運動に関するすべてが集まった展示会「SPORTEC2024」が7月16~18日に開催され、競技スポーツ、運動をする人に向けた商品・機器関連ブースが軒を連ねた。

ここでは、今後注目したい商材を紹介しながら、独自で忖度なく評価(◎・〇)。評価基準は、「新しさ」「機能性(配合原料のエビデンス)」「原料コストと値段設定」「露出度の低さ(広告宣伝<商品の質)」「将来性」を加味した。

空調の老舗が運動分野へヨコ展開

低酸素システム(ダイキン工業)

連日猛暑日が続き、冷房が欠かせない今の時期。多くの人がお世話になっている空調機器の老舗「ダイキン工業」が、これまで培った技術力を生かして運動分野に進出してきた。

同社が提案する「低酸素システム」はもともと、医療向けに開発されたもの。低酸素空間を作ることで低強度の運動でも高い運動効果が期待でき、早期の社会復帰、生活習慣病の改善などを目的にリハビリテーション施設での実績を残してきた。

酸素濃度を18.2~13%(標高1200~3900m相当)にコントロールできるため、より運動効率が高まるとされる「高地」でのトレーニング環境を再現することも可能。山地へ移動することなく、地上にいながらトレーニング強度・効率を高められる。

システム設置にはそれなりの場所の広さなどが必要なので、トレーニング・フィットネスジムへの提案(Business to Business)が主だが、それでも導入例は増加傾向。また、福利厚生の一環として、社員や職員などに健康のための運動を推進する企業にも引き合いが強いという。【注目度:〇】

必要な栄養素をAIで自作・摂取する時代へ

オーダーメイドサプリメントサーバー「GRANDE(グランデ)」(ドリコス)

近年「サプリメントサーバー」の展示が増加。ホットな分野として注目され、大手サプリメーカーも進出している。

ヘルスケアのオートメーション化事業を手掛けるドリコスは、世界発のAI搭載サプリメントサーバー・GRANDEで、全く新しい観点から市場をけん引する。

サーバーの開発者はいわゆる技術畑出身で、利用者の体組成データを基に運動前後に必要な栄養素を算出し、専用のサプリ(ドリンク)を提供する。

「代謝アップコース」ならビタミンを中心とした11種のブレンド、「ボディメイク」ならBCAAなど5種のアミノ酸に代謝アップコースの11種類をブレンド、「バルクアップコース」ならトリプトファンなど6種のアミノ酸をベースに、他コースの栄養素を組み合わせる。1万通り以上の配合パターン、高い効果が見込める栄養素(原料)の選択は、多くの論文を分析して最適化した。

パッケージなどのコストはかからず、配合パターンはAI技術。自動販売機のように不足したら原料を追加するだけなので、手間もかからない。利便性の高さからニーズが高く、大手ジムのティップネスをはじめとする350店舗以上が導入を決めている。【注目度:◎】

「摂取タイミング」を意識した注目商品

フルーティープロテイン2種(Cycle.me)

ここ最近で注目していた商品。ブランド名が表す通り、「1日のサイクルで適切な栄養補給」をコンセプトに、時間栄養学の観点から朝・昼・夕の時間帯、運動シーンでいえば、運動前・中・後の摂取タイミングを強く意識している。

すでにスナック、クッキーなどがラインアップされているが、プロテインドリンクに注力する。たんぱく質15~20gが摂取でき、レモネード味に加え、今夏には新作のパイナップル&ゴールドキウイとグレープを発売。「スッキリとした味わいの高栄養価ジュース」といった印象で、味が秀逸だ。

プロテインと好相性の持続性糖質「パラチノース」を採用することで、腹持ちの良さ、食後血糖値の抑制、エネルギーの持続などが期待でき、運動シーンでもマッチ。最適な配合原料のチョイスは、商品価値を高める一因になっている。

主に大手コンビニエンスストアでの販売なので入手しやすく、シックでクールなパッケージデザインも好印象。今後、さらにラインアップを充実させていく方針とのこと。

欧米の市場では摂取タイミング・サイクルを売りにした商品が長くトレンドになっているが、一般層に向けた商品が日本でもようやくお目見えした。【注目度:◎】

地産地消で運動・食育を盛り上げる

そのまんまさつまいもスティック(一般社団法人 てるてる坊主・食の三重づくし三太郎:三重県)

エネルギー量、食物繊維が豊富なさつまいも(紅はるか)を主原料にしたスティックタイプの補食。

「さつまいもを体づくりにうまく使いたい」とのボディビルダーからの要望から開発がスタート。地元・三重県産の規格外さつまいものみを使用し、食材が無駄にならないように強く意識した。さまざまな意見を聞きながら、ありそうでなかった商品に仕上げた。

中身はさつまいもをペースト状にした物で消化・吸収効率が良く、スポーツようかん(井村屋)とイメージがかぶる。手軽に持ち運べる形状から、ランニング・サイクリングなど長距離系スポーツ、レジャーと相性がいい。また、食品ロスや地産地消の観点から、食育にも一役買うことができるだろう。

展示会が初披露で、今後は知名度・商品価値を高めながら全国への普及を狙う。

なお、てるてる坊主は、身体や精神に障害を持つ人々への社会進出・復帰を支援する団体。食の三重づくし三太郎は、日替わり・バイキング形式・ワンコイン(500円)をコンセプトにした食堂。【注目度:◎】

冷凍食品も上手に活用したい

プロテインぎょうざ(味の素冷凍食品

冷凍食品市場で上位の売り上げを誇る同社が、運動向けにアレンジした「プロテインぎょうざ(1袋・約42個/1kg)」。

高たんぱく・低脂質の鶏肉を主原料にしたぎょうざで、1食分(8個)で一日に必要なたんぱく質を半分以上(約33.6g)補うことができる。油や水がなくてもフライパンで焼ける簡単調理、トレイがなく冷凍庫で保存しやすい形状と、消費者に寄り添った沿った商品を提供している。部活動を頑張る親御さんが作る弁当の一品として、練習後の食事として汎用性が高い。

担当者は「冷凍食品は昔と比較すると、格段に質が上がっています。冷凍ぎょうざは人気の食品なので、一般の方にも、運動をする方にも、使いやすいように商品を仕上げました。冷凍食品の価値を広げるために今後も随時新しい商品を考えています」と話す。

同社の強みは、本体である「味の素」に、スポーツ現場でのサポート、関連研究の推進など、深く幅広い知見があること。エビデンスや情報を共有することで、運動シーンにも使える冷凍食品の開発を可能としている。【注目度:〇】

雑感


全ブースを回ったが、有名インフルエンサーやYouTuberを広告塔に使っている企業・商品は対象外とした。意識としては「どうやって手っ取り早く売りさばくか」なので、商品の質を評価する以前の話。来年も出展しているかどうか。と昨年書いたが、案の定、今年は出展していなかった。

過去2年で乱立していたCBD関連のブースも、完全に姿を消した。大麻関連をめぐっては、医療分野での法整備が進んでいるとはいえ、日常や運動シーンなど一般層が手軽にCBDを活用するメリットは何かを考えると難しいだろう。ブームは終息したか。

コロナ禍を機に一般の運動意識は高まる一方。伸長著しいのがスポーツジムなど運動関連施設で、年々出展社のエリアが拡大している。運動と極めて親和性の高いニュートリション分野の出展社は徐々に減少している印象だ。

スポーツニュートリション分野でいえば、東京五輪前後によく見られた、出展社とつながりのあるスポーツ選手を広告塔にしたパネル、「〇選手も使っている」といったうたい文句はほとんど見られなくなった。

これは、よりいい商品を探すための情報の増加、自分に合った物を選ぶ知識・意識が高まっているため、いわゆる広告塔マーケティングが通用しなくなってきている(騙せなくなっている)ともいえる。一定の効果はあると思うが、品質が大事。

また、各社の話を聞いて多かったのが、「スポーツジムでの販売連携」。運動をする層の増加は、ジム会員の増加とリンクし、運動機器、関連食品・サプリメントも、ある程度まとまった集客が見込める場所で販売できれば、一定の売り上げが見込める。大手ジムと組めれば、商品価値も高まる。メリットが多いため、近年はジムとのコラボが主流になっている。

世界的に見ても一強のプロテイン商品が多く、各社はパウダー形状、RTD(ドリンク)、バーなどをラインアップし、多様化が進む。欧米の10年前のトレンドが日本に入ってきている状態だ。とがった物(運動機能向上が見込める〝強力な〟原料)を配合した商品はあまり見られず、今後も海外のトレンドに時間差で追随する流れは変わらないだろう。

スポトリ

Kiyohiro Shimano(編集部、ISSN-SNS:スポーツニュートリションスペシャリスト)