虫歯予防に効果的な「フッ素」とは?

フッ素は歯を丈夫にする有効成分として知られていますが、自然界に存在するミネラル成分で天然の元素です。土壌や海水中だけでなく、土壌で育つ農作物、海中に住む魚介類や海藻類にも含まれています。それらを食べて育つ動物の体内にも、もちろん私たち人間の体の中にも必須元素として歯や骨を中心に含有されています。

食品の中では、特に茶葉や乾燥した海藻、小魚の干物などが多く含んでいることが知られています。

このように普段の食事を通して自然に摂取されているフッ素成分ですが、虫歯予防のために十分なフッ素を食事のみから得ることはできません。

ですから、フッ素入り歯磨剤で歯磨きしたり、フッ素入り洗口液でうがいしたり、歯科医院でフッ素塗布をしてもらうなど、様々な方法で効率的にフッ素が歯に取り込まれるようにする必要があります。

フッ素はどれくらいの濃度で使用されている?

市販されている大半の歯磨剤商品にフッ素は含まれていますが、参考として市販されている子供用歯磨剤のフッ化物イオン濃度を挙げると、100ppm・500ppm・950ppmなどとなっています。

ppmは見慣れない単位かもしれませんが、1ppmは100万分の1を意味します。つまり10000ppmでようやく1%になりますので、非常に小さな量を表す単位としてよく使用されています。

厚生労働省の資料によりますと、2017年より歯磨剤に含まれるフッ化物イオン濃度の上限が1000→1500ppmに変更され、より高濃度のフッ素による虫歯予防効果がさらに期待されるようになりました。しかし、安全性などを考慮して、6歳未満の子供には1000ppm以下が望ましいとされています。

図1は、私が診療室で使用しているフッ素塗布剤で、濃度は9000ppmもあります。医療用なので、非常に高濃度です。安全面に配慮しながら、歯ブラシでブラッシングするなどして子供の患者さんの歯に擦り込んで活用しています。

図1 歯科医院のフッ素塗布剤の例

フッ素が歯を丈夫にするメカニズム

歯のエナメル質は、人体の数ある組織の中で最も硬く、骨よりも丈夫な構造を持っています。

その主成分は「ハイドロキシアパタイト」というCa(カルシウム)やP(リン)などを含む結晶成分です(図2)

フッ素が取り込まれることで、フルオロアパタイトというより緊密で強固な結晶構造に変化します。その結果、虫歯菌によって産生された酸(歯を溶かす酸)に対する抵抗性が高まり、虫歯予防により効果を発揮するようになります(耐酸性の向上)。

フッ素は歯質が軟らかいほど取り込まれやすい性質があります。ですから、子供の乳歯や幼若永久歯(萌出して間もない永久歯)はフッ素が非常に取り込まれやすいので、この時期にフッ素を効果的に使用することは虫歯予防にとって望ましいものです。

図2 歯の構成成分とフッ素の役割

フッ素の社会的活用

子供の虫歯には大きな地域格差がありますが、これは地域の社会環境や生活環境の違いによります。

厚生労働省の3歳児歯科健康診査における都道府県別虫歯有病率の推移を見ると、都道府県全体としては大幅な減少傾向にありますが、北海道や東北地方、九州地方などで高い有病率を示し、東京都や愛知県などの都市部で低い水準となっています。

具体的なデータを比較してみると、2021年に全国で最小であった東京都に対して最大の沖縄県では、およそ3倍もの格差が認められ、2003年のデータよりも格差の拡大が認められました(図3)。

図3 東京都と沖縄県の虫歯有病率の推移

しかし、虫歯を予防するために適した生活環境を作り出すことで、虫歯になりにくくさせることが可能となります。

一部の地域では、小学校でフッ化物洗口剤によるうがいをできる環境にしており、実際に虫歯罹患率が減少するという成果が認められています。

およそ20年にわたって12歳児の虫歯数が全国で最少となった新潟県は、1981年に全国に先駆けて「むし歯半減10か年運動」を開始するなど、行政や県歯科医師会、大学、教育委員会等が一丸となった積極的な取り組みで知られています。

フッ素でのうがいは現在、9割以上の小学校で実施されており、文部科学省の令和2年度調査によると、新潟県における12歳児の虫歯数は全国で最も少なく、0.3本でした。

個人でフッ化物洗口剤という生活習慣を何年も続けていくのは難しいですが、フッ化物洗口を実施している小学校では、どのような家庭の子供でも学校に行きさえすれば、虫歯予防の生活習慣を送ることができるという大きな利点があります。

以上のように、虫歯予防には個人レベルの歯磨きだけでなく、フッ素を活用した家庭や学校、地域での積極的な取り組みなどが必要であり、それを推進する国の動きにも期待したいですね。

【参考文献・資料】
・厚生労働省 : フッ化物を配合する薬用歯みがき類の使用上の注意について (2017)
・厚生労働省:3歳児歯科健康診査(2003年,2021年)
・文部科学省:令和2年度学校保健統計調査

島谷浩幸(歯科医師・歯学博士/野菜ソムリエ)

1972年兵庫県生まれ。堺平成病院(大阪府)で診療する傍ら、執筆等で歯と健康の関わりについて分かりやすく解説する。
大阪歯科大学在籍時には弓道部レギュラーとして、第28回全日本歯科学生総合体育大会(オールデンタル)の総合優勝(団体)に貢献するなど、弓道初段の腕前を持つ。

【TV出演】『所さんの目がテン!』(日本テレビ)、『すこナビ』(朝日放送)等
【著書】『歯磨き健康法』(アスキー・メディアワークス)、『頼れる歯医者さんの長生き歯磨き』(わかさ出版)等
【好きな言葉】晴耕雨読
【趣味】自然と触れ合うこと、小説執筆
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