はじめに

日本は超高齢化が進むとともに、スポーツブームでさまざまな運動に取り込まれ、関節などを酷使する機会が増えています。高齢者や通常の生活以上に体を酷使する方々にとって、これまで知られている栄養素だけでは、健康を維持することが難しくなってきているのではないでしょうか?

私たちは、そのような方に必要な未知の栄養素が存在すると考えています。つまり「第7番目の栄養素」が存在するという仮説を立てて、研究を進めています。その第7番目の栄養素の一つこそが「コラーゲンペプチド」なのです。

この連載では、コラーゲン、その機能性を高めたコラーゲンペプチドに関する、基礎の部分から私たちがおこなった健康・スポーツに関する研究のエビデンスを絡めてできるだけわかりやすく解説していきます。

城西大学 薬学部 医療栄養学科 真野博、君羅好史

私たちの体はコラーゲンでできている

私たちの体の60%は水分でできていて、タンパク質は20%といわれていますが、タンパク質のうちの30%はコラーゲンです。さらに、体の中に存在しているコラーゲンのうち、約40%は肌にあり、次に多いのが骨・軟骨で約20%、血管や臓器にも約10%含まれています(図1)

私たちの体の組成を改めてみてみると、コラーゲンが含まれている割合は意外に多く、体を作るのに必要な物質であることがわかっていただけると思います。

体の中に存在するコラーゲンは、ひも状のタンパク質がしめ縄のようにより合わさって「3重らせん構造」をなしています。これは他のタンパク質には見られない、コラーゲン特有のものです(図2)

弾力のある肌の質感や引っ張ってもすぐに戻る伸縮性、しなりがあって簡単には折れにくい骨の柔軟性、全身に血液を送るための血管に求められる耐圧性など、3重らせん構造がもたらす、しなやかで柔らかく強度の高いコラーゲンの特性をよく表しています。

ひも状のタンパク質には、約1000個のアミノ酸があり、さらに細かく見ると「プロリン(Pro:P)-水酸化プロリン(Hyp:O)-グリシン(Gly:G)」が繰り返し配列されています。

プロリンは水酸化(ヒドロキシル化)されることで、水分との親和性(結びつきやすい、相性が良い)が高くなり、性質がさらに強化されるため、私たちの肌や骨の保湿にもかかわってきます。この水酸化されたプロリンが、コラーゲンを形作るのに重要な役割を果たしているのです。

ちなみに、私たちがおこなった分子レベルの研究では、このP-O、O-Gのアミノ酸配列の作用で骨芽細胞が活性化されることを突き止めています。この点については、もう少し回を重ねてから解説することにします。

コラーゲンは一般的に柔らかいイメージがありますが、実際は他のタンパク質と比べて壊れにくい物です。ある程度の柔らかさを持ち、かつ形を保つために一定の強度が必要な人体の組成には都合が良く、とても適しているのです。この点からも、体の中にたくさんコラーゲンが存在する意味をご理解いただけるのではないでしょうか。

図1 体の中にあるコラーゲン
(文献1より改変)
図2 コラーゲンの化学構造
(文献1より改変)

コラーゲンは消化・吸収されにくいタンパク質!?

次に、食品としてのコラーゲンを考えてみましょう。前述したように体の中のコラーゲンと同じく、柔らかく、しなやかで、強度が高い特徴を持っています。一般的にコラーゲンは、体に消化されにくい(消化に時間がかかる)タンパク質といわれていて、食物繊維と同じような性質を持っているため、ルミナコイド(難消化性成分)に分類されます。

昔はコラーゲンを食べても意味がないといわれていました。理由は2つあります。一つは、アミノ酸配列が偏っていて必須アミノ酸「トリプトファン」が含まれていないこと(図3)から、栄養学的な評価はされませんでした。

もう一つの理由は、コラーゲンの主要構成物質・水酸化プロリンの存在です。アミノ酸は水酸化されるとタンパク質にはならないので、水酸化プロリンが含まれるコラーゲンを食べても骨や筋肉の素にはならないとされています。

もう少し詳しく説明すると、タンパク質を摂取した時、私たちの体の中では 1) プロテアーゼなどのタンパク質分解酵素が、2) アミノ酸まで分解して、3) 体に吸収され、再度、筋肉や骨の素となりタンパク質が合成される――このようなプロセスが踏まれています。

プロリンは広くいえばアミノ酸ですが、正確にいうとイミノ酸なので、タンパク質をアミノ酸に分解してくれる一般的なプロテアーゼではなく、コラーゲンを分解する特別な酵素「コラーゲナーゼ」を介さないと体で分解されません。しかも、人体の組織に存在するコラーゲナーゼは極めて少数でまれなため、「コラーゲンは消化・吸収がされにくい物」であることの根拠になっています。この説は生理学的に今でも正しいのです。

ちなみに、コラーゲナーゼは、パイナップルやキウイにも含まれていて、肉と一緒に漬けることでタンパク質が分解されて柔らかくなります。料理をする方は自然にこの原理を利用していることになりますね。

しかし、そもそもコラーゲン単体を食べる機会がそれほど多くないこと、時代を経てコラーゲンに関する機能性や物性研究が進み、技術革新によって加工しやすい、体に吸収されやすいコラーゲン原料が開発されたことから、食品やサプリメントを通じて効率良く摂取できるようになりました。ですから、「コラーゲンを食べても無意味」は、現代では当てはまらなくなってきているのです。

図3 豚由来コラーゲンペプチド1000残基あたりのアミノ酸数量(参考)
(文献2より改変)

Dr.Kimiraのコラペプちょいバナ① ASとコラーゲンの意外な関係

真野先生の解説でコラーゲンへの理解が少しずつ深まっていると思いますが、僕からはコラーゲンにまつわるちょっとした逸話を紹介します。すぽとりにちなんで、始めはスポーツとコラーゲンの話を。

アーティスティックスイミング(AS)の世界では、コラーゲンが古くから使われていたことを知っていますか? 彼女たちは、水中で激しく動きながら美しさを表現しますが、競技中でも髪が乱れて美しさを損なわないように、コラーゲンを頭に塗って髪を固めていました。ヘアオイルなどを使用するとプールが汚れてしまいますし、冷えると固まり、水を汚さない(水に溶ける)コラーゲンを使うのは理にかなっているといえます。

彼女たちは1日中、塩素の効いたプールで練習や演技をするので、肌荒れや体調不良に悩まされていたそうです。コラーゲンが肌にいいと何となく知っていた彼女たちは、身近にあった‟整髪料“のコラーゲンを肌に塗ったり、食べたりして体の保護に努めました。

すると、彼女たちの体調はたちまち良くなり、コラーゲンが体にいいことを実感したのです。この話に興味を持った専門家が研究を始め、現在につながるコラーゲンが持つ機能性の解明に役立ったそうです。

【参考資料】
1) 真野 博 : コラーゲン完全バイブル ~Collagen Perfect Bible~, p18-21, 幻冬舎 (2011)
2) コラーゲンナビ(https://www.collagen-net.com/2020/10/blog-post_90.html

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コラーゲン研究の第一人者である真野先生、君羅先生に質問がある方はこちらからお問い合わせください。
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真野博、君羅好史(城西大学) 文・構成:編集部

真野博(城西大学 薬学部 医療栄養学科 教授 / 農芸化学博士)
長年、コラーゲンペプチドの運動器への作用に関する研究を進め、数多くの研究成果を残した。日本におけるコラーゲン研究の第一人者。

君羅好史(城西大学 薬学部 医療栄養学科 助教 / 食品栄養学博士)
東海大学体育会から東京農業大学大学院へ進むと研究者へ転身し、多くの研究に携わる。真野教授とともにコラーゲンが持つ作用の真相究明にあたる。