NEAAってホントに必要なのか?

EAA解説①で示した通り、たんぱく質の構成に使われる20種類のアミノ酸は、体内で合成できる11種類の非必須アミノ酸(NEAA)と、食品からでしか摂取できない9種類の必須アミノ酸(EAA)に分類されます。

プロテイン製品に多く使われているホエイのアミノ酸組成(表)は、45.4%がNEAAで40.4gがEAAです。つまり、ホエイ中の約半分のアミノ酸は体内で合成できるので、乱暴な表現をすれば「無駄」なアミノ酸を摂取していることになります。ホエイがスポーツニュートリション分野で珍重されている理由は、そのEAAの量とその中でも筋タンパク合成を刺激するロイシンが多いところにあります。

ここで、いかにEAAが重要かを物語る研究成果1, 2)を紹介します。健常な人に対し、18gのEAAと22gのNEAAを足した物(計40g)を少量に分けて、10分おきに3時間かけて摂取してもらい、動脈血と静脈血のアミノ酸含量の差とバイオプシー(生検:一部の組織を採取し、顕微鏡などで詳しく調べる)による筋肉へのフェニルアラニンの取り込みを調べました。その結果、筋タンパク量を増やすのに重要なのはEAAだけであって、NEAAはあっても意味がないという結果です。

さらに重要なのは、EAAの摂取タイミングにあります。EAAが筋タンパク合成を刺激するメカニズムとして、末梢の血中EAA濃度の急激な上昇が必要3)になるのですが、そのために筋肉に刺激を与える「運動前」にEAAを摂取する必要があります。

摂取タイミングと同様に重視したいのが「吸収速度」です。EAA解説②で解説したように、たんぱく質も最終的にはアミノ酸やペプチドに分解されて吸収されますが、工業的に作られた遊離アミノ酸(または結晶アミノ酸)はホエイなどのたんぱく質由来のアミノ酸よりも吸収が早く、末梢血中EAA濃度を早く上昇させることができます4)。つまり、EAAは筋タンパク合成の刺激が早く、効果的、かつ重量当たりで効率的であることがいえます。

「何でもプロテイン」はもう古い!? 時代はEAAへ

EAA製品が市場に出てきた20年ほど前は、ホエイプロテイン製品のEAAアミノ酸バランスをまねた処方が多く見られました。その後、ロイシンが筋タンパク合成を刺激することがわかってくると、ロイシンを強化した処方が多くなりました。要するに、時代のトレンドに合わせて配合素材を変えたり、配合成分を特化させたりする見せ方をして視線をずらす。これはマーケティング側の都合ともいえます。

通常は9種類のアミノ酸の配合なのですが、中にはトリプトファンが配合されていない物もありますし、条件付き必須アミノ酸であるアルギニンを加えて10種類のアミノ酸配合(EAAlpha)もありますが、EAA製品で最も重要なのは「アミノ酸の配合バランス」なのです。

大半のEAA製品は、アミノ酸の配合に関する特許を取得していません。極論をいえば、もの凄く売れているA社の製品があって、B社が儲けようと配合を真似して製品を売り出しても問題はないということです。実際には、企業間の大きなトラブルになるためありえませんが、怪しいと思しき製品は日本にたくさんあります。

私が注目している「EAAlpha」は、製品に含まれる配合自体の特許を持っています。珍しいケースですが、それには理由があります。 EAAlpha は、EAA研究の第一人者である米国アーカンソー大学のDr. Arny FerrandoとDr. Robert Wolfeの2人が20年の歳月をかけて完成させた処方です。EAA研究の集大成として世に出した物を簡単に真似されては困るので、配合特許を取得することでプロテクトしたわけです。

通常のEAA処方の推奨摂取量は15g程度なのですが、EAAlphaは同等の筋タンパク合成率が約1/4の3.6gで可能になります4,5)。従来品から大きく改善されたそれは、2人の研究者だからこそ出せた、科学的根拠のあるデータといえるでしょう。

EAAはホエイなどのプロテインが持つ部分を効率的に摂取できる、ある意味「山椒は小粒でもピリリと辛い」の山椒の実のような物。携帯性にも優れていてシェーカーや水がなくてもタイムリーに摂取できるメリットがあるので、プロテインに置き換わっていくべきスポーツサプリメントとみています。

【参考文献】
1) Volpi E et al.: Essential amino acids are primarily responsible for the amino acid stimulation of muscle protein anabolism in healthy elderly adults, Am J Clin Nutr78(2) 250-258 (2003)

2) Christos S. Katsanos et al.: Whey protein ingestion in elderly results in greater muscle protein accrual than ingestion of its constituent essential amino acid content, Nutr Res., 28(10) 651-658 (2008)

3) Gwin JA et al.: Essential Amino Acids and Protein Synthesis: Insights into Maximizing the Muscle and Whole-Body Response to Feeding, Nutrients12(8) 2457 (2020)

4) AA Ferrando et al.: Oral branched-chain amino acids decrease whole-body proteolysis, J Parenter Enteral Nutr., 19(1) 47-54 (1995)

5) Douglas Paddon-Jones et al.: Differential stimulation of muscle protein synthesis in elderly humans following isocaloric ingestion of amino acids or whey protein, Exp Gerontol., 41(2) 215-9 (2006)

青柳 清治(栄養学博士、一般社団法人 国際スポーツ栄養学会 代表理事)

米国オキシデンタル大学卒業後、㈱協和発酵バイオでアミノ酸研究に従事する中で、イリノイ大学で栄養学の博士号を取得後、外資企業で栄養剤ビジネス、商品開発の責任者を歴任した。2015年にウェアブランド「アンダーアーマー」の日本総代理店と務める㈱ドームのサプリメントブランド「DNS」の責任者を務める。2020年より㈱DNSでサイエンティフィックオフィサーを務め、2023年3月より一般社団法人 国際スポーツ栄養学会代表理事。