神戸女子大学・坂元美子先生による「Z世代におくるスポーツ栄養講座」。第1回は「なぜ成長年代の食が大切なのか」をテーマにお送りする。
坂元先生の人生、キャリアを通じて得た経験が背景にあり、Z世代への栄養指導に力を入れる理由となっている。
Z世代:欧米で10~20歳を指す言葉として使われている。スポトリでは「成長世代」と同義と捉えて使用する。
ケガが多いZ世代の選手たち
多くの高校生たちは、試合で活躍するために体を酷使しながらたくさんトレーニングを積んでいます。
オーバートレーニングについては最近、(野球の)投球数制限や成長期での試合数減がようやく叫ばれてきましたが、それでも無理をして練習をする選手が後を絶ちません。
ケガをして当たり前」の感覚でトレーニングをすれば、スポーツ障害や女子選手の生理不順からくる疾病(貧血、骨粗しょう症など)につながってしまいます。
これらの問題は食事面と相関があり、予防の観点から食が大きな影響を及ぼすことがわかっています。したがって、食事のとり方を考えることが、成長期のスポーツ選手にとっていかに重要かを感じています。
現役生活が長いベテラン選手の特徴…それは成長期の食事にあり
プロ野球選手に栄養指導をしていた時、成長期こそ食事の重要性を訴える必要があると気づきました。体作りがプロになる前にある程度できていれば、プロになってもケガをしない、丈夫な体で試合に臨むことができるからです。
プロ野球は毎日のように試合があり、暑さの厳しい夏でも体調を崩さないようにしなければ、シーズンを乗り越えることができません。ナイターも多いので、生活のリズムを一定に保つことが難しくなります。
さらに、プロ野球選手はお酒をよく嗜みます。この点は、指導する側として苦労したこともあるんですが、一見すると無茶な食生活を送っていても活躍するベテラン選手がいるんですね。
こういったベテラン選手が小・中・高の成長期にどのような食事をしたかを分析すると、おやつが煮干しだったり、毎朝同じ物を食べるんですが、消化・吸収がよい加工食品に頼らない食事だったりと、成長期に必要な栄養を自然にとることで丈夫な体を作り上げていたのです。
体がしっかりできていれば、プロになった後に無理が利くようになるので、結果として選手寿命が長くなります。ただ、これは「成長期に適切な栄養をとっていたから」であって、その点に理解がなくプロ入り直後の選手がベテランの真似をすると、ケガをしたり、かえって選手寿命が短くなったりするので、気をつける必要があります。
私は高校生まで小児ぜんそくを患っていて、体育の授業も毎回休むような生活を送っており、スポーツとは無縁でした。小児ぜんそくは通常であれば、体や内臓の成長に伴って改善されていくんですが、私の場合は違いました。ですから、ステロイドを注射するために通院する日々が長く続いていました。
通院が続く中で、看護師さんにお世話になっていたこともあり、病院看護師を将来の職業として考えていました。ある日、「これからは栄養の時代」と父からの助言を受け、管理栄養士を志すことにしました。
神戸女子大学に進んで栄養学を学び、それまでの食生活を振り返ると、自分がいかに体に良くないことばかりしていたと気づいたんです。それから少しずつ食事を変えていき、大学を卒業するころにはガラッと食事内容が変わっていました。
食事内容が変わったことで、体調もどんどん良くなって小児ぜんそくも完治していました。ですから、食事の内容次第で体調の良し悪しが変わってくることを身をもって経験することができたんです。
最近、「自分の体をしっかり理解し、向き合うことがスポーツ選手には大切」という話題に触れたんですが、まさしくその通りです。私も大学4年間で同様の経験をしているのでよくわかります。
プロ選手の指導を通じて得た成長世代の食の重要性、食で病気を克服した自らの経験を踏まえることで、成長年代への適切なアドバイスができているのではないかと思っています。
坂元 美子(神戸女子大学) 文・構成:編集部
神戸女子大学卒業後、仰木彬監督、イチローが在籍するオリックス・ブルーウェーブ(当時)の栄養サポートを担当。在任中に球団の栄養サポート体制を構築、日本シリーズ制覇も経験した。その後、スポーツ系専門学校を経て母校に戻り、健康スポーツ栄養学科で教べんを執る。
特に、サッカー・野球の栄養指導・サポートに定評があり、強豪校での指導経験が豊富。企業との共同研究、スポーツサプリメント開発を手掛けるなど、活動の幅は広い。プロのスポーツ現場で雇用された管理栄養士の先駆け。