がついていて、それが各アミノ酸の生物学的な特性や物性を大きく左右しています。

代表的な側鎖による分類は、枝分かれしている分子がついているロイシンなどを含む分岐鎖アミノ酸(BCAA: branch-chained amino acid)。ベンジル基のようなベンゼン環がついているフェニルアラニンなどを含む芳香族アミノ酸(aromatic amino acid)。硫黄を含む側鎖のついているメチオニンなどを含む含硫アミノ酸(sulfur-containing amino acid)があります。

遊離アミノ酸(free amino acid)、結晶アミノ酸(crystallin amino acid)という言葉も聞いたことあるかと思いますが、これは工業的に作られてEAA製品などに使う単体のアミノ酸のことを指します。

生物学的な分類としては、たんぱく質の構成に使われる20種類のアミノ酸と、たんぱく質に含まれないその他のアミノ酸と分類できます。さらに、前者は体内で合成できる非必須アミノ酸(11種)と、食品から摂取しなければならない必須アミノ酸(9種)に分類されます。必須アミノ酸はEAA(Essential Amino Acid)とも呼ばれていて、次回以降にその重要性を説明いたします。

たんぱく質に含まれないアミノ酸の例として、シトルリン、オルニチン、β‐アラニンなどが挙げられます。これらはたんぱく質の構成には使われませんが、窒素代謝など体内のさまざまな機能で重要な役割を果たしています。

次に重要な生物学的分類は、その代謝的な位置づけです。アミノ酸は特にエネルギー不足下ではエネルギー源として代謝され、その代謝経路の入り口が異なることと産物が異なります。アミノ酸の中で代謝経路に取り込まれて糖の生成に用いられるアミノ酸を「糖原性アミノ酸」といいます。また、ケトン体の生成に用いられるアミノ酸を「ケト原性アミノ酸」といいます。イソロイシンなどは糖とケトン体両方の基質になり得ます。

さらに、生物学的な分類方法として、制限アミノ酸という概念があります。これは体内でたんぱく質が生成される過程で、原料となるアミノ酸がバランス良く存在することが必要なのですが、あるアミノ酸が不足するとタンパク合成は最適に進みません。そのようなアミノ酸を「制限アミノ酸」と呼び、一番目に不足するのが第一制限アミノ酸、次に不足するのが第二制限アミノ酸と呼ばれます。

食品と同配合なのに薬品扱い? 日本だけが抱える法の矛盾

化学構造でも生物学でもない分類方法が我が国にはあります。それは法的な分類で「食薬区分」といいます。1971年に厚生省(現:厚生労働省)から出された通知(俗にヨンロク通知)で、栄養素や化合物成分が「食品」と「医薬品」に明確に分類されました。

その後何度も改定されたものの、いまだに国際的にも矛盾の多い状況を我が国に残しています。例えば、海外ではサプリメントとして販売されていて、エルゴジェニックエイドとしてエビデンスもそれなりにあって安全なアミノ酸である「タウリン」は、いまだに我が国では医薬品扱いになっていて、国内ではサプリメント(食品)として使えません。

また、現在スポーツサプリメントとしても浸透しているBCAA(ロイシン、イソロイシン、ロイシン)と同等な配合で薬価のついている医薬品(リーバクト)が存在し、年間60億円程度の医療費が使われています。我が国のこの法的分類の歪みは、いろいろな意味で是正する必要があると思います。

500種類以上あるアミノ酸をいろいろな分類方法でグルーピングをしていますが、これらを正しく理解することが、アミノ酸の代謝や物性をより深く理解することにつながります。そして、我が国でも安全で効果の期待できるアミノ酸がサプリメントとして使える環境を作るべきだと思います。

青柳 清治(栄養学博士、一般社団法人 国際スポーツ栄養学会 代表理事)

米国オキシデンタル大学卒業後、㈱協和発酵バイオでアミノ酸研究に従事する中で、イリノイ大学で栄養学の博士号を取得後、外資企業で栄養剤ビジネス、商品開発の責任者を歴任した。2015年にウェアブランド「アンダーアーマー」の日本総代理店と務める㈱ドームのサプリメントブランド「DNS」の責任者を務める。2020年より㈱DNSでサイエンティフィックオフィサーを務め、2023年3月より一般社団法人 国際スポーツ栄養学会代表理事。