日米ニュートリション対談では、日米の栄養関係者が毎回テーマを決めて議論し、栄養に関する考え方・認識の違いなどから新しいことや知らなかった情報を得て、読者のみなさんに日常生活やスポーツ現場で生かしてもらおうという企画。
対談のホストを務めるのは、米国で管理栄養士の資格を取得し、スポーツ現場での栄養指導・サポートを行うアスリートフードコネクション代表・讃井友香さん。ゲストは、米国・カリフォルニア州で個人向けの栄養コーチング事業を行っているエミリー・ゾーンさん。
第2回目は、関心の高い「炭水化物」「糖質」について議論してもらいました。「糖質」の文字があふれかえる日本と異なり、一部の人しか糖質を気にしない米国。日本における糖質の考え方はマーケティング・消費者への刺激、教育環境で米国とはかなり違いがありそうです。どちらの考え方も間違っておらず、もしかしたら米国式の方が肌に合う人もいるかもしれません。
「炭水化物」は重要でホットな話題
讃井友香(以下、讃井):今回は、そうですね~。スポーツ選手にとって必要不可欠といえる「炭水化物」について議論しましょうか。
エミリー・ゾーン(以下、エミリー):いいですね。クライアントの中ではホットトピックですよ。
讃井:炭水化物について、話さない人っています?(笑)
エミリー:私のクライアントの中で、炭水化物について関心のない人はいないと思います。そのくらい、みなさん気にしているし、知りたがっています。何かしらの炭水化物に関する情報をインターネットからも得ていますね。「炭水化物の種類」「どの炭水化物の食材がいいのか(ダメなのか)」「炭水化物は太る」とか。
讃井:では、炭水化物のトピックをクライアントが持ち込んできた時、どのように答えるんですか?
エミリー:そうですね。最初は、炭水化物についての知識を少しずつ分解していきます。というのも、「炭水化物を摂ると太る」と思い込んでいる人がとても多いからです。まず「炭水化物は自分の体のエネルギー」ということを伝えます。脳はほとんど炭水化物を使用して“機能”していて、体は炭水化物が必要で好んでいるということを伝えます。
それを理解してもらえたら、次は炭水化物の種類と違いについて話します。一番健康的な炭水化物やそんなに健康的ではない炭水化物の違いや食材例についても話していきます。多くの米国人は炭水化物と聞いたら、パン、ごはん(米)、パスタ、ジャガイモを思い浮かべると思いますが、それ以外の物にも炭水化物が含まれていることを理解していない人がホントに多いんです。
例えば乳製品とか、果物とか、根菜類などの野菜、とうもろこし、グリーンピース…それらの例を挙げながら「炭水化物はたくさんの食材に含まれている物なんだよ」「とうもろこしやグリーンピースはヘルシーだし、フルーツだって健康的でしょ!」と話すと、「あ、もしかしたら炭水化物はそんなに悪いヤツではないのかな?」と、クライアントも気づいてくれます。炭水化物は敵ではなく、体に良い物として捉えられるようにイメージを変えていきます。
讃井:とても素晴らしいですね。日本でも炭水化物に対して同じような文化がある気がします。炭水化物とか糖質とかはなるべく避けようという暗黙のメッセージがありますね。だから、低糖質商品や低糖質デザートは、スーパーなどへ行くとよく目にします。
この点で、日本に帰って来て気になったのは、米国では炭水化物(Carbohydrates)のことを略してカーボ(Carbs)といいますが、日本では避けたい炭水化物のことを糖質(Net Carbs)といいます。
さらにいえば、炭水化物は、糖質と食物繊維に分けて教育されているようで、中でも糖質はダイエット時に避けたい炭水化物として認識されるようになりました。「(低)糖質」を全面に出した商品やCMなどばかりで、外に出ると糖質だらけです(笑)。
エミリー:へぇ~、それはすごく興味深いですね。米国で「糖質」という言葉を使用するのは、ケトジェニックダイエットをしている人たちだけです。この人たちにとって、糖質の摂取量はすごく重要ですからね。でも、米国人のほとんどは糖質について話さないし、誰も食物繊維が炭水化物っていうこともわかっていないと思います(笑)。すごく面白いですね。
讃井:そうなんですよ。私も最初に日本へ帰って来た時に、たくさんの低糖質商品を見たり、いろんな人が糖質について話したりしていたので、「糖質ってなんだろう?」「炭水化物とどう違うんだろう?」って思いました。
それで調べたら、炭水化物は食物繊維と糖質に分けられると書いてあり、私が学んだ栄養学と全然違うことにとてもびっくりしました。米国ではどんな感じで学びましたか?
エミリー:米国のベーシックな栄養クラスでは以前、「Simple Carbohydrates」と「Complex Carbohydrates」についての話題が多かったようです。でも、それから15〜20年経った今、私たちの世代ではそんなにフォーカスはしていません。
Simple~ は基本、Sugarを意味します。名前の通り、シンプルな分子なので、すぐに体で消化されてエネルギーになります。例えば、蜂蜜、シロップ、砂糖など。果物にもあります。一方で、Complex~はもう少し長い分子なので、体の中で消化されるのに少し時間がかかります。
どうして私がこのコンセプトを使っていないかというと、Simpleで例に挙げた果物。果物にはSimpleが含まれていますが、食物繊維もしっかり含まれているから、Complexともいえる。それ以外にも白米はスターチ(でんぷん)が含まれているからComplexだけど、食物繊維は少ないからSimpleともいえる。Simple とComplexの違いに関してはあいまいなところがあるため、少し混乱を招きやすく、自分でもわからなくなる時があります。
讃井:なるほど。確かにちょっとこのSimple / Complexの炭水化物のコンセプトは混乱しやすいですね。日本ではどうして炭水化物は糖質と食物繊維という分け方をするのか。自分なりに考えてみたのですが、日本の栄養学は「食べ物からの栄養」というよりも、「食べ物からの栄養素」について学んでいるからではないかと思いました。
確かに日本で教わる糖質と食物繊維のコンセプトの方が正しいし、白黒はっきりしていてわかりやすいのかもしれないけど、実際「糖質だけの食べ物」と「食物繊維だけの食べ物」で区切ることは難しいですよね。
エミリー:そうかもね。食べ物にはそれぞれ、いろいろな栄養が詰まっているものね。
讃井:食べ物の中身が白黒はっきりしてないからこそ、私にはこのSimple / Complexのコンセプトの方が食べ物に焦点を当てていると思うんです。だから、「Aは消化が早くてすぐにエネルギーになる」「Bは消化が遅いからエネルギーを長く与えてくれる」ということにフォーカスできるのかなと思いました。
私がスポーツ選手にコーチングする時は、Simple / Complexのコンセプトをベースに3つの種類に分けています。①糖質、②精製穀物、③全粒穀物。これらの食べ物は体にどのようにエネルギーを与えるのかということを説明して、糖質・食物繊維のコンセプト、またSimple / Complexのコンセプトよりももっと自分的に理解しやすい方法で伝えています。
エミリー:なるほど〜、それはすごくわかりやすいですね。もしも、私が子供だったらその考え方で教えて欲しかったな(笑)
讃井:ありがとう(笑)。 今回、日本のことを説明しましたが、やはり日本の食品ビジネスや栄養においては「栄養素」に集中しすぎていて、食べ物との統合ができていないケースが多々あるかと思います。
最近では低糖質食品やゼロカロリーが流行っているけど、栄養表示を見るとゼロカロリーって書いてあるのに炭水化物が20g、そして食物繊維も20g入っていて、結局糖質量を0にしてある物もよく見ます。
エミリー:へー! そんなことするんですね。聞いていると、何となく日本はフードサイエンスがとても進んでいる国って感じますね。いろんなホールフードにわざわざ人工的にいろいろな物を入れるなんて、とても興味深いですね。
讃井:そうなんです。米国にもそういった商品はあったけど、日本のようにここまでバラエティに富んでいるのにはびっくりしています。あっと、時間が来たので、今回はこの辺で。次回は引き続き、「炭水化物と糖質」について議論していきましょう。
Yuka Sanui & Emily Zorn
讃井 友香(米国Registered Dietitian:管理栄養士)、アスリートフードコネクション 代表
小学生の頃から米国で過ごし、オハイオ州立大学卒業後にRD取得後、コロラド州立大学大学院でスポーツニュートリションの世界へ進む。東京五輪では7人制ラグビー米国代表のリエゾン・栄養サポートを担当した。スポーツ栄養の本場で培った知識と経験を生かし、海外の最新エビデンスを発信できるプラットフォームを作るため、日本で同社を設立。世界とのネットワークを使って、日本のスポーツ栄養界を盛り上げていく。
Emily Zorn(米国Registered Dietitian:管理栄養士)、EMILY RD NUTRITION COACHING 代表
シカゴ・カブス、カレッジスポーツで栄養サポートを担当。現在はカリフォルニア州で「EMILY RD NUTRITION COACHING」を設立し、スポーツ選手を含め、一般の人を対象に栄養コーチングを行っている。