「五輪出場3回」。この言葉がどれほどの意味を持つか、スポーツに関心のある人は理解できるのではないか。

3回の出場を果たすには、少なくとも10年以上国内外でトップレベルに位置しながら技術向上に努め、コンディショニングを維持し、自らを律し続けなければ到底成し遂げられない。

2008年北京、2012年ロンドン、2020年東京五輪でビーチバレー日本代表として世界と戦ってきた白鳥勝浩(株式会社カブト)は、加齢に伴うパフォーマンスの低下、ペア問題など多くの課題に直面しながらもそのたび乗り越えてきた。

彼がなぜ長年現役を続けられ、トップを維持できたのか。そして、その経験を今後どのように生かそうとしているのか。トップスポーツ選手のあるべき姿をうかがい知ることができる。

後編は、オリンピアンが日々、どんなことをおこなってきたのか。そして、今後どのようなことをしていきたいのかを聞いた。【写真提供:JVA】

常にアンテナを張って、「気づき」「考える」 

編集部 20年以上世界を相手に戦い続けていますが、肉体面で変化はみられますか?

白鳥勝浩(以下、白鳥) さすがに衰えはありますよ(笑)。衰えない方がおかしいし、どんな選手でもその時を迎える。でも、その時になって慌てて準備をしても間に合わない。

だから、衰えを感じる前に、自分で考えたり、専門家から正しいアドバイスをもらったりして、いろいろな考えに触れる。そして、受け入れる。そこから、自分に合ったモノを取り入れたり、議論したりして、より良い考えにたどりつけばいいと思っています。ずっとその考えの下でビーチを続けてきました。

編集部 パフォーマンスを維持するために実践していることはありますか? トレーニングの面でいかがでしょう。

白鳥 技術練習やトレーニングに関して、今まで大きく変えたことはないんですが、2016年リオデジャネイロ五輪の予選で大惨敗した後、自分の体と向き合おうと思って、ランニングトレーニングを始めました。

実は、走ることが大嫌いでずっと目を背け、それまで唯一手を加えていない部分だったんですよね(笑)。それで、元陸上選手のトレーナーに師事して、腕の振り方から正しい走る姿勢まで一から基本を学び直しました。

これで変わらなければ、東京は難しいかもしれないと思っていました。

編集部 走ることは運動の基本ですからね。正しい姿勢が競技力をアップさせることにもつながりますし。走りや動きを学び直そうという発想はどこから生まれたのですか?

白鳥 ビーチは砂の上でプレーする競技なので、砂の上でトレーニングをしていればいいと思っていました。実際、他競技や大学生、高校生などが砂浜を走って体を鍛えていましたから。

負荷のかかる砂の上で動いていれば、自然と体は強化されると。でも、よくよく考えれば、「体の使い方」も大事なんですよね。走ることを含め、陸の上で正しい姿勢で動けなければ、砂の上で力が発揮できるわけがない。

ラントレを始めてから明らかに変わったのが膝の使い方。それまでは膝を伸ばし切らずにプレーすることが多かったのですが、膝を最後まで伸ばし切ることで大きなパワーを得られる、また効率よく体を動かすことができる、そういった新たな気づきはありました。

編集部 結果として東京五輪に出場できたわけですから、効果はあったのではありませんか?

白鳥 自分ではよくわからないんですけどね。当時僕をサポートしてくれていたトレーナーさんがものすごく知識や情報を持っていましたし、動きを改善するためにいろいろな専門家と話をしました。時には衝突し、意見をぶつけ合って(笑)。それで気づかされた部分ではありましたね。

年齢的にパフォーマンスの低下は仕方なく、低下のカーブを緩やかにするためにどうするか。「考える」ってことはとても大事ですよね。

ニュートリションは常に意識してきた

編集部 気づきや考えることは新たな自分を引き出す糧ということですね。日々のコンディショニングにはニュートリション(食事・栄養摂取/サプリメンテーション/ドーピング対策)も欠かせませんが、その点はどう考えていますか?

白鳥 若い時から体づくりと食は関連していると思い、自分なりに意識してきたつもりです。北京五輪あたりから栄養士さんがつき、手厚いコーチングを受けたことで「頑張ってやってみよう」という気になりましたね。

意識をしていれば、コンディションは良くなるとわかっているので、もう体に染みついています。

編集部 オリンピアンが普段どのような食事をしているか気になります。

白鳥 僕は野菜がダメで、栄養士さんを困らせるくらい好き嫌いが激しくて(笑)。その中で工夫をしていました。年齢が上がるにつれて代謝が落ちてくると腹回りに脂肪がつきやすいと思って、油物だけは控えるようにはしています。

でも、全く摂らないわけではありませんし、食事に制限を加えたこともほとんどないです。割と自由に食事を楽しんでいる方かな。

ストイックに取り組んでいるとはいえませんが、専門家から得た食事のテクニックや知識を食生活に反映できるという点は大きいですね。「(栄養を)知っている」ということは武器になる。

編集部 ビーチは、日中の暑い時間帯に試合がありますよね。熱中症対策も含めて、試合で力を発揮するための準備はどんなことをしていますか?

白鳥 試合前や試合中の水分補給は水ではなくて、汗と一緒に流れる塩分を補うためにスポーツドリンクにするとか、ガブ飲みするのではなく、こまめに飲むとか。基本のところをおさえておけば、トラブルになることはないと思っています。知り得たことを実践している感じです。

とにかく体力の消耗が激しい競技なので、試合前や試合中のエネルギー補給、試合後のリカバリーにはサプリメント(エルゴジェニックエイド)も活用しています。

「体をつくる」「コンディションを整える」「体調管理」は食事でおこなうものと考えているので、サプリはあくまで補助的な意味合いが強いですが、要所で使えるアイテムと捉えています。

編集部 サプリや薬の摂取=ドーピングのリスクは承知されていると思いますが、安全性に対して意識は向きますか。

白鳥 もちろん。そこはかなりシビアにみています。これまで何度もドーピング検査を受けましたが、結構大変なんですよ。抜き打ちはさらにキツい…。いつ検査に召集されてもいいように、口に入れる物すべてに細心の注意を払っています。

編集部 ビーチ選手として特に気をつけていることはありますか?

白鳥 ビーチは炎天下での試合が連日続くので、どんなに疲れていても試合後のケアはしっかりおこなうようにしています。

失ったエネルギーの補給も含めて。早く家に帰って疲れをとりたいところですが、ケアを怠ると次の日(試合)に影響しますからね。

これは年齢関係なく、競技に向き合うすべての選手が高く意識しているところではないでしょうか。

編集部 いろいろなことに対してアンテナを張り、取り入れていたことで結果を出し続けてきたことがよくわかります。東京五輪から1年が経ちますが、今後の競技生活はどうなっていますか?

白鳥 庄司憲右・池田隼平ペアのコーチを務めることになり、2人が2024年パリ五輪へ出場できるようにサポートをしていますし、もちろん選手としても活動しています。

編集部 自らの経験を後輩の指導に生かしていく形ですね。

白鳥 そうありたいです。でも、僕の考えや経験を押しつけるのではなく、経験則から彼らに合いそうなヒントをいくつか投げて、そこから考えて前進して行ってほしいです。

トレーニング、ニュートリション、メンタル、その他競技に役立つ知識や情報はたくさんあるし、専門家からコーチングを受けたことで初めて知り、助けられた面が大いにあります。そこは経験しないとわからないところかもしれません。

だから、彼ら自身で必要なことと理解し、納得した上で、少しでも強化できるように考えていってもらいたいと思っています。

老若男女が楽しめるのがビーチ、ビジネスとしても

編集部 選手・指導者として競技と向き合いながら、ビーチの普及、ビジネス化を目指しているそうですね。そのあたりのお話を少し聞かせてください。

白鳥 ビーチをしていたおかげで得難い経験をしました。今度は僕が得た経験を生かして、広めていくことにも目を向けていきたいと考えています。

編集部 バレーボールの競技人口は約5億人(三菱UFJ銀行調べ)で世界最多、そこから派生したビーチの競技人口も世界で約1000万人に上るといわれています。海外ではかなりの人気を誇っているようですね。

白鳥 そうなんです。強豪国では必然的に注目度が上がるので、五輪などの視聴率は高く、観戦者数も多い。人気が高いあかしですよね。ですから、日本のビーチ界を盛り上げるためにも、僕たち選手が世界で好成績を挙げられるように努力を続けなければなりません。

それとは別の理由で、レジャーが発展している海外では手軽にできるスポーツ・運動として市民の間でビーチが浸透している側面もあると感じています。

海外遠征に行った時、年配の方々がビーチでバレーをしていた光景を見て、衝撃を受けました。円になってボールをつないでいるだけなんですけど、ものすごく楽しんでいて。

「落とさずにつなげる」というバレー本来の楽しさがそこにあって、年齢関係なくできる。ネットを挟んで勝敗を競ってもいいし、つなぐ遊びとして浜辺で楽しめるのもビーチの魅力なんですよね。

日本ではまだ、ビーチボールを膨らませてポンポンするものと勘違いされることもあるので、将来海外と同じような光景が見られるようにしたいし、目指していきたいです。

編集部 ボールを落とさず続けるって意外と難しくて、結構白熱するんですよね。それに、砂の上なら思い切ったプレーもできそうですし。

白鳥 そう。だからケガのリスクもそんなに高くなく、動くたびに負荷がかかるので体力の向上にも一役買える。運動強度が高くなる分、ものすごく疲れますけど。

ビーチは、高齢者の運動機会の創出や筋肉の衰えに対しても有効だと思いますし、若年層でいえば体づくり、体力づくりにもつなげていける。

編集部 確かに。そう考えるとまだまだ開拓できる余地はあるように感じますね。理想の将来像を作っていくためにも、市民がもっとビーチに触れる機会を増やしたいですね。ビーチ環境の整備といいますか。

白鳥 そこも大きな課題の一つです。ビーチ環境を整えるには行政との協力・交渉が必要ですし、何より資金がかかります。資金を集める手段として、「ビーチで稼ぐ」というビジネス的な発想を持っていないといけません。

編集部 それは具体的にはどのようなことでしょうか?

白鳥 僕は最近、スポーツビジネスではなく、「ビジネススポーツ」を意識して考えるようになりました。言い方の違いですが、スポーツを前提として考えた場合、一時のブームや競技が思うように広がらなかった時にビジネスとして成り立たなくなる可能性があります。これは、当事者側としてビーチブームの浮き沈みを見てきた教訓からいえることなんですけど。

世の中にはいろいろな業種があって、たくさんの企業がビジネスに発展させていっています。そうした成熟したビジネスの世界を軸に、スポーツ(ビーチ)との親和性を見出していった方が長く続くし、結果的にいろいろな方に還元できるのではないでしょうか。

例えば、僕の所属先の業種でいえば、情報セキュリティにスポーツ(ビーチ)を融合させて収益化を目指すといった考え方ですね。

スポーツに育てられた僕ですが、結構ビジネスライクに考えていますし、この考えをもって今後のビーチの発展に生かしていきたいと思っています。とはいえ、形にする方策を考えるのは大変ですし、時間がかかりますけど。

ビーチを文化として根づかせるために、競技性だけでなく市民の健康問題や体の成長に寄り添うような形でビーチを組み合わせていけばきっといい方向に行くはずです。

編集部 コンディショニングに対する高い意識、ビーチ普及のための方策とビジネス化の必要性など深くうかがうことができました。個人的には、同年代のスター選手が今でも現役で、ビーチの発展を目指して尽力している姿に誇らしさを感じました。

お忙しいところ、どうもありがとうございました。

白鳥 ありがとうございました。ビーチは生涯スポーツです。一緒にやりましょう(笑)。

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