2月26日、「国際スポーツ栄養学会(ISSN) 東京大会」がオンラインで行なわれ、 「サプリメントの効果と安全性」をテーマに海外のスポーツニュートリション関係者がグローバルスタンダードな視点から基本的な考え方や最新知見などを披露した。

アーニー・フェルナンド氏は米国陸軍士官学校出身で兵士・パイロットとして軍に所属。軍除隊後、フロリダ州立大学で栄養生理学博士を取得し、NASA所属時にはタンパク質の代謝と宇宙生理学を専門に研究した。スポーツニュートリションのみならず、高齢者のタンパク質代謝の研究を専門に行うなど、多くのニュートリション関連プロジェクトに参加しているアミノ酸研究のスペシャリスト。

フェルナンド氏は講演でEAA研究の成果に加え、新しく開発した食品素材「EAAlpha」について、エビデンスを交えながら機能性を解説した。ここではポイントとなるエビデンスをいくつか紹介する。

筋肉の合成とEAA摂取の相関

筋肉の合成と分解は、常に状態や構成が状況に応じて変化する(ターンオーバー)。ターンオーバーこそが健常で機能性のある組織を構成することにつながる。したがって、ある状況では、合成が分解を上回り、またその逆が起きることも頭に入れておく必要があると、フェルナンド氏は説明している。

空腹時や代謝ストレス(栄養不足など)下では、分解の方が合成よりも大きくなり、筋肉の中ではBCAAなどが失われている。この時、血中にアミノ酸を供給(アミノ酸を摂取)することで、分解プロセスから合成プロセスに移行し、ターンオーバーを促進することになる。フェルナンド氏ら専門家がおこなった長年の研究によって、筋タンパク合成・ターンオーバー(分解・合成の繰り返し)と筋力に相関があることがわかっている。

EAA(Essential amino acied:必須アミノ酸 )はイソロイシン、リジン、ヒスチジン、フェニルアラニン、ロイシン、トリプトファン、メチオニン、トレオニン、バリンの9種類のアミノ酸をいう。「必須(Essential)」と定義づけられているように人体では合成できず、経口摂取などで補う必要がある。

筋タンパク合成に非必須アミノ酸が必要なのか(EAAのみが関与するのか)を確認するため、高齢者を対象に基礎研究1)が行なわれている。健常な高齢者をEAA18 gを摂取する群(EAA群)とEAA18g+非必須アミノ酸22gのバランスアミノ酸混合物40gを摂取する群(BAA群)に分け、10分ごとに3時間経口摂取させ、筋タンパク質代謝の反応を比較検討した。

その結果、BAA群はEAA群よりも2倍以上のアミノ酸を摂取しているにもかかわらず、EAA群と比較して筋タンパク合成作用に関する指標が改善されなかった。このことから、EAAが持つ作用、もしくは一部の作用によって筋タンパクの合成が促されることが明らかになった。このデータを基に、フェルナンド氏ら専門家はEAA摂取と運動(トレーニング)、筋合成との関連、新素材「EAAlpha」の開発につなげていく。

EAAの最適な摂取タイミングと利用効率

フェルナンド氏は、筋タンパク質のネットバランス(合成量と分解量のバランス:+なら合成優位、-なら分解優位)とアミノ酸/プロテイン摂取、運動との関連性を研究データを用いて解説。空腹時(安静時)、レジスタンス運動のみの場合は-(分解優位)だが、アミノ酸/プロテイン摂取のみの場合は+(合成優位)に転じ、運動と組み合わせることでさらなる相互作用がみられる2)ことを示した。

これらの結果は栄養摂取と運動の効果を示すものだが、フェルナンド氏は加えて、摂取する栄養による利用効率についても検討している。フェルナンド氏の研究によれば、フリー体(液状)のEAA12gを摂取した場合、カゼイン20g、ホエイ20gを摂取した時と比較するとそれぞれ2倍近く効果が上がり、消化・吸収にも優れていると説明した。

また、利用効率の高いEAAをどのタイミングで摂取するのがいいかの調査も行われており、健常の男女にレッグエクステンションやレッグプレスなど脚のレジスタンス運動を行う直前、運動直後、運動の1時間後にフリー体のEAAをそれぞれ摂取してもらい、筋タンパク合成の作用効率を比較した3, 4)。その結果、運動直前に摂取した時に筋合成の指標となるフェニルアラニンの吸収などがその他の摂取タイミングよりも劇的に大きいことが確認された。

フェルナンド氏は、運動直前にEAAを摂取することで、運動によって血流が上昇するタイミングでEAAを最大現供給する(利用効率を高める)ことになり、筋タンパクの合成に役立つとしている。また、運動直前の摂取は、運動直後、運動の1時間後摂取よりも、2倍以上の効率が図れるとの見解を示した。

高齢者の筋タンパク合成とEAA摂取

フェルナンド氏は、専門領域でもある高齢者のEAA摂取と筋量増加の可能性にも言及している。高齢者が若い世代と同じ筋量を得るためには2倍以上のたんぱく質の摂取が必要ということがわかっている5)。これは、加齢によってアミノ酸やたんぱく質を筋肉に合成(変換)する力が弱まっている(アナボリックレジスタンス)ことが影響している。

研究者らはEAAとロイシンの混合物を使用して、高齢者と若い世代の筋タンパク代謝に関する比較研究6)をおこない、アナボリックレジスタンスに対抗しうる栄養摂取方法の検討をした。「ロイシン強化EAA①(全体におけるロイシン含有量26%:1.7g)」6.7gを高齢者・若い世代に、「ロイシン強化EAA②(全体におけるロイシン含有量41%:2.8g)」6.7gを高齢者・若い世代にそれぞれ摂取させ、筋タンパクの合成速度やネットバランスなどを観察した。若い世代では①②で差はみられなかったが、高齢者では②を摂取した群で合成速度の増加がみられたため、食事の中でロイシンの割合を増やすと、高齢者でも筋タンパクの合成を促進させる(合成効率の減衰を抑える)可能性が示唆された。

この研究を踏まえて、60歳以上の健常者に高濃度EAA11gを1日2回食事の時に摂取してもらい、除脂肪体重、脚の最大筋力、身体機能など16週間観察した7)。脚の筋力は8週間後に最大に達し、以降最高値をさらに更新・維持している(以下、各図を参照)。また、歩行速度は8週間後から上昇し、16週後まで維持され、ステップテスト(踏み台昇降)にかかる時間も週を追うごとに短縮されていった。さらに、床に座った状態から立ち上がるのに要する時間は、8週後には1.5秒短縮し、16週後には顕著に短縮された。

この結果から、EAAの摂取(栄養摂取)と1日を通じた運動による刺激が高齢者の除脂肪体重の増量、身体機能を向上させることにつながり、サルコペニアやフレイル対策など健康を保つためにも有用であることが示された。

少量の摂取で効果が高められる新素材「EAAlpha」

フェルナンド氏がこれまでの研究を基に開発した新しい食品素材「EAAlpha」は、EAAの持つ栄養成分や機能性を強化させたうえで、利用効率を従来のEAAよりもさらに高めたものだ。また、少量の摂取でも効果が見込め、体への負担も少なくなるため、スポーツ選手はもちろん、高齢者にも当てはまる汎用性の高い画期的な素材といえる。

EAAlphaは特許を取得しているため、配合できる商品は限られる。つまり、多くの商品に採用されるわけではなく、その機能性を生かした処方を組める商品(企業)に配合することを許諾するので、商品価値・希少性は必然的に高くなる。パッケージなどに「EAA配合」と表記されている商品とは全くの別物で、当然機能性も変わってくる(強化される)。自分が求める効果が何かをきちんと把握し、機能性やエビデンスを理解したうえで、商品選びをする必要がある。

【引用文献】
1) Elena Volpi et al.:Essential amino acids are primarily responsible for the amino acid stimulation of muscle protein anabolism in healthy elderly adults, Am J Clin Nutr., 78(2) 250-8 (2003)

2) G Biolo etal.: An abundant supply of amino acids enhances the metabolic effect of exercise on muscle protein, Am J Physiol273(1) 122-9 (1997)

3) B B Rasmussen etal.: An oral essential amino acid-carbohydrate supplement enhances muscle protein anabolism after resistance exercise, J Appl Physiol88(2) 386-92 (2000)

4) K D Tipton etal.: Timing of amino acid-carbohydrate ingestion alters anabolic response of muscle to resistance exercise, Am J Physiol Endocrinol Metab281(2) 197-206 (2001)

5) Daniel R Moore etal.: Protein ingestion to stimulate myofibrillar protein synthesis requires greater relative protein intakes in healthy older versus younger men, J Gerontol A Biol Sci Med Sci.70(1) 57-62 (2015)

6) Christos S Katsanos etal.: A high proportion of leucine is required for optimal stimulation of the rate of muscle protein synthesis by essential amino acids in the elderly, Am J Physiol Endocrinol Metab291(2) 381-7 (2006)

7) Elisabet Børsheim etal.: Effect of amino acid supplementation on muscle mass, strength and physical function in elderly, Clin Nutr27(2) 189-95 (2008)

スポトリ

編集部