7月20日は、第27回参議院議員通常選挙の投開票日になっている。

ネットを中心とする消費コンテンツの増加で、政治分野にもスポットが当たるようになってきた昨今、表裏が可視化されやすくなったことで、有権者による投票行動がこれまでとは異なることが予想されている。

ここでは参院選に合わせて、「スポーツ界出身の国会議員は、私たち国民にどのようなことをしてくれたのだろうか?」といった観点から論じてみたい。

「文武両道」の岡崎氏から続く〝スポーツ議員〟の系譜

〝スポーツ議員〟の草分けといえるのが岡崎勝男氏で、衆議院議員を3期務めた。もともと陸上選手としてアジアレベルで活躍した岡崎氏は、旧帝国大学(現東京大学)を経て外務省へ入省。外務省在職中の1924年パリ五輪日本代表に選出され、5000m・10000mに出場した(いずれも途中棄権)。

外務省では事務方トップの事務次官まで上り詰め、吉田茂率いる民主自由党(自由民主党の前身)から出馬、当選を果たした。第三次吉田内閣では官房長官、国務大臣、外務大臣を歴任し、混迷極める戦中・戦後日本の外交を担った。

1934年ロサンゼルス五輪出場の八田一朗氏(参議院議員1期)は日本レスリングの父と呼ばれ、三笠宮殿下とともに競技環境を整備した。招致に尽力した1964年東京五輪は、指導者として多くのメダリストを生み出したことでも知られる。

その他、2度の五輪出場を果たした水球の阪上安太郎氏(参・6期)、宮澤喜一内閣で農林水産大臣を務めたアイスホッケーの田名部匡省氏(衆/参・10期)がいる。

東京五輪以降は、「五輪メダリストによる政界進出」がトレンドになっていく。

いずれも自民党からの立候補で、体操の小野清子氏(参比例・3期)、サッカーの釜本邦茂氏(参比例・1期)、アイススケートの橋本聖子氏(現職、参比例・5期)、堀井学氏(参比例・1期)、ノルディック複合の荻原健司氏(参比例・1期)と、名選手がズラリ。

メダルをコンプリートした柔道の谷亮子氏(参比例・1期)が、民主党(立憲民主党の前身)から出馬する際にはちょっとした騒ぎにもなった。

〝スポーツ議員〟には、プロレスルートも存在する。「燃える闘魂」でおなじみのアントニオ猪木氏は、自らスポーツ平和党を結党し、1989年の参院選比例区で99万票を集めて当選。1度退いた後、2013年の参院選で日本維新の会から出馬し、比例区で返り咲いた。

猪木氏の後、過激なデスマッチで人気を博した大仁田厚氏(参比例・1期)、男子選手にも劣らない戦闘力を誇る神取忍氏(参比例・1期)、国語教師の肩書を持つ馳浩氏(衆石川1区/参比例・7期)ら、自民党から立候補した人気レスラーが国会のリングへ上がった。

東京五輪以前の4人以外は、いずれも知名度優先の印象が強い。ただ、荻原氏と馳氏は、長野市長、石川県知事と現在は真正面から有権者と向き合っている。実務経験や責任感の大きさでは比にならない。

現職〝スポーツ議員〟の成果は?

選手時代の知名度を生かして国会議員になった後、どのような仕事をしてきたのか? これは見えにくい部分であり、意識しなければ精査できない。

衆議院は、国会議員の職責として「全国民を代表して国政の審議に当たる」と定義しており、参議院でも同じ。

「国政の審議」とは、問題になっている事象を国会で議論・検討し、法に落とし込んで是正・規制することに他ならない。

そうなると、「①法案を提出する」、「②議論に参加する」が本来の、最低限の仕事といえるが、それらを図るデータがある。

①は国会議員白書で、1947年以降の全議員の法案提出を含めた活動実績が確認できる。②は国立国会図書館が運営する国会会議議事録検索システムで、第1回国会からこれまで、本会議・委員会における全議員の全発言が検索できる。

これら有益なデータを活用し、現職〝スポーツ議員〟の成果を検証したい。なお、麻生太郎元首相は射撃で1976年モントリオール五輪に出場しているが、ルーツは政治家(吉田元首相の孫)なので、ここでは割愛する。

・橋本聖子氏(法案提出:2件)
アルベールビル五輪・銅メダリスト。1995年参院選・比例区で自民党から立候補して初当選。外務副大臣、国務大臣などを歴任する〝スポーツ議員〟の最古参。

議員生活30年で法案提出はわずか2件。東日本大震災関連、公職選挙法改正に関する法案の筆頭提出者になっているが、自らが主導して取り組んだのかは甚だ疑問。深く考えずとも、「箔をつけさせるため」ということがわかる。

国会本会議・委員会では、発言の中に「スポーツ」がかなり多く含まれているものの、状況説明的な発言ばかりなので議論に昇華できておらず、関連法案の提出もない。

・石井浩郎氏(法案提出:0件)
1990年代の近鉄バファローズで主軸を務めた元プロ野球選手。13年の現役生活を経て、2010年参院選・秋田選挙区で自民党から立候補して当選、3期目。委員会では一定数発言しており、北方問題には関心があるもよう。本会議での発言も10回程度あるが、法案提出は0。

・朝日健太郎氏(法案提出:0件)
2度の五輪出場歴のある元ビーチバレー日本代表。2016年参院選・東京選挙区で自民党から立候補して当選、2期目。国土交通・環境大臣政務官を歴任する。各委員会での発言は数えるほどで、本会議での発言、法案提出ともに0。

・松野明美氏(法案提出:0件)
ソウル五輪・10000m日本代表。謎テンションでタレントとしても一定の知名度を誇る。故郷の熊本で市議会議員・県議会議員を経て、2022年参院選・比例区で日本維新の会から立候補して当選。最近の農水委では、米をめぐる問題で江藤拓前大臣に詰問した。

・横澤高徳氏(法案提出:2件)
2010年バンクーバーパラリンピック・アルペンスキー日本代表。2019年参院選・岩手選挙区から無所属(当時)で立候補し、初当選。今回の参院選で2期目を狙う。5人の中では発言数が断トツで多く、内容も財政・農林水産・外交など多岐にわたる。6年間の任期中、農産物に関する法案を2件提出している。

詳細は各サイトで調べてもらいたいが、及第点といえるのは横澤氏くらいで、私たちの税金を預けられるほどの仕事をしているとはお世辞にも言い難く、存在価値も見出せない。

橋本氏に至っては、一連の裏金事件で疑惑がありながらいっさいの説明責任を果たしておらず、国民の多くはザワついたままだ。

「スポーツが好きだから」の投票は…

橋本氏、横澤氏は改選期になり、今回の参院選で国民の信を問うことになる。

新たに、自民党から1988年ソウル五輪競泳金メダリストで前スポーツ庁長官の鈴木大地氏、国民民主党から格闘家の須藤元気氏らスポーツ界出身者が選挙に挑む。当選すれば、知名度だけで6年間多額の歳費が与えられる立場に。

筆者は、人生をかけて努力するすべてのスポーツ選手に対して尊敬の念を持っている。しかし、こと選挙に関してはスポーツ界出身者を応援(投票)したことがない。選手時代の経験が政治の世界で生きるとはどうしても思えないからだ。

多くの一般人が20歳前後から社会経験を積んでいる時に、頂点をめざすスポーツ選手は異次元の世界にいる。10年後を見た時、ビジネス・経営感覚や予算管理などマネジメント、社会常識やマナーを一定程度蓄積した一般人と、ほとんど経験していないスポーツ選手を比較すると、数段見劣りしてしまう。これは、セカンドキャリア問題の根幹部分で、事実としてある。

引退後、一般職に就くならまだしも、国を背負う仕事をする立場になって「いったい何ができるの?」が大半の国民が持つ感覚だろう。

また、メダリスト級のトップスポーツ選手はスポンサーがつくなど、ある程度落ち着いた環境で競技を続けることができる。ある意味、サポートされる立場。

国会議員は、国を支える私たちの立場になって物事を考えなければならない。果たして、ずっとレギュラーだった選手が試合に出られない控え選手の気持ちを理解できるのだろうか?

さらに、競技生活を通じて関連深い運動・健康、教育分野での議論・発言、法案提出がなされていないのはなぜなのだろうか?

国の重要課題でないにしても、呪文のように発せられる「選手たちの将来」「子どもたち」を考えれば、必然的に体が動くはずだ。しかし、一部の〝スポーツ議員〟にはその素振りもみられない。理解もしていない畑違いの分野に時間を費やしているように見える。

さまざまな理由から投票行動に移すのは個人の考えなのでいっさい否定しない。ただ一つ、「スポーツが好きだから、スポーツ選手に投票しよう」は考えものだ。前項の結果が示す通り、おそらく国民の期待には応えてくれないだろう。

スポーツ選手(やタレント)の知名度を頼りに票を集める――今の時代に、いまだ石器時代の戦術が通用すると思っているのも驚きだが、力不足なのに甘い汁に吸い寄せられる方も大概だ。国会は就職活動の場ではない。

スポトリ

Kiyohiro Shimano(編集部、ISSNスポーツニュートリションスペシャリスト)