マジック・ジョンソン&ラリー・バード、マイケル・ジョーダン、コービー・ブライアント、レブロン・ジェームズ、ステフィン・カリー――一時代を築くスーパースターが絶えず出現し、NBA人気は衰えることなく隆盛を誇っている。

レブロンが現在のNBAをけん引するスーパースターなら、ニューオリンズ・ペリカンズのパワーフォワード(PF)ザイオン・ウィリアムソンは、この先10年のNBAを背負って立つ一人になる可能性は極めて高い。

ザイオンはプロ4年目(実働3年)ながら、すでにオールスター選出2回。先日、NBA歴代最多得点記録保持者になったレブロンは「ザイオンのようなサイズ、スピード、運動能力のある選手を見たことがない」と、その才能を認めており、恐るべきポテンシャルはプロ入り当初からすでに発揮されていた。

ただ、ザイオンは1シーズン82試合のNBAで、健康的に過ごせたシーズンが一度もない。1年目からケガによって欠場を余儀なくされ、4年目の今季も序盤はオールスターに選出されるほどの活躍を見せていたが、2023年に入ってからハムストリング(太もも裏)を痛めて欠場を続けている。

ザイオンはオフシーズンに減量や食生活の改善に着手し、ケガとも無縁のシーズンを送るはずだった。しかし、度重なるケガにより、今後の将来にも一抹の不安を残している。

スポーツ選手としての素質は最高級

ザイオンは、身長198cmとPFとしてはそれほど大きくないものの、ウイングスパン(両腕を水平に広げた時の指先から指先までの長さ)は210cm。身長と同じ長さが一般的といわれる中、ザイオンは規格外のサイズを持つ。バスケットボールの場合、ウイングスパンが長いと、リバウンドやスティールなど球際の局面で有利になる。

体重は公称128kgとなっているが、おそらくそれ以上あるだろう。ザイオンよりも身長の高い選手がそろい、ゴール近辺が主戦場になるPFの中でも当たり負けせず、逆に相手を吹っ飛ばすシーンを頻繁に目の当たりにする。何でもできるため、ポジションレスな選手ではある。

NBA史上でも最重量級のザイオンだが、40ヤードを4秒台半ば(最速は4秒22@NFL選手)で走り抜けられるスピードがあり、垂直跳びも114cmとずば抜けている。つまり、「デカくて、速くて、高くて、強い」。スポーツ選手にとって最高の身体・運動能力を持っているのがザイオンということだ。

その上、ボールハンドリングも悪くなく、自陣でリバウンドをもぎ取りボールをキープしながらハーフコートを駆け抜け、自分で得点をする、もしくはゲームメイクして味方をアシストする。

3Pシュートはほとんど放たないが、ゴールに近い位置からのシュート(2P)成功率は3年間平均で6割を超えており、効率的に得点を重ねられる。

プロ入り後3年間(19、20、22歳)平均でザイオンが残した主要スタッツは、25.8得点、7.0リバウンド、3.6アシストとオールラウンドな活躍を見せており、レブロンの同時期(26.5得点、6.6リバウンド、6.6アシスト)と比較してもそれほど見劣りはしない。

※同時期水準で2人に迫る成績を残しているのが、ダラス・マーベリックスのポイントガード(PG)ルカ・ドンチッチ(プロ5年目、24歳)。

一方で、出場試合数は大きく水をあけられている。レブロンは新人から4年間で12試合しか欠場していない。プレイオフも合わせると、試合数増加による肉体面の負担が大きいにもかかわらずだ。ザイオンはプロ入りから2023年2月27日時点で307試合出場する機会があったが、すでに193試合も欠場している。

プロ入り後4年間の1試合平均出場時間は、レブロンが40分前後に対してザイオンは30分前後に留まり、大黒柱、エースというには物足りない数字。

健康であれば、圧倒的なスピードとパワーから繰り出される超人的なプレーでコートを支配し、ファンを沸かせるザイオンだが、今のところそれも限定的になっている。

ケガの多さから減量と食生活の改善に着手

スパルタンバーグ・デイ高校、デューク大学時代と、早くから将来のドラフト1位選手として注目され続けたザイオンは、高いパフォーマンスを見せる裏で長い間ケガに苦しんできた。

プロ入り後だけでも、膝、足首、爪先、指、脚、尻、ハムストリングと、相次いで下半身を中心としたケガに見舞われている。

ザイオンが全体1位指名された2019年NBAドラフト前から、体重とケガのリスクの高さに関する指摘はされていた。

「身体能力に頼るプレースタイルと重すぎる体重は、脚や膝に大きな負担がかかり、選手生命を縮めてしまうかもしれない。113~117kgが理想だが、太りやすい体質だけに実現は不可能に近い」

残念ながら、指摘された通りに事は進んでいる。

太りやすい体質は、全休した2021~2022年シーズン、コートサイドや軽いトレーニングをするためにひょっこり姿を現した時に露呈し、周囲にも心配されていた(参考動画①太り過ぎたザイオン@Bleacher Report)(参考動画②シェイプされた今季のザイオン@NBA)。ケガによりほとんど動けない状態で、一説によれば、この間の体重は150kg近くまで達していたとされる。

ザイオンがペリカンズと今季結んだ5年1億9300万ドル(約259億円)の延長契約の内容には、「体重」「体脂肪の目標値」の項目もあることから、チーム側がザイオンの健康面に対して神経質になっていることがうかがえる。

ザイオン自身は「体重が増えれば増えるほど、スピードや運動能力が高まり、プレーの幅は広がった。体重が増えたからといって全く気にならない」と話すように、意に介していない。15歳ですでに身長190cm、体重79kgありながら「まだまだ小さい」と、増量への意識は高かった。

しかし、相次ぐケガとドラフト1位指名選手でありながら不本意なルーキーイヤーを過ごしたことに業を煮やしたのか、2年目以降、ザイオンは減量と食生活の改善に取り組んでいる。

ザイオンはかつて、野菜をほとんど摂らず、七面鳥、ベーコン、ステーキなど好きな物だけを摂っていた。活動量が多く代謝が早いため、食事に関してはほとんど考えていなかったという。

高校、大学時代のザイオンは頭3つ分くらい抜けている存在だったため、多少コンディションが悪くても試合を支配できた。その上、試合数もプロよりも多くないため、そこまで負担もない。

しかし、多ければ年間100試合を超え、最高峰の選手たちがしのぎを削るNBA。才能だけでは生きていけない厳しい世界で、いかに健康的に過ごすことが重要なのかに気づいたのだろう。

ケガ→活動量減・体重増→減量→ケガの悪循環

ザイオンの食生活は基本、高たんぱく質、高脂質、低糖質(極力、炭水化物を摂らない)。重要視しているのは、超人的なパフォーマンスの源である「筋肉」を落とさないこと。

摂取している物は主に、オートミール、鶏肉・魚、野菜、果物、プロテインシェイク。ベーコン、ソース類、脂肪分の多い食べ物、揚げ物、赤身肉、炭酸飲料、糖分は避けている。消費カロリーを抑えた食事によって一時期、約20kgの減量にも成功している。

ザイオンに食事を提供する専属シェフは過去に何人かいて、最終的に高たんぱく質・高脂質・低糖質のコンセプトに落ち着いた。2022~2023年シーズン前のオフ期間中、毎日3食+補食をザイオンに提供し続けた専属シェフ、ジョナス・ルイスは変化をこう語る。

「ザイオンは買い物に行くたび、大容量の炭酸飲料を山のように買っていて、食事の前に飲むんだ…。減量してから少し後、味覚が変わったのか、ほとんど摂らなくなったよ」

ルイスはまず、ザイオンに対してデトックス(体内の有害物質を排除)を促した。その後にたんぱく質、野菜を中心に食べさせ、炭水化物は特定の日だけ摂取する「炭水化物サイクリング・プログラム(ルイス考案)」をおこない、筋肉量を落とさず、体重を減らすことを第一に考えた。

大学時代にスポーツ選手だったルイスは、食事を変えることで160kgから50kgの減量に成功しており、ザイオンへの食事アドバイスは自身の成功体験に基づいたもののようだ。

ルイスによれば、ザイオンはオフ期間中に食事とトレーニングによって、1週間に3~4kgずつ体重を落とし、オフ期間中に少なくとも15kg以上の減量を達成、シーズンに臨んだと話している。

ここで、ザイオンの食生活について2点気になることがある。あえて答えは伏せるが、「エネルギー」「急激」がヒントになるだろう。

ザイオンに近い栄養の専門家の話によれば、「ケガのたびに、減量計画を見直さなければならなかった」と明かしており、ケガの多いザイオンへの対応に苦慮しているようだ。

ザイオンがプロ入りしてからというもの、ケガ→活動量の減少に伴う体重増→ケガが癒えた後に減量→タフなシーズン開始→圧倒的なパフォーマンス→試合を重ねるたびに体への負担増→シーズン中盤以降にケガ。毎年このサイクルに陥っている。

その原因が体質なのか、意識なのか、プレースタイルなのか、減量のアプローチ方法なのか。どこに問題があるのかをもう一度見直す必要があるのかもしれない。

1歩進んで2歩下がるようなザイオンのキャリアは、2009年NBAドラフト1位のブレイク・グリフィン(ボストン・セルティックス)を彷彿とさせる。

グリフィンもザイオン同様、高い身体能力を武器にファンを沸かせ、将来のスーパースター候補として大きな期待を寄せられていた。しかし、相次ぐケガによってスケールは小さくなり、期待に応えられないままキャリアも最終盤に差しかかっている。

食生活を改善し、(一時)減量にも成功、さらなるパフォーマンスアップのためにトレーニングを続けながらもなお、ケガに苦しみ続けるザイオン。現在も欠場が続いており、復帰のメドは立っていない。

スポーツ界にはケガによって思い通りのキャリアを積めなかった選手が星の数ほど存在する。ほとばしるほどの才能を持つザイオンには、規格外のプレーを待つファンの期待に応えるためにも、何とか健康を取り戻してほしいものだ。

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Kiyohiro Shimano(編集部、ISSN-SNS:スポーツニュートリションスペシャリスト)