骨芽細胞活性化のスイッチになるコラペプ

今回は、コラーゲンペプチド(CP)を摂取した後、体の中でどのように作用し、なぜ骨の形成に役立つのかを解説していきます。

コラーゲンは、プロリン(Pro=P)-ヒドロキシプロリン(水酸化プロリン:Hyp=O)-グリシン(Gly=G)の3つのアミノ酸が繰り返し配列で構成されています。コラーゲンを低分子化し、体への吸収を高めたコラーゲンペプチドを摂取すると、体内で分解されて活性型CP「P-O」「O-G」の形で体内で作用することがわかっています。

では、P-O、O-Gは体の中でどのように移行していくのか。動物実験では、血液を通じて骨、関節、皮膚など全身に行き渡っていたという報告があります。このことからP-OやO-Gは、全身のさまざまな組織に届き、作用すると考えられています(図1)

図1 コラーゲンペプチドの体内移行

全身の組織に届くわけですから、単純に考えるとCPを摂取すれば「そのまま体の材料になる」という理屈になりますが、そのようなことはありません。研究者の間では別の働きがあるとする考え方がありました。

それは、「細胞にまで届いたCPが何らかのシグナルを出しているのではないか」ということです。特に、活性型CPの一つであるP-Oが骨の代謝に関与している可能性が高いことは、以前から仮説としてありました。

私たちは、P-Oが骨に対してどのように代謝をコントロールしているのかを解明するための研究を進め、結果としてP-Oが骨芽細胞に取り込まれ、細胞を活性化させるメカニズムを発見しました。

CPを摂取して、体内で分解・吸収されたP-Oは骨の組織まで届き、そこで「foxg1(Forkhead box g1)」に結合します。foxg1は遺伝子(DNA)に直接結合するタンパク質で、さまざまな細胞の基本的な性質の発揮を調節する働きがあります。

特に、P-Oと結合したfoxg1は「Runx2(Runt-related transcription factor 2)」遺伝子の発現調節領域に結合し、Runx2の発現を制御します。Runx2は骨形成のマスター遺伝子といわれ、骨芽細胞が分化、成熟する(骨組織を作る)ための指令スイッチとして機能しています。

私たちの体の組織は間葉系幹細胞をルーツとして、骨芽細胞、筋細胞、線維芽細胞(皮膚)などに分化し、特定の組織になっていきます。マスター遺伝子はそれぞれの部位に存在し、骨組織でいえばRunx2が骨芽細胞を、筋肉組織でいえば「MyoD」「Myogenin」などが筋細胞を活性化させ、筋肉や骨を作るように命令を出すのです。

骨の形成に重要な骨芽細胞の活性を促すRunx2を発現させるためには、foxg1が必要であり、foxg1と結びつく特定のペプチドであるP-Oが骨の形成に関する遺伝子を働かせる引き金になる。このような論理になります(図2)

実験を進めるにあたって、P-Oやfoxg1の試験用のアミノ酸やタンパク質を作製し、これらが結合するのか、複合体になった時にRunx2が発現し、結合するのか。すぐに仮説通りの結果が出たわけではなく、3~4年の長期にわたって観察・検討を繰り返しました。

実験の過程で、意図的にfoxg1の働きを制御してみると、P-OによるRunx2の発現は見られませんでしたので、foxg1の発現が骨の形成のカギになり、P-O→foxg1→Runx2の経路メカニズムが明らかになることで、CPの摂取が骨の形成に役立つ裏づけの一つになるのです。

図2 P-O摂取による骨芽細胞活性化のメカニズム

コラーゲンペプチド摂取と骨への作用

多くの研究者によって、CP摂取が骨に作用することを動物実験・ヒト試験では明らかになっています。代表的なエビデンスを見ていきましょう。

①骨の吸収を抑制する1)

閉経後骨粗しょう症患者49人に対して、骨粗しょう症抑制剤「カルシトニン(Ctn)」とCP10g/日を24週経口摂取させ、骨吸収の指標となる「ピリジノリン(UPD)」「デオキシピリジノリン(UDPD)」「ヒドロキシプロリン(UHP)」の尿中排泄を評価した。

Ctn+CP投与群はCtn投与群と比較して、UPD値、UDPD値ともに減少し、骨吸収を抑制する作用があることがわかった。また、試験後の3カ月間、Ctn+CPを投与し続けたところ、指標の上昇は認められなかった(骨吸収が抑えられていた)。

②骨密度の減少を抑制する2)

骨減少症の閉経後女性39人をCP(5g)にカルシウム(500mg)+ビタミンD(200IU=5μg)を加えて毎日摂取するA群、対照群(カルシウム、ビタミンD同量摂取)に分け、試験開始時、6カ月、12カ月後に採決し、全身、腰部、股関節の骨密度を評価した。

12か月後の全身における骨密度減少量は対照群と比較して、A群の方が大幅に低かった。また、A群は試験6カ月の時点で、骨吸収の指標となる「スクレロチン」「酒石酸抵抗性酸性フォスファターゼ・アイソフォーム5b(TRAP5b)」の数値が対照群よりも有意に低下した。

③骨密度を増加させる3)

加齢による骨密度の減少が認められる閉経後女性131人を対象に、CP(5g)を12カ月間毎日経口摂取する群(66人)、プラセボ群(65人)に分け、12か月後の大腿骨、脊椎の骨密度を比較し、コラーゲンペプチド摂取の影響を検討した。


骨形成の指標となる「Ⅰ型プロコラーゲン-N-プロペプチド(P1NP)」の数値、大腿骨、脊椎の骨密度は、CP摂取群がプラセボ群に比べて増加した。骨吸収の指標となる「Ⅰ型コラーゲン-C-テロペプチド(ICTP)」の数値は、プラセボ群の方が増加した。

このように、多くの研究者が見出した成果によって、CPの有効性と摂取の妥当性が示されてきました。そして、私たちが発見したメカニズムによって、コラーゲンペプチドがなぜ骨に作用するかの一端を解き明かすことができました。

摂取効果とメカニズムの解明。この両面が明らかになっていることが「健康に寄与するCP」のあかしであり、世界中で親しまれている要因ともいえるのではないでしょうか。

私たちはさらに、筋肉や関節とコラーゲン摂取に関する研究を進めており、引き続きCPが持つ健康価値を高めていきたいと思っています。

【参考文献・資料】
・真野 博 : コラーゲン完全バイブル ~Collagen Perfect Bible~, p44-61,109-115 幻冬舎 (2011)

・K.nomura, Y.kimira, H.mano et al.:Collagen-derived dipeptide prolyl-hydroxyproline promotes osteogenic differentiation through Foxg1, Cell Mol Biol Lett22(27) (2017)

・K.nomura, Y.kimira, H.mano et al.: Stimulation of the Runx2 P1 promoter by collagen-derived dipeptide prolyl-hydroxyproline bound to Foxg1 and Foxo1 in osteoblasts, Biosci Rep22, 41(12) (2021)

1) M Adam et al.: Postmenopausal osteoporosis. Treatment with calcitonin and a diet rich in collagen proteins, Cas Lek Cesk135(3) 74-8 (1996)

2) M L Elam et al.: A calcium-collagen chelate dietary supplement attenuates bone loss in postmenopausal women with osteopenia: a randomized controlled trial, J Med Food18(3) 324-31 (2015)

3) D König et al.: Specific Collagen Peptides Improve Bone Mineral Density and Bone Markers in Postmenopausal Women-A Randomized Controlled Study, Nutrients10(1) 97 (2018)

4) Roland Moskowitz : Role of collagen hydrolysate in bone and joint disease, Semin Arthritis Rheum30(2) 87-99 (2000)

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真野博、君羅好史(城西大学) 文・構成:編集部

真野博(城西大学 薬学部 医療栄養学科 教授 / 農芸化学博士)
長年、コラーゲンペプチドの運動器への作用に関する研究を進め、数多くの研究成果を残した。日本におけるコラーゲン研究の第一人者。

君羅好史(城西大学 薬学部 医療栄養学科 助教 / 食品栄養学博士)
東海大学体育会から東京農業大学大学院へ進むと研究者へ転身し、多くの研究に携わる。真野教授とともにコラーゲンが持つ作用の真相究明にあたる。