長野県産あんずとの出会い、スポーツ選手の〝疲労回復〟に活用

今回は、長野県産あんずをスポーツ選手に活用してもらったエピソードを交えながら、魅力を紹介していきます。

スポーツ選手にとって疲労回復は、パフォーマンスを発揮するために目を向けるべき点です。疲労回復を促す成分としては、柑橘類に多く含まれる「クエン酸」が知られています。

ある時、世界大会へ臨むスポーツ選手に疲労回復に関する栄養アドバイスを促され、国産レモンをジャム(コンフィチュール風)にして持って行ってもらおうと考えていました。ところが、季節は春。初夏が近づくにしたがって、柑橘類は旬でなくなるため、手に入りにくくなっていました。

そこで、農協などに足を運び、代わりになる食品はないかと探していたところ、長野県あんずに出会ったのです。乾燥あんずは見慣れていたのですが、生あんずは意外に大きい印象でした。選手からは「あんずジャムは食べやすく、補食として取り入れやすい」と好評でした。

中国生まれの「あんず」、長野県は日本最古の一大産地1)

あんずは、ヨーロッパ原産とされてきましたが、19世紀に入って中国原産の説が有力になっています。

紀元前の地理書「山海経」や中国最古の薬物書「神農本草経」にもあんずの記述があることから、中国では古来の果物の一つとして位置づけられています。5~6世紀にはすでに数多くの品種が確立されていたようです。

日本には10世紀ごろに伝わったとされていますが、根づいたのは16世紀前後。江戸時代の俳諧論書「毛吹草」の諸国名産品の中に「信濃の杏仁」と明記されていて、長野県は一大栽培地だったようです。実際、長野市の森林区内には樹齢100年を超えるあんずの老木が存在し、古くから栽培されていた裏づけになっています。

日本国内での伝播は、広島→長野→北海道・東北地方とされています。現在の主な産地は伝播経路と同様、広島・香川、長野、青森・福島などで、そのうち青森と長野の2県が生産の9割以上を占めています。

気になるあんずの栄養成分は?

あんずには、クエン酸のほか、ビタミンE、β-カロテン、リコピンなど抗酸化作用のあるビタミンやポリフェノール類が含まれます。主な栄養素2)は以下の通りです。

・カリウム
ナトリウムとともに細胞の中と外の水分調節をしていて、血圧に関係するミネラルといわれています。

・β-カロテン
赤の色素を持つカロテノイドの一つで、体内ではビタミンAに変換されます。ビタミンAの働きと同じで目の粘膜や皮膚の健康を維持し、目の機能、鼻や喉、消化器の粘膜に関係するビタミンです。細胞の老化を抑制し、がんや動脈硬化の予防に働きます。

・ビタミンE
細胞膜の酸化を防ぎ、動脈硬化を抑え、血行を良くする働きもあります。

・食物繊維
水溶性、不溶性と両方の食物繊維が含まれ、腸内環境の改善、便秘予防になります。

・リコピン
赤の色素を持つカロテノイドの一つで、強い抗酸化作用を持ち、消化器系のがんに対する予防効果が確認されています。

・クエン酸
有機酸の一つで疲労回復、血行促進に働きます。

加工品の話ではありますが、あんずを食生活に取り入れる際に注意すべき点があります。

ビワやあんずなどの種には青酸を含むシアン化合物「アミダグリン」が含まれています。ネットや一部のインフルエンサーの間で、「ビワの種は健康にいい」「アミダグリンがガンに効く」といった声が上がっていますが、全く根拠のない話です。

誤食して不調にならないためにも、リテラシー(情報の精査)をもって食品を選択することが必要です(農水省による注意喚起)。

あんずに含まれるクエン酸、運動前の摂取で効果も!?

栄養成分が豊富なあんずですが、摂取効果については今後の研究次第で、スポーツ分野に至っては確たるエビデンスがありません。ですから、ここでは、あんずに含まれる「クエン酸」に着目して考えてみたいと思います。

クエン酸摂取と疲労・運動パフォーマンスに関する研究は多くおこなわれていて、最近の研究でもその有用性は示されています。

①低強度運動前のクエン酸摂取3)
被験者11人をプラセボ群・クエン酸摂取群に分け、運動前にクエン酸を摂取することで、運動中・後の血中乳酸濃度(血液検査)、身体疲労(主観的アンケート)、運動中・後のパフォーマンス(握力測定)への影響を評価した。


被験者は、運動前にクエン酸(プラセボ)を1000mg摂取し、自転車エルゴ―メーターを50W強度で15分、70W強度で20分連続してこいだ。


試験の結果、乳酸濃度は運動開始15分時点でクエン酸群の方が有意に低値を示し、運動後の握力はクエン酸群の方が有意に高かった。運動後の疲労感は、クエン酸群の方で「眠い」「身体が重い」の項目で有意に低かった。


※試験は、ランダム化二重盲検プラセボ対照クロスオーバー。

②運動前のクエン酸摂取と持久的パフォーマンス4)


男子大学生ランナー17人をプラセボ群・クエン酸摂取群に分け、クエン酸摂取が持久力にどのような影響があったかを評価した。


被験者は運動2時間前に、体重1kgあたり0.5gのクエン酸を含む溶液1ℓを摂取。5kmトレッドミルランの走破タイムを両群で比較した。


試験の結果、プラセボ群の走破タイムは平均1183.8秒だったのに対し、クエン酸摂取群は1153.2秒と短縮された。


※試験は、二重盲検プラセボ対照クロスオーバー。

これらの摂取効果に対して、「なぜそうなるか」のメカニズムについては今後の研究成果を待つ必要がありますが、少なくともクエン酸の摂取タイミングは「運動前」が良さそうです。

クエン酸に関する研究の紹介でしたが、私のように「旬が過ぎてしまった」「手に入れにくい」などの理由で食材が使用できない場合、あんずを代用することも一考です。

欧米では、あんずを採用したスポーツバー(ジャムや生地に練り込んだ物など)が数多く販売されています。クエン酸ほか栄養成分が豊富なため、効果が見込まれること、味や使い勝手がいいことから、スポーツ分野で支持されている果物といっていいでしょう。

あんずジャムで「疲労回復」効果を!

クエン酸を効果的に摂取するためには、グルコースとの併用が有効とされ、グリコーゲンの回復が早くなるとされています5)

あんずに含まれるβ-カロテンなどから抗酸化作用も見込めますので、運動で受けるストレスも軽減されて効果の倍増が期待できます。

スポーツ現場で運動前に好まれる物として、「甘すぎない」「胃腸に負担がかからない」との声があり、食感を考えて液体やゼリーよりも少し食べ応えがある物が望ましいと思います。

そうなると、あんずを砂糖で煮るジャム(コンフィチュール風)で、果肉が入っているプレザーブスタイルが良いと考えました。

料理時間
10

あんずジャム(コンフィチュール風)

【材料】
アンズ(生)300g~400g(1個70g相当で5~6個)
砂糖(きび糖)あんずの量の40~50%
レモン汁少々

作り方

①あんずの種を取り、皮ごと鍋に入れて砂糖を加え、よく混ぜてしばらく置いておく。
②水分がでてきたら火にかけて、あんずの形が崩れてきたら、完成。

・煮詰め具合はお好みで調節してください。仕上げにレモン汁をお好みで加えても◎。

あんずジャムは、ライフセービングスポーツ日本代表・三井結里花選手に提供し、「過去一番でおいしい」と喜ばれました。甘酒にあんずジャムを入れるとフルーティーになるので、疲労回復の補食として三井選手お気に入りの組み合わせです。

【参考文献・資料】
1) 中央果実協会「アンズ」

2) 日本食品標準成分表2020年版(八訂)文部科学省

3) Ryohei Kono et al.: Effects of citric acid oral intake before low intensity exercise on blood lactic acid and feeling of fatigue – A randomized, double-blind, placebo-controlled, cross-over study, JPT, 45(3) 395-403 (2017)

4) Oöpik V. et al.: Effects of sodium citrate ingestion before exercise on endurance performance in well trained college runner, Br J Sports Med, 37, 485-489 (2003)

5) Yoshiharu shimomura et al.: Influence of Lemon Juice and Citrate on Blood Lactate Concentration after Exercise in Humans., Journal of Nutritional Science and Vitaminology, 54(1) 29-33 (2001)

・吉田企世子(監修) : 旬の野菜の栄養事典 最新版 春夏秋冬おいしいクスリ, エクスナレッジ (2016)

・上西一弘 : 食品成分最新ガイド「栄養素の通になる」, 女子栄養大学出版部 (2022)

吉田敦子(管理栄養士、NCPメンバー)