膝関節はどのような構造をしているか

図1 膝関節の構造

今回は、膝関節(軟骨)とコラーゲンペプチド(CP)について解説します。まずは、膝関節がどのような構造になっているかを考えてみましょう。

膝関節(図1)は大腿骨(太ももの骨)と脛骨(すねの骨)をつなぐ重要な役割を持ち、突き出した関節面(関節頭)と窪んだ関節面(関節窩)がちょうど凸凹のようになることで安定性をもたらし、さまざまな動きを可能にしています。

それぞれの骨の関節面を守るように覆われ、骨同士が滑らかに動くようにするのが「(関節)軟骨」で、膝への負担を軽減するためのクッションのような役割を担っています。軟骨は、水分・コラーゲン・グルコサミン・コンドロイチン・ヒアルロン酸で構成されています。

軟骨は「骨」の字が使われているので硬いイメージを持たれるかもしれませんが、実際は全く逆の性質を持っています。骨芽細胞で作られ、カルシウムが石灰化してしなやかで丈夫な形状をしています。一方、軟骨は軟骨細胞で作られ、構成成分からもわかるように硬くならない性質があるので、同じ骨でも全く違う物なのです。

老化によって軟骨細胞の活性が衰えていくと、軟骨が硬くなって(石灰化)、すり減りやすくなったり、軟骨が作られずに薄くなったりして膝関節にはいっそう負担がかかります。そうなると、骨と骨が直接触れ合ってしまうことでクッションの役割が果たせなくなり、変形性膝関節症(OA:Osteoarthritis)など痛みや腫れを伴う症状をひき起こします(図2)

図2 変形性膝関節症(OA)の症状

肥満、膝に負担のかかる運動をする人(スポーツ選手)や仕事をしている人、過去に関節を支えるじん帯や半月板のケガをしている人は、軟骨がすり減りやすい傾向にあるといえます。

さまざまな原因で軟骨が“弱く”なって、痛みなどの症状が出た場合、薬による鎮痛と治療の2つの点から対処法が用いられています。鎮痛に関しては、発熱や痛みをひき起こす「プロスタグランジン」の合成酵素を止める薬などを服用して対処することになります。

治療として用いられるのは、ヒアルロン酸など軟骨を構成する成分などを直接投与して不足分を補い、物理的に軟骨を“強く”します。よく女性が肌の張りを取り戻そうと、ヒアルロン酸を皮膚に注射していますが、それと同じ理屈です。

膝関節の痛みや違和感がある人に対しては、10年くらい前から「CPの摂取が有効」と叫ばれるようになってきました。私たちがおこなったヒト試験の結果や周囲でも、体感として痛みがすぐに引く(即効性がある)という声は多く聞かれています。

体感として効果が見込まれているCPですが、実は「なぜ痛みに効くのか」についてまだ明らかになっていません。メカニズムが明らかになると、CPの摂取効果はより根拠のあるものになり、薬ではない食品で“治療”できれば、安心・手軽に痛みのある人たちの助けになると考えています。

CP摂取がなぜ関節にいいのか?(メカニズム仮説)

私たちは、多く聞かれる体感の効果を踏まえて「CPを摂取して膝の痛みがすぐに治まるということは、軟骨自体を治す(軟骨の状態を改善させる)機能があるのではないか?」と仮説を立て、メカニズムの解明に取り組んでいます。まだ研究の最中ですが、途中経過をここで少し紹介したいと思います。

前回、CPを摂取することで、体内で活性化されたCP「P-O」が骨芽細胞を活性化させるシグナルになると解説しました。軟骨細胞にもP-Oが関連すると考えていて、骨芽細胞でいう「foxg1」、「Runx2」のように、P-Oと結合することで軟骨細胞が活性化する因子がありそうだというところまでは突き止めています。

軟骨細胞でいえば、軟骨の形成に必要とされる「SOX9 (SRY-box9)」がカギになると考えていて、P-Oとの結合が確認できればメカニズムの解明が進むと思っていました。核心に迫るまではもう少しの所まできており、現在も検証しているところです。

次に、軟骨細胞が私たちの体では珍しい「酸素が届かない組織」であることから、低酸素状態に陥ると活性化する転写因子「HIF(Hypoxia Inducible Factor)1α」に着目しました。骨芽細胞の場合、P-Oは血液を通じて全身へ行き渡り、活性を促しますが、軟骨は酸素が届かない組織なので、伝達経路は骨芽細胞とは異なる、別のメカニズムになると予想できます。

まず、P-OとHIF1αの関連性を解き明かすために、低酸素の状態で軟骨細胞を培養し、ヒトの関節に近いものを再現しました。そこにP-Oを加えると、HIF1αが反応するため、どうやら関連がありそうです。

HIF1αには、アミノ酸「プロリン残基」が存在しています。CPの構成成分の一つ「P(プロリン)」ですね。Pが水酸化されると「O(水酸化プロリン)」に変化します。PからOに変わる過程でHIF1αの活性が上下するというデータが出ていますので、P-Oが軟骨細胞の活性を調節している可能性があります。

摂取効果の測定も、メカニズムの解明も長期にわたるもので、想定した成果が出るとは限りません。地道に試験を繰り返し、根拠を見出すしかないのです。他にも要因はあると思いますが、P-O→HIF1α→SOX9のつながりが確認できれば、膝関節の痛みや違和感の改善が見込めるCP摂取の妥当性を示せると考えています。

【関連記事】
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膝関節の改善とCP摂取の妥当性

CPと膝関節の痛みに関する摂取効果は、世界中の研究者の成果によってどんどんデータが蓄積されています。ここでは、代表的なエビデンスについて紹介していきます。

①膝関節の痛みを軽減1)

米国、ドイツ、英国の3カ国で、変形性膝関節症患者45~80歳386人を対象にCP摂取による無作為化二重盲検プラセボ対照試験※)を実施。被験者をプラセボ群とCP10gを毎日摂取する群に分け、2、4、8、12、16、20、24週時にWOMACスコア(痛みや機能を客観的に評価)を測定、両群を比較した。

全体として、CP摂取群はプラセボ群と比較し、20~40%痛みの改善があることが示され、重度の患者92人(CP摂取:52人、プラセボ摂取:40人)では疼痛スコアによる有意差が顕著だった。同試験では、患者による副作用の発生はなく、CP摂取による安全性も示された。

※)被験者をランダム(無作為)に抽出し、被験者も試験実施者もどちらの試薬を摂取したかわからない状態(二重盲検)で、プラセボ群とCP摂取群との間で比較対照する。

②OA患者の症状緩和2)

40~75歳男女のOA患者191名をそれぞれ、CP(40mg)摂取群、グルコサミン+コンドロイチン(GC群、グ:1500mg、コ:1200mg)摂取群、プラセボ群に分け、180日間毎日投与した。OA患者の状態を評価する「WOMAC(Western Ontario McMaster Universities Osteoarthritis Index)」を用い、180日後の数値から群間評価した。


試験の結果、総合的なWOMACの数値についてCP群は、GC群、プラセボ群と比較して有意に低下した。また、「疼痛」「関節のこわばり」「身体機能」についてCP群は、プラセボ群と比較して有意差が確認された。

③運動習慣のある若年成人における膝関節の痛み軽減4)

「週3時間以上の運動」「過去18カ月以内に運動に伴う膝関節痛あり」「過去6カ月間、グルコサミン、コンドロイチン、ヒアルロン酸、コラーゲン製品の関節内注射をしていない」などの条件に合致した健康な18~30歳の男女180人を対象に、CP(5g)摂取群、プラセボ群の2群に分け、12週間後の膝関節の状態を評価した。

痛みの強度指標「Visual Analog Scale(VAS)」を用いて評価された数値と医師の診断から、運動中、運動後の膝関節の痛みの減少度合いはプラセボ群と比較して、CP群の方が有意に高かった。

④スポーツ選手の活動性膝関節不快感(違和感)改善3)

ドイツ・フライブルク大学が、18~30歳でスポーツ活動をしている男女160名を対象に試験を実施。被験者をCP摂取群、プラセボ群に分け、それぞれCP、プラセボを1日5g、12週間させ、VAS、医師の診断から運動中の疼痛強度の変化などを観察した。

その結果、CP摂取群はプラセボ群に比べて、運動時の疼痛強度が有意に改善されることがわかった。安静時における痛みの軽減、関節可動域の向上については、両群で有意差は出なかった。


試験に先立っておこなわれた医師による診断・アンケートから、被験者の47%が運動中に膝の痛みを感じており、そのうち22%は、膝の痛みが運動時に発生し、90分間痛みが引くことがないと回答している。また、被験者の58%は両膝に痛み・不快感を覚えていることもわかった。


競技別では持久系スポーツ(時速8~12km/hで走るランナー)で膝の痛み・不快感を覚えている声が圧倒的に多く、次いでチームスポーツ(サッカー、ラグビーなど)、自転車競技が続いた。


活動性膝関節不快感:身体活動中の膝への過負荷や誤った負荷の結果として発症する非構造的な膝の不定愁訴

【参考文献】
1) R W Moskowitz : Role of collagen hydrolysate in bone and joint disease, Semin Arthritis Rheum., 30(2) 87-99 (2000)

2) James P Lugo et al.: Efficacy and tolerability of an undenatured type II collagen supplement in modulating knee osteoarthritis symptoms: a multicenter randomized, double-blind, placebo-controlled study, Nutr J, 29(15) 14 (2016)

3) Denise Zdzieblik et al.: The Influence of Specific Bioactive Collagen Peptides on Knee Joint Discomfort in Young Physically Active Adults: A Randomized Controlled Trial, Nutrients, 13(2) 523 (2021)

4) Denise Zdzieblik et al.: Improvement of activity-related knee joint discomfort following supplementation of specific collagen peptides, Appl Physiol Nutr Metab., 42(6) 588-595 (2017)

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真野博、君羅好史(城西大学) 文・構成:編集部

真野博(城西大学 薬学部 医療栄養学科 教授 / 農芸化学博士)
長年、コラーゲンペプチドの運動器への作用に関する研究を進め、数多くの研究成果を残した。日本におけるコラーゲン研究の第一人者。

君羅好史(城西大学 薬学部 医療栄養学科 助教 / 食品栄養学博士)
東海大学体育会から東京農業大学大学院へ進むと研究者へ転身し、多くの研究に携わる。真野教授とともにコラーゲンが持つ作用の真相究明にあたる。