はじめに

私は、フリーのスポーツ栄養士・管理栄養士として活動しています。その活動の中でいつも感じているのは「体は食物の栄養からできている」ということです。

体をつくる上で、たくさんある食材の中から自分に適した物をどのように選ぶかで、スポーツをする人の体格やパフォーマンスが変わってくると考えています。私は日本で活躍する選手、運動をする人を「国産食材」で応援しながら、活躍や健康を願っています。

今回、NCPメンバーとして、編集部から「長野県で獲れる農産物が、スポーツや運動に適している可能性を探りたい」と、企画の執筆依頼をいただきました。

この企画は、私が考える「地域の食材で運動する人を応援」に通じるもので、専門家としてみなさんに役立つ情報を発信できればと思いました。

長野県は食材の宝庫で、リンゴやブドウ以外にもスポーツシーンで活用できる可能性があることを改めて知りました。

とにかく豊富なので悩んだのですが、3つの食材を厳選してみなさんにお伝えしたいと思います。今回はプルーンを紹介します(管理栄養士・吉田敦子)。

長野県は生産量全国第2位、プルーンの主な栄養成分とは?

最近では「健康に良い」というイメージから、プルーンを食べる人も多いのではないでしょうか。

「西洋すもも」と呼ばれるだけあって、発祥は黒海(西アジア)とカスピ海(東ヨーロッパ)の中間にあるコーカサス地方で、2000年前から作られてきた歴史があります。

日本で食べられる多くは外国産の物ですが、日本でも、「アーリーリバース」「シュガー」「サンプルーン」などの品種が作られています。

北海道、青森、山形、鹿児島など9道県で生産されていて、山梨県が生産量日本一。長野県は2番目に多く生産されています。

プルーンに含まれる主な栄養成分は図11)の通りで、カリウム、マグネシウム、葉酸、ネオクロロゲン酸が多く含まれているのが特長。プルーンに含まれる成分と体の関係について解説を加えます。

図1 プルーンの主な栄養成分

・カリウム
ナトリウムと共に体の細胞の水分調節をおこなっており、筋肉の収縮、弛緩の働きを正常に保つミネラルです。

・マグネシウム
カルシウムと拮抗して筋肉の収縮をスムーズにし、糖質をエネルギーにしたり、たんぱく質の合成を助けたりするなど、酵素反応を介して生理機能を支えるミネラルです。

・葉酸
ビタミンB群で、正確には「ビタミンB」。葉酸は赤血球をつくる時に必要で、貧血予防として鉄と一緒に取るとより効果的です。

細胞の遺伝情報が詰まっているDNAの合成に必要な成分(補酵素)です。DNAの合成が正常にされることで、細胞はその情報を正確にコピーしながら分裂し、新陳代謝や成長をしていきます。健全な発育のために特に重要になってきます。

・ビタミンA
粘膜や皮膚の健康を維持します。目の機能、鼻や喉、消化器の粘膜に関係しています。

・ビタミンK
血液の凝固に関係し、骨の形成を助け、体に吸収されたカルシウムを骨に取り込むのに役立ちます。プルーンは果物の中で特に含有量が多いです。

・ネオクロロゲン酸
抗酸化物質として機能し、抗ストレス、アンチエイジング効果があります。こちらも、プルーンに多く含有されている特徴的な成分といえます。

・食物繊維
水溶性、不溶性のどちらも含まれていて、腸内環境の改善や便秘予防に効果的です。

低GI食品の摂取は、競技のパフォーマンス向上に好影響!?

プルーンには、高い抗酸化作用(ケガ予防ほか)や腸内環境の整備、体重コントロール(ダイエット)、骨の健康など、これまでにさまざまな摂取効果が認められています。ここでは、プルーンが低いGI(グリセミック・インデックス)値を示す食品であることに着目し、運動シーンでどのように活用できるのかを探っていきます。

まず、GI値とは食後血糖値の上昇を示す指標のことで、グルコースを100とした場合、70以上の食品を「高GI食品」、56~69の食品を「中GI食品」、55以下の食品を「低GI食品」と定義されています。

プルーンなど低GI食品は、食べてもすぐに血糖値が上がらないため、一般的にⅡ型糖尿病患者に有効とされています。

スポーツシーンに目を向ければ、糖質がゆっくりと使われ、エネルギーがより持続することになるので、持久系競技などの「運動前」の「エネルギー補給」に適しています。

図22)は、代表的な低GIの果物になります。糖質補給としてよく使用されるバナナと比較しても、プルーンはそん色ない数値を示しているのがわかります。

図2 低GⅠ値の果物

ここで、持久系競技者が低GI食品を摂取した際、運動パフォーマンスと疲労軽減(早期回復)が見込めることを示す研究報告があるので紹介します。

なお、研究ではレンズ豆(GI値:28~37、品種による)2)含有の栄養バーが使用されていますが、プルーンも同程度のGI値なので、置き換えて考えることができます。

<被験者>
サイクリング経験のある20~30歳代の男女11名

<試験に使用された食品>
①レンズ豆含有の低GI栄養バー(GI値:47、エネルギー量:830kcal)
②中GI栄養バー(GI値:56、エネルギー量:756kcal)
③プラセボ(ノンカロリー)

<試験の実施方法>
①~③と摂取条件を変えて3回実施。それぞれの摂取効果を公正にはかるため、試験終了から次回の試験開始まで最低でも1週間以上のインターバルを置き、同様のコンデションで試験受けられるように調整した。


・試験1時間前に、炭水化物1.5g/kg相当量摂取(エネルギー補給)。

・[1日目] 最高酸素摂取量(VO2 peak)の65%強度で75分間のサイクリング、同強度で7kmのタイムトライアル(TT1)を連続して実施した後、リカバリ目的のために試験前と同量を摂取させた。

・[2日目] 回復状況を評価するため、24時間後に再び、7kmのタイムトライアル(TT2)を実施した。

<主な評価項目>
・血しょうグルコース濃度(体内エネルギーとの関係)
食品摂取から5・15・30分後、サイクリングスタート時、スタートから25・50・75分後、TT1後に測定し、①~③で群間比較。


・血中乳酸濃度(疲労度との関係)
食品摂取から5・15・30分後、サイクリングスタート時、スタートから25・50・75分後、TT1後に測定し、①~③で群間比較。

<結果>
・血しょうグルコース濃度は、②にほとんど差はなかったが、③とは有意差があった。

・TT1では、③が平均619秒(±81秒)だったのに対し、が平均574秒(±55秒)、②が平均583秒(±59秒)と短縮された。

・TT2では、②が569秒(±42秒)、③が平均566秒(±42秒)だったのに対し、は平均547秒(±42 秒)と大幅にタイムを短縮した。

・サイクリング75分後において、②の血中乳酸濃度はと比較して有意に低かった。

・TT1後の血中乳酸濃度について、②は③と比較して有意に高かった。

この結果から、低GI栄養バーを運動前に摂取することで運動パフォーマンスが向上し、運動後に摂取することで翌日の運動パフォーマンスにも好影響を及ぼすことが示されました。

Kavianiら4)は翌年にもサッカー選手を対象に、低GI栄養バー(レンズ豆含有)と高GI栄養バーを使用した比較検討試験をおこなっていました。今回の結果同様、低GI栄養バーの有用性、パフォーマンスの向上が示される研究結果を報告しています。

「運動前の補食」に使えるプルーン、おすすめの食べ方

生のプルーンはそのままでも、もちろんおいしいですが、より効果をアップさせるためにヨーグルトドリンクとしてアレンジしてはいかがでしょうか?

プルーンが持つ栄養機能性は先に紹介した通りですが、脂溶性のビタミンA・Kが含まれているので、ヨーグルトの脂質と一緒にとると吸収率がアップします。

ヨーグルトは100g相当61kcalと低エネルギーで、GI値も36と低く、プルーンとの相乗効果が見込めます。

誰でも簡単にできるので、生のプルーンが手に入った時はぜひお試しください。ドライのプルーンも持ち運びに便利なので手軽に食べられる補食にも利用できます。

料理時間
2

プルーンのヨーグルトドリンク

【材料(1人分)】
プルーン(生)60g(プルーンを凍らせておくと、スムージー風に!?)
ヨーグルト:100g1個
はちみつ:少々(お好みで)中2本

作り方

①プルーンを皮ごと適当な大きさに切り、ミキサーに入れる。
②ヨーグルト、はちみつを加えてミキサーにかける。
③グラスに注いで出来上がりです。

注意点として、プルーンは糖アルコール(糖として吸収されない)が含まれるので、一度に大量に食べるとお腹が緩くなる場合がありますので、1日2~3個にしておきましょう。

プルーンはGI値が低く、持久系の運動前に摂取することで競技中のパフォーマンス向上が見込め、運動後のその後のリカバリにも有用です。

また、筋肉の収縮、弛緩に関係するミネラル、粘膜や骨の代謝に関わるビタミンなどスポーツをおこなう時のコンデションに関係する栄養素も含まれています。さらに、激しい運動によってかかる酸化ストレスを軽減する成分も含まれるため、ケガの防止などにも役立ってきます。

今回は、プルーンの持つ機能性が運動シーンでどのように活用できるかを考えてみました。みなさんの生活スタイル、運動習慣に合わせて上手に使っていきましょう。

【参考文献・資料】
1) 日本食品標準成分表2020年版(八訂), 文部科学省

2) Kaye Foster-Powell etal.: International table of glycemic index and glycemic load values, Am J Clin Nutr, 76(1) 5-56 (2002)

3) M. Kaviani etal.: The Glycemic Index of Sport Nutrition Bars Affects Performance and Metabolism During Cycling and Next-Day Recovery, J Hum Kinet, 27, 69-67 (2019)

4) M. Kaviani etal.: The Effects of Low- and High-Glycemic Index Sport Nutrition Bars on Metabolism and Performance in Recreational Soccer Players, Nutrients, 12(4) 982 (2020)

・吉田企世子(監修) : 旬の野菜の栄養事典 最新版 春夏秋冬おいしいクスリ, エクスナレッジ(2016)

・上西一弘 : 食品成分最新ガイド「栄養素の通になる」, 女子栄養大学出版部 (2022)

吉田敦子(管理栄養士、NCPメンバー) 構成&編集:編集部