GOAT(Greatest OAll Time:史上最高)級の選手になる可能性を秘め、NBAファンからも大きな期待を寄せられているパワーフォワード(PF)ザイオン・ウィリアムソン(ニューオリンズ・ペリカンズ)は、相次ぐケガによって将来が不安視されている。

一方、持てる力を存分に発揮し、ザイオンとともにヤングスターの筆頭格になっているのが、メンフィス・グリズリーズのポイントガード(PG)ジャ・モラントだ。ザイオンとモラントはともにサウスカロライナ州で育ち、アマチュアのクラブで一緒にプレーをした盟友でもある。

2019年NBAドラフトで全体1位、2位指名されてプロ入りも同時(モラントが1歳上)。この年はGOAT級のザイオンがドラフトの超目玉で、モラントはザイオンに次ぐ評価とはいえ、「1」と「2」の間に大きな開きがあった。

しかし、プロ入り後、ケガで苦しむザイオンをしり目に、モラントはアクロバティックなプレーでファンを魅了。これまでに新人王、オールスター2度出場、MIP(最も成長した選手)選出など、ザイオンを上回る活躍を見せている。

ひとめでわかる独特のドレッドヘアをなびかせ、コートを縦横無人に駆けるモラントだが、3月に銃の違法所持で出場停止処分を受けた。素行に多少問題のある面を見せたものの、復帰後は過ちを悔い、バスケットボールに集中している。

スピードとクイックネスのモラントとパワフルなザイオン。ドラフトの評価が逆転しつつある2人のプロ入り前の境遇、プロキャリア、プレースタイル、ニュートリションへの意識などを比較しながら、モラントが活躍を続ける理由を探っていく。

1年目からチームをけん引するモラント

モラントのフルネームは、テメトリウス・ジャメル・モラント。両親が幼いころにモラントを「ジャ」と呼んでいたことから定着した。

クレストウッド高校時代のモラントは、地元・サウスカロライナ州の優秀選手に選出されるほど活躍、知る人ぞ知る選手だった。

ローカルな活躍だったため、名門・強豪大学からはリクルートされず、結局マレー州立大学(ケンタッキー州)へ進んだ。同大はNBAへ過去12人送り出しているが、一線級の活躍をした選手はいない。

その中でモラントは、シーズンを通して1試合平均20得点、10アシストを記録するなど大きなインパクトを残し、全米でも注目される存在に成長していった。プロへの道筋は、名門・デューク大学で注目され続けたザイオンとは対象的。

しかし、ドラフト前に下されたモラントの評価はザイオンに勝るとも劣らないものだった。評価コメントは次の通り。

ーースピード、クイックネス、爆発的な跳躍力を誇るダイナミックなアスリート。自分自身とチームメイトのためにオフェンスを作り出すことに長け、創造的なパスは見る者を魅了する。体格に勝る相手にもひるまず果敢にチャレンジするメンタリティがあり、リーダーシップと決断力がズバ抜けている。ボールハンドリングが最大の武器で、非常にハイレベルなPGーー

不安視されたのは、ディフェンス、3Pシュート、ターンオーバー(ボール喪失)の多さくらいで、即戦力とみられていた。

プレーオフ進出から遠ざかっていたグリズリーズに入団したモラントは1年目から先発PGを務め、1試合平均17.8点、7.8アシストを記録。得点とパスでチームをけん引し、周囲の評価に違わない活躍を見せた。

2年目以降、特に1試合平均得点は19.1→27.4→26.6(2023年4月4日現在)と飛躍的に伸び、モラントの活躍、リーダーシップの下、チームもプレーオフ常連に復帰。

今季も上位をキープし、すでにプレーオフ進出を決めた。ちなみに、ザイオン入団以降のペリカンズはプレーオフ進出を果たしていない。

勝負がかかったプレーオフになると、モラントの動きはさらに洗練される。14試合しか経験がない(勝ち進めなかった)ものの、1試合平均28.2点、9.2アシストとシーズン成績を上回り、クラッチプレーヤーの片りんも見せている。

不安視された3点で目立った改善は見られないが、守備型選手、3Pシューターがそろうグリズリーズではそれほど目立たず、むしろ長所がより強化されている印象だ。

1シーズン82試合のNBAで、モラントは1シーズンあたり60~70試合(大半は先発。1年目はCOVID-19の影響で短縮シーズン)の出場に留まる。

当たりの激しいNBAの中で、モラントも多くの選手と同様、ケガとの戦いは尽きない。アスレティックなプレースタイルだけに、背中、腰、尻、脚、太もも、かかとと痛めている箇所は全身に及ぶ。

それでも、長期欠場の多いザイオンとは異なり、モラントはいずれも軽度のケガのため早期で復帰し、意識的な欠場(休養やリコンディショニング)を挟みながら、シーズンを通しての出場が可能になっている。

モラントは細かいケガが多いことから、1日の中で体のケアにかなりの時間を費やす。朝一番で治療やマッサージを施し、練習の合間の休憩も長く取り、体のリフレッシュを促している。

手が長く、身長190cmとPGとして理想的なサイズを持つモラントだが、体重は79kgとややスリム。細身ながら積極果敢にゴールへ向かう姿勢がケガの多さにつながっている点もあるが、モラントの体はまだ発展途上。

スピードとクイックネス、跳躍力といった自身の長所を損なわないように、食生活や体づくりを続けている。

エネルギー確保を第一に考えた食生活

モラントは、ファッション・カルチャー誌「GQ」のインタビューで、自身の食生活について明かしている。

それによれば、大学時代から食生活はほとんど変わっておらず、他の選手のいい所を見よう見まねで取り入れてきたと話している。ただ、十分な食事量を確保することが大事だと気づき、プロになってもそれを続けているという。

また、モラントの父・ティー、母・ジェイミーが作る家庭料理(スパゲティ、ラザニア、チキンウィング、フライドポテト、バーベキューリブ、ベイクドビーンズ、ダーティライス)が大好物とのこと。

1回の食事でいろいろと手の込んだ物が出てきたため、サプリメントやジャンクフードを口にする機会が少なく、食生活から何かを削る必要がなかったとしている。

このことから、最も大事な成長期において、モラントの父母が体づくりのために気を使っていたこと(バランスの良い食事を用意)がうかがえる。

NBA入りして以降は少し食事制限をしているものの、基本的には炭水化物、脂質、たんぱく質、ビタミン、ミネラルをバランス良く食べることを心がけている。食事制限後にはチートデイを設け、チョコレートやケーキをむさぼり、それなりに楽しんているもよう。

運動量が多く、エネルギー消費が激しいため、モラントは特に運動前(試合前、トレーニング前)の炭水化物の摂取を欠かさないようにしている。

1日の食事でもそれは垣間見え、朝食はフルーツとたんぱく質&炭水化物、昼食と夕食にはたんぱく質、脂質、野菜に加え、必ずご飯が入っている。

ここで、モラントと前回紹介したザイオンの食生活に違いがみえる。アクティブなモラント、ケガで動けない日々が多かった非アクティブなザイオンで状況は異なるものの、ザイオンはケガが癒えた後、それほど長くないシーズンオフにハードトレーニングと食事制限で急激な減量を試みた。その間、エネルギー源である炭水化物の摂取を抑えている。

これは、ガソリン(炭水化物)が足りない状態で、超大型車(ザイオン)が高速(ハードトレーニング)で長距離(急激な減量)を走ろうとしているようなもの。ガソリンが十分ならそもそも問題は起きにくいが、足りなければ必ずどこかに無理が出てくる。

減量しなければいけないとはいえ、エネルギー源である炭水化物の摂取を限定した食生活を送るザイオンにケガが頻発し、ポテンシャルを十分に発揮できない背景はここにあるのかもしれない。

少なくともモラントは減量をする必要がなく、「食生活から何かを削る必要がなかった」の真意はここにある。多少のケガがあってもエネルギーが十分で動き続けられれば、パフォーマンスやスキルを上げることにも目を向けられる。

翻ってザイオンは、まずは減量から入らなければならないので、工程が一つ増える。オフシーズンの間にすべてをこなすには限界があり、準備不足のままシーズン開幕。最初のうちは調子がいいが、ガソリン切れを起こす中盤以降に無理がたたって失速、ケガによる長期欠場。これを毎年繰り返している。炭水化物摂取の捉え方が両者の健康の差になり、結果的にザイオンは停滞し、モラントは年々成績を向上させている。

また、ポジションの違いがあるとはいえ、モラントはザイオンのように体を大きくすることを考えず、パフォーマンスを発揮できる今の体形を維持する方向で考えている。

乳製品、卵、魚や豆類などから良質なたんぱく質を摂取するのも、筋肉はもちろんだが、骨を強化する(ケガ予防)という目的がある。モラントの食生活はこれといった特別なものではないが、必要なことと理解し、淡々と向き合っているようだ。

ケガが多いため、抗酸化成分を含むピーナッツ、クルミ、カシューナッツなどのナッツ類は小腹満たしのために頻繁に摂取しているほか、運動や試合前に1時間の睡眠をとる、1日を通じた水分補給など、自身の体のケアとコンディショニングを上手におこなっている。

ザイオンを一回り小さくしたようなモラントだが、ダイナミックなダンクやキレキレのプレーをファンに提供する裏に、ハードなトレーニングがある。1日のうち、トレーニングに当てる時間はそれほど多くないが、動きの質・筋肉の質を上げることを優先している。

1週間のうち5日はトレーニングをおこない、1時間体を鍛え上げる。パワートレ、ジャンプトレ、下半身強化、ボールトレとメニューは日ごとに変えたり、組み合わせたりしている。残りの2日は水泳などの有酸素運動を加え、トレーニングに変化を持たせながら取り組む。

モラントが初めておこなった本格的なトレーニングは、父・ティーが考案したタイヤを使ったジャンプトレ。驚異的な跳躍力は間違いなくこのトレーニングで磨かれ、下半身強化に結びついたと自身が明かしている。帰郷した際には、原点に戻って父や友人とタイヤドリルに勤しむ。

順調にスターダムに上り詰めるモラントは、早いうちから体づくり、トレーニング、食事と父母の協力を得てきた。それを受け入れ、現在もそのマインドを忘れずにプロ生活を送っている。

ザイオンとモラント。好対照の2人だが、今のところコンスタントに活躍し続けるモラントに軍配が上がっている。ただ、ザイオンも健康さえ取り戻せれば、モラント以上のインパクトを残すことは間違いなく、チームも上昇していくはず。

盟友の2人はプロ1年目の新人オールスターの時、久々にタッグを組んだが、それ以降、共闘・対峙しているシーンにはなかなかお目にかかれない。

来季はバチバチにやり合う好敵手同士の争いが見られるのか。モラントの進化し続けるパフォーマンス、ザイオンの健康状態(効果的な減量はできるのか)にはこれからも注目したい。

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Kiyohiro Shimano(編集部、ISSN-SNS:スポーツニュートリションスペシャリスト)