歯周病菌が動脈硬化の要因に

動脈硬化症は、動脈壁に変性したコレステロールなどが蓄積し、血管が硬くなって弾力が失われた状態をいいます。

また、心筋梗塞や脳梗塞などの血管が詰まるような重篤な疾患のリスクも伴うことが多く、生活習慣病の高血圧症や糖尿病とも密接に関わるとともに、脂質異常症や肥満との関係性も指摘されています。

この動脈硬化症と歯周病との関連性を示す研究報告を紹介しましょう。

2005年に東京歯科大学・奥田克爾教授らの研究グループが報告した内容によると、動脈硬化を起こしている血管内壁に含まれる微生物のDNAを検索したところ、歯周病菌の一種であるトレポネーマ・デンティコーラのDNAが検出されました。

さらに、心臓外科センターと共同研究をおこなったところ、心臓の冠状動脈にある疾患部位や動脈壁プラーク(血管内壁に付着したプラーク)から、歯周病菌の主要原因菌「ポルフィロモナス・ジンジヴァリス」を含む数種類の細菌のDNAが検出されたことを明らかにしました。

これは、歯周ポケットの細菌が血液中に入り込んで血管内壁にバイオフィルムという菌を含む塊を形成し、動脈硬化の誘因になっている可能性を示唆しています。

歯を失うと高血圧のリスクが上がる

歯周病は40歳以上の実に80%もの人が罹患する、いわば「国民病」であり、歯を失う最大の原因は虫歯を凌いで歯周病です。

しっかり噛むことができる歯を多く保つためには、丁寧な歯磨きによる歯周病対策が不可欠となります。

食事の不自由さから偏食傾向になってしまうと栄養バランスが乱れ、高血圧や糖尿病などの生活習慣病になりやすくなることは以前から研究報告されてきました。

また、動脈硬化になって血管の弾力性が失われてくると、高血圧症になりやすくなる傾向があることが知られています。

ここで、歯の喪失と高血圧の関係性に関する研究が、2022年に公表されましたので紹介しましょう。

兵庫医科大学の新村建主任教授らのグループが新潟大学大学院、丹波篠山市と共同で実施した研究では、65歳以上の自立した地域在住の高齢者894人を対象として、歯と高血圧症の関連性について調査しました。

その結果、奥歯の噛み合わせがなく、食品を噛み砕く能力が低下している高齢者では、高血圧のリスクが1.7倍に上昇することが明らかとなりました(図1)

図1 歯の喪失と高血圧症の関係

歯周病菌と脂質異常症

脂質異常と動脈硬化に密接な関係があるのはよく知られています。

2017年に米コネチカット大学の研究グループは、動脈硬化症患者のアテローム(血管内膜の病的なこぶ)から歯周病菌由来の脂質を発見したことを報告しました。

この研究グループが頸動脈の内膜を剥離する手術を行った患者から採取したアテロームを分析したところ、バクテロイデス門というグループに分類される細菌に由来する脂質を発見しました。

バクテロイデスは歯周病菌の一種であり、この発見によって歯周病菌が動脈硬化を進行させる一つの要因になっている可能性が示唆されました。

また、2018年に寺田裕氏らが報告した研究では、脂質異常症患者における残存歯数および重度歯周炎と頸動脈内中膜の厚さとの関連性を調べました。

その結果、脂質異常症患者においてmax-IMT(頸動脈の内膜中膜複合体の厚さ)の肥厚は、喪失歯数の増加との間に関係が認められただけでなく、重度歯周炎の存在との間にも関連性が示唆されました。

さらに、max-IMTが1.1㎜を超える群では、歯周ポケットの深さが6㎜以上の重度歯周病の人の割合が有意に高くなることが明らかになりました(図2)

図2 max-IMTと重度歯周病の関連

肥満と歯周病の関係

肥満と脂質異常との関係の深さは以前から知られますが、近年、肥満と歯周病の間に相関関係があるという研究結果が、国内外からいくつも報告されています。

1998年に九州大学の研究チームが福岡市健康づくりセンターにおける241人の健診結果から、肥満と歯周病の関連について調査をおこないました。

その結果、歯周病を罹患するリスクはBMIが20未満の人を1とした場合、図3で示すようにBMIの増加に伴って上昇し、BMIが30以上の肥満度2度以上になると8.6と非常に高い数値を示しました。

図3 肥満度と歯周病リスクの関係

肥満が歯周病に影響を及ぼすメカニズムとしては、脂肪組織から分泌されるサイトカインやホルモン(アディポサイトカイン)などの作用が考えられています。

例えば、肥満状態にある人のTNF-αやIL-6の血中濃度は健常な人よりも高値になる傾向であるといわれており、これらの炎症性サイトカインが増加すれば、歯周組織の破壊が進行して歯周病が悪化していく可能性が高くなります。

また、歯周病による炎症性サイトカインの影響で、脂肪細胞が脂肪を蓄えやすくなるのに加え、歯周病による歯のぐらつきや喪失などによって食生活が乱れ、肥満を助長する可能性も考えられます。

以上より、歯周病は単に口の中だけにとどまらず、全身的な健康に対する影響も少なくないことから、歯周病予防を意識した歯周ポケットの丁寧なブラッシングとともに、歯科医院における定期的な検診や歯科医師・歯科衛生士によるプロフェッショナルな口腔清掃を受けるように心掛けましょう。 

今回で、4回にわたってお伝えした歯周病と全身疾患との関連性に関する「歯周医学」についていったん終了しますが、今後も歯周病と体の健康に関して新たなトピックスがあれば論じていこうと思います。

【参考文献・資料】
・日本歯周病学会編:歯周病と全身の健康 (2015)
・奥田克爾:健康破綻に関わる口腔内バイオフィルム, 日本歯科医師会雑誌, 58(3) 21-30 (2005)
・Pinta Marito, Yoko Hasegawa, Kayoko Tamaki, et al : The Association of Dietary Intake, Oral Health, and Blood Pressure in Older Adults: A Cross-Sectional Observational Study., Nutrients, 14(6) 1279 (2022)
・Reza Nemati et al : Deposition and hydrolysis of serine dipeptide lipids of Bacteroidetes bacteria in human arteries: relationship to atherosclerosis., J Lipid Res, 58, 1999-2007 (2017)
・寺田裕他:脂質異常症患者における残存歯数および重度歯周炎と頸動脈内中膜圧との関連性, 日本歯科保存学会, 61(2) 132-144 (2018)
・Saito T et al: Obesity and periodontitis., N Engl J Med, 339(7) 482-483 (1998)

島谷浩幸(歯科医師・歯学博士/野菜ソムリエ)

1972年兵庫県生まれ。堺平成病院(大阪府)で診療する傍ら、執筆等で歯と健康の関わりについて分かりやすく解説する。
大阪歯科大学在籍時には弓道部レギュラーとして、第28回全日本歯科学生総合体育大会(オールデンタル)の総合優勝(団体)に貢献するなど、弓道初段の腕前を持つ。

【TV出演】『所さんの目がテン!』(日本テレビ)、『すこナビ』(朝日放送)等
【著書】『歯磨き健康法』(アスキー・メディアワークス)、『頼れる歯医者さんの長生き歯磨き』(わかさ出版)等
【好きな言葉】晴耕雨読
【趣味】自然と触れ合うこと、小説執筆
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