ニュートリション関係者の取り組みや考えを紹介する永続企画「ニュートリションな人々」。第13回目の主人公は、国際スポーツ栄養学会(ISSN)公認資格の認定、教育プログラムを提供する「グローバル・パフォーマンス・ニュートリション・インステュート(GPNi)」の創設者、ドリュー・キャンベル氏。

スポーツニュートリション(SN)の世界で長く活動してきたキャンベル氏に、2023年3月から日本でも運営が開始されたGPNiの資格制度・教育プログラムを中心に話を聞いた。

GPNi創設者は中国でSNビジネスに成功

編集部 スポーツニュートリション(SN)とかかわり始めたきっかけを教えてください。

ドリュー・キャンベル(以下、DC) オーストラリア・メルボルンで生まれ育ち、12歳のころから筋トレ、プロテイン、サプリメントの飲用を始めました。父親は薬剤師で、薬局を経営しています。

昔は今のようにサプリメントショップはなく、商品はすべて薬局で販売されていました。僕も父親の店でアルバイトをする中、サプリメントに興味が沸き、独学で勉強を始めました。

編集部 サプリメントが身近な環境だったんですね。

DC そうです。21歳の時に米国のサプリ販売大手「GNC」で働くことになり、それまで得てきたサプリの知識はマーケティングやPRなど仕事にとても役立ちました。

GNCに勤務する人たちは栄養士やトレーナーが多く、彼らとバックグラウンドが違う僕は独自性を保てました。何より、GNC商品が50%OFF(社販)で買えたのは良かったですね(笑)。

編集部 GNCを退社し、独立されました。大手企業を離れるのはなかなか難しかったと思いますが。

DC 僕はクリエイティブな性格で、そもそも企業に所属するのは性に合っていなかったから、ノープロブレム(笑)。とにかく早く独立したかった。企業に所属していたら、きっと今のようなことはできなかったと思いますし。

それで、2005年に新たなチャンスを求めて、急激な経済成長を見せていた中国へ渡りました。

編集部 当時の中国は、現在のような経済大国に至る始まりの時期で、経済成長率は毎年1%ずつ上昇するくらい、猛烈な勢いで発展していきました。

DC  高度経済成長の中で、僕もすぐにビジネスを大成功させてオーストラリアへ凱旋する……なんてことはなかったですね(笑)。

最初はSNのビジネスをする気は全くなく、音響機器を輸出する事業を始めました。これがホントにつまらなくて。実際に働いた時間と給料を割っても時給50セント(約66円)くらい。騙されたり、お金がもらえなかったりして、もう惨憺たるありさまでしたよ。

編集部 どん底からどのように挽回したのですか?

DC 中国に渡ってもライフワークのトレーニングは続けていたんですが、サプリを買える所が全くなかったんです。

当時の中国はまだサプリ販売に関するインフラが整っていなかったこともあり、SN分野でビジネスをすれば成功するかもしれないと思いました。

編集部 ブルーオーシャン(競合が少ない、または顕在化していない市場)ということですね。

DC そう。それで、中国国内でSNのビジネスをするための情報を集めたり、人脈を作ったりして、2007年に「ワールド・ヘルス・ストア(WHS)」をオープンしました。

当時、中国へ進出してきた外資系の人や海外から帰ってきた中国人は比較的裕福なこともあって、そういった人たちをターゲットにビジネスを進めました。

最終的にWHSは北京に2店舗、上海に3店舗を展開するまで拡大したので、結構うまくいったと思います。そして、2017年に会社をすべて売却し、GPNiを設立・運営を始めました。

もっと大きなビジネスを進められる状況でしたが、小さいころから親しんできたSNの世界が好きですし、ライフワークにもなっていました。だから、自分の好きな世界をもっと多くの人と共有し、役立ててもらいたいと思い、活動を続けています。

世界標準のSN関連資格を提供する「GPNi」

編集部 なぜGPNiを設立し、展開しようと考えたのでしょうか?

DC 僕が長くいた中国ではSNに関する知識・情報が絶対的に欠けていて、間違った理解をしている人が非常に多かったんです。

例えば、クレアチンを飲むと腎臓が悪くなるとか、プロテインを飲み過ぎると頭が薄くなるとか。自分がかつて持っていたWHSの店頭で接客していた時も、知識がない人と接する機会の方が断然多かったですね。

今はネットなどから真偽不明の情報がいくらでも手に入ります。ただ、それは危惧すべきことで、SNに関する正しく、確かな知識を得られる情報提供の場を作らなければいけないとずっと思っていました。

編集部 GPNiについて詳しく教えてください。

DC GPNiは、国際スポーツ栄養学会(ISSN)のグローバルパートナーで、ISSN公認の認定資格と教育プログラムを提供しています。

教育プログラムのうち、95%は全世界共通で、5%は各国に合わせた内容になっており、英語・中国語・日本語・その他言語で受講可能です。ISSNがまとめたポジションペーパー(公式見解)を基に、SNに関するさまざまな知識を身につけることができます。

GPNiのパートナーであるISSNはかつて、教育プログラムが存在しておらず、試験を受ければ資格が得られるといった形でした。そこで、GPNiが制作・提供する教育プログラムを使って、資格を取りたい人には知識や情報を得てもらうような流れになりました。

日本では、友人で飲み仲間でもある(笑)Seiji(青柳清治氏)が代表理事を務める「一般社団法人 国際スポーツ栄養学会」と組んで、広く展開していこうと考えています。

編集部 GPNiではどのような資格が取得できるのでしょうか?

DC 取得できる資格は、スポーツニュートリションスペシャリスト(issn-sns)パフォーマンスニュートリションエキスパート(cissn)の2つです。

snsはSNの基礎について学べる「入門編」で、誰でも資格認定を受けることができます。入門編といっても、ISSNがまとめた確かな情報・エビデンスに沿った物になります。

cissnはSNSを取得した人のみが次の段階へ進み、さらに高度な教育プログラムを受けられます。こちらは、スポーツ現場でコーチングをするなど、プロフェッショナルをめざす人たちに向けたものです。

日本での展開は今のところsnsのみで、現状cissnの資格認定はおこなっていません(将来的には展開する可能性も)。cissnはすべて英語なので、知識と言語に問題がない人であれば取得することが可能です。

編集部 どのような教育プログラムが受けられるのでしょうか? 

DC 教育プログラムの構築には、ISSNの創設者であるホセ・アントニオ博士をはじめ、世界におけるSNの権威が参加しているので、得られる知識はかなりレベルが高いですよ。「これを食べましょう」「こう食べましょう」とは次元が違うと思います。

日本での展開に合わせて、snsを取得したい人が世界共通の内容を日本語で受講できるようになりました。700枚ほどのスライドに加え、オンディマンドビデオ(日本語テロップ入り)が18時間分あります。

教育プログラムの紹介や資格取得までの流れについては、スポトリの記事で説明してもらうことにしましょう(笑)。

編集部 GPNiの資格を取得した人たちはどのように活用しているのでしょうか?

DC アメリカ、中国、日本を中心に展開していますが、sns、cissnのいずれもトレーナー、栄養士、シェフなど実際にニュートリションの勉強をした人や博士号を持っている人が資格を取得しています。中には、自分自身を高めるために教育プログラムを受け、資格を得た人もいます。

得られた知識・情報を生かして、プロスポーツやコーチングの現場で活用したり、ビジネスに発展させたりする人が多いですね。もちろん、自分の生活を向上させるために生かす人もいます。

編集部 GPNiの資格は世界でどのくらいの人が取得しているのですか?

DC 約1万人が教育プログラムを利用し、資格を取得し、受講・資格取得者ともに年々増えています。

もともとsnsの上位資格であるcissnの方が多かったのですが、snsも増加傾向です。日本での運営も始まったばかりなので、一人でも多くの人に世界標準のSNに関する知識・情報を届けたいと思っています。

編集部 GPNiの資格を取得するメリットはどのように考えていますか?

DC 「自分に自信がつく」。これに尽きます。スポーツ現場、コーチング、または自身の生活において、エビデンスに基づいた知識・情報を持って活用できるのは大きな強みになります。

ISSNの公式見解は4~5年ごとに更新されますが、それに伴ってGPNiの教育プログラムも更新することになります。

以前は年5~6回と頻繁に変えていましたが、最近は落ち着いてきて、それでも年2回は更新しますので知識レベルの向上、情報のアップデートが常に見込めます。

snsもcissnも、「本気でSNを学びたい」という人に向けた国際的に通用する資格です。知識に対してハングリーで、自分を今以上に磨きたい。根本的に生活を変えたい。生き方を変えたい。こういった人たちにとって、大いに助けになるものと確信しています。

編集部 今後、日本ではどのような展開をしていきますか?

DC これまで1年近い準備期間を経て、ようやく日本語の教材ができました。国際的な資格が日本語で取得可能になったので、今までSN関連の資格取得にちゅうちょしていたトレーナーや栄養士、そして、これからSNの世界をめざす皆さんに対して、積極的にプロモーションしていきます。

また、資格取得を志望する人が集まる団体や企業と提携して、社員(派遣も含む)教育やスキルアップの手段として導入してもらえるように働きかけていきます。

さらに、国内で資格を取得する際に日本語でサポートするプログラムを考えています。プログラムを使って勉強する中で、いろいろと質問などが出てくると思います。

それに対するQ&Aについて、現場での経験・知識が豊富なスポーツニュートリションのスペシャリスト(鈴木いづみ氏、新生暁子氏)が対応するセッションを企画していきたいと思っています。

SNの世界標準とは?

編集部 GPNiに絡めて、世界におけるSN事情について少しお聞きします。中国を中心にビジネスを進めていましたが、SNに対する知識レベルや意識にどのような変化がありましたか?

DC 中国でビジネスを始めたころでいえば、2~3%くらいでしょうか。SNに関する意識は皆無でしたね。

ただ、中国はスポンジが水を吸うように、何でも取り入れようとするお国柄。変化にもすごく敏感です。

現在ではSNの知識レベル、意識ともに飛躍的に進んでいることは間違いなく、この分野も伸び続けていくとみています。GPNiの資格取得状況からも、それは推測できます。

編集部 進化するためには、知識を得るための情報を常にアップデートする必要がありますね。

DC 海外の事例をみても、古い教材やプログラムを使用してSNを学ばせているケースが意外に多いです。残念なことに、これは時代についていけないことを意味します。

科学技術と同様、SNは急速に変化する分野です。スポーツ現場では特に、最新の知識・情報を踏まえたコーチングが必要になるので、アップデートの遅れは致命的になる可能性があります。

編集部 海外でのSNの認識はどういったものでしょうか?

DC 海外では、トレーナーの専門資格を取得する際、トレーニング2割・ニュートリション8割で学びます。

つまり、体を動かすことよりも、体をつくる素になるニュートリションに比重が傾いているのです。このことから、世界では「スポーツにおいてニュートリションは最重要」が常識です。

サプリメントの摂取も当然、「パフォーマンス・ニュートリション」なので、戦略として取り入れなければなりませんし、スポーツ強国はもれなく実践しています。GPNiの教育プログラムではこの点も手厚くフォローしていますので、ご安心ください。

ニュートリションには、「サバイブ(Survive)」と「スライブ(Thrive)」の2つの捉え方があります。前者は「生き延びる」「生き残る」、後者は「成長する」「育つ」という意味で、SNはスライブ。スライブする(させる)ための知識・情報は常に求められると思います。

編集部 SNにおいて大事なことは何でしょうか?

DC 「タイミング」「摂取量」が非常に重要です。適正な量を適切なタイミングで摂取することが、スライブへの道なのです。

そして、「継続性」。ニュートリションを取り入れ、その成果が得られるには当然ながら時間がかかります。

一方、スポーツの世界は、早く結果を出さなければいけません。このジレンマに打ち勝ってさらなる高みを目指すためにも、ニュートリションと向き合続けることも必要になってきます。

この3点は、頭でわかっていても実践されていない傾向なので、GPNiの資格認定・教育プログラムを通じて訴えていきたいことでもあります。

編集部 日本でもようやく、エビデンスを基にした知識・情報を得られる手段が出てきました。これが広まれば、日本のスポーツニュートリションも進化していくはずなので、これからバックアップしていきたいと思います。

DC Thank you so much!!

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